053話 人類のアドバンテージ
「……マスター、ちなみにザイノイドと人間の身体の、どちらが優秀かご存じですか?」
カズヤの発言が気になったのか、珍しくステラの方から問いかけてきた。
「もちろん、ザイノイドの方が優秀じゃないのか」
腕力も脚力もザイノイドの方が優れている。一般兵の攻撃くらいでは身体に傷がつかないし、何より疲れ知らずだ。
「たしかに戦闘力だけならザイノイドの方が優秀です。ただ、自己治癒能力や燃費に関していうと、人間の身体の方がはるかに優秀ですよ。
ザイノイドの身体の表面は自動再生金属を使っていますので、多少の傷なら自己修復できます。しかし、深く傷ついたり内部機構が傷つくと、交換するしかない部品の方が多いのです。生物である人間なら、致命傷で無い限り自己修復できますよね。
それに、動力源であるエネルギーコアは宇宙船で作り出すことができないので、備蓄した物しかありません。しかし、人間は食料だけで活動することができます。ですから、人間の身体の方を大事にする人がたくさんいました」
説明されると、たしかにカズヤも納得できることが多い。
ザイノイドは人間と似たような五感を使って外部を感じることができる。しかし、それはあくまでも似ているだけで同じではない。人間の感覚とは違っている。
空気の温度を感じることはできても、それがザイノイドの命の危険に直結することはない。
暑すぎても寒すぎても、情報として感じることができるだけだ。
耳の聴覚も向上した。今までなら聞き取れないような音や声を聞き取ることができる。
しかし、それは聞きたくもない音や声まで聞こえてしまうということだ。カズヤはあえて聴覚の機能を落としてもらうようにステラに頼んである。
何より、カズヤはザイノイドになりたくてなった訳ではない。人間の身体にはまだ未練を感じているのだ。
カズヤはステラの話を聞いて考え込んでしまった。
「……すみません。マスターは、自ら望んでザイノイドになった訳では無かったですね」
その様子を見たステラは、少し言い過ぎたと感じたようだ。気まずい雰囲気が辺りをおおう。
「なんだよ、大怪我が治ったんだから良かったじゃねえか。以前のカズヤも良かったけど、せっかく強くなったんだから頼りにしてるんだぜ」
バルザードは、何を悩むのかという風にカズヤを励ます。単純な考えかもしれないが、カズヤは少し元気づけられた。
たしかに考え過ぎかもしれない。せっかく命を拾ったんだ。この身体を使いこなしてやると決めたはずだった。
「そうだな。もっと皆の役に立てるように強くなりたいんだった」
カズヤは顔をあげて、にこりと笑った。
いつものカズヤの笑顔を見て、ステラとアリシアはホッとした。
※
「いつも俺様が訓練に使っている場所があるんだ。ついて来いよ」
訓練場へ向かうバルザードとアリシアの後ろを、カズヤとステラが付いていく。
エストラの街を出てしばらく進むと、街道の脇に人だかりが出来ているのが目に入った。
「あれは何をしているんだ?」
「あれは魔泉といって魔力が湧き出ている泉よ。魔力を回復することができるの」
アリシアが初めて聞くような単語を口にした。
「魔力って地面から湧き出ているのか!?」
「湧き出るだけじゃないんだけど、そういう場所が世界中にあるの。地下水のように、山や大地からの魔力が噴き出ている場所だと言われているわ。試しに触ってみる? 魔力の感覚が分かるかもよ」
自分に魔力があるか確かめられるかもしれない。アリシアの提案にカズヤは乗ってみた。
魔泉に着くと、そこは崖の隅っこで地面の上に大きな魔石が置かれている場所だった。
元の世界の大型テレビくらいの大きさで、石の中を怪しげなエネルギーが渦を巻いているのが見える。
自分の身体の中に魔石や魔力が無いと言われていたカズヤは、魔法を使うことを諦めていた。しかし、魔泉から魔力を感じられるようだと、可能性があるかもしれない。
期待をこめて、魔泉に触れてみる。
「どうですか、マスター?」
「やっぱり何も感じないや。ステラはどうだ?」
「普段は作動しないようなセンサーが反応しています。これが魔力なのかもしれません。魔力を調べるいい手がかりを見つけました」
やはり、魔力を感じないということは、カズヤに魔法が使える可能性は無さそうだ。
あらためて駄目押しされたようでがっくりとくる。
「魔力を持っていても、魔術ギルドと契約しないと攻撃魔法は使えないのよ。契約や継続するにも高いお金がかかっちゃうしね」
アリシアが魔術ギルドへの不満を、ため息混じりでこぼす。
その話は以前にも聞いたことがあった。
「もし、魔法契約を継続しなかったらどうなるんだ?」
「もちろん、魔法は使えなくなるわよ。魔術ギルドの本部には巨大な魔石があって、その魔石で情報を管理しているみたい」
魔石には、パソコンの巨大メモリーのような働きもできるようだ。魔法を使えないカズヤにとっては、関係ない話ではあるのだが。
ただ、この魔泉を見ていて、カズヤにあるアイディアが湧いてきた。
そのアイディアを、すぐさまステラに伝えてみる。
「……分かりました、やってみます。医療用のボットを流用すれば可能かもしれません」
「それが出来れば大きな収入源になるかもしれない。頼んだぞ!」
ひょっとしたら、エネルギー革命に匹敵するような大発見になるかもしれない。
カズヤの心に妄想が溢れてきて、心が浮き立った。
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