052話 カズヤの戦闘力強化


 新首都セドナの建築方法が決まったことで、アリシアには安堵の表情が浮かんでいた。



「建物のほうは何とかなりそうなのね。そういえば、エストラ市外の畑や畜産は崩落の影響を受けていないわ。農家の人達は今まで通りで大丈夫だと思うけど」


 もちろん、街の外で生活している人達まで無理に連れていく必要は無かった。



「問題がない人たちは今まで通りでいいよね。エルトベルクの主要な産業は何だったんだ?」


「農作物ね。畑を広げることを制限されていたから、豊かな収穫という訳にはいかなかったけど」



 エルトベルクの裕福ではない暮らしを見ていて、始めは国王が質素な暮らしを強いているのかと勘違いしていた時期もあった。


 今となっては、アビスネビュラの指示で農産物の増産が制限されていたことを知っていた。



「近隣の国と、食料や生活物資のやり取りはしていないのか?」


「基本的に生活に必要な物を他国に頼ることはないわ。どこの国や村でも自分たちで賄えるようになっているの。もし関係が悪化したら困るでしょう?」



 たしかに言う通りだ。他国との関係が悪化して必需品を止められてしまうと、一気に生活が危機に陥ることは目に見えている。


「魔物や盗賊の被害もあるし、商人が貿易で扱うのは、護衛をつけて運ぶような特産品や高級品くらいね」



 近隣と食糧のやり取りをしていないのは意外だったが、国内を賄うだけの食料や物資があるのだから良い知らせだ。


 ただ、移住となると通常と違ってたくさん必要になるので、自国内だけでは賄えなくなる恐れはある。




「エルトベルク全体で、食料の備蓄はどのくらいあるんだ?」


「冬がくるまでの食料はギリギリ大丈夫だと思うわ。ただ、大がかりな移住は考えてなかったから、この先足りなくなる可能性は高いと思うけど……」



 アリシアは申し訳なさそうな顔をして下を向く。


 アリシアが悪い訳では無いのだが、統治する者の一人として少なからず責任を感じているようだ。



「そうなったら、足りない分は他国から購入するしかないか。……やっぱり、ますますお金が必要だな」


「そうね、6万人もの人を動かす話だもの。……何か良い案はあるの?」



「いや、今のところはまだ無いんだ。何か新たな産業になるような物を考えないとな……」


 新たな首都を作るような大事業だ。資金はどれだけ沢山あってもいい。


 カズヤは新たな難題に頭を悩ませた。




 すると、アリシアが真面目な顔でカズヤを見つめてきた。


「あの、今さらといった質問かもしれないけど……。カズヤはこのままエルトベルクにいて大丈夫? アビスネビュラに命を狙われる危険性もあるのよ。なんだかカズヤたちを巻き込んでしまったような気がして」



 たしかに今さらな質問だった。


 なぜ、カズヤがエルトベルクに協力するのか。だがそれは、カズヤにとっては考えるまでも無いくらい当たり前の結論だった。



 まず、エルトベルクにはアリシアやバルザードといった仲間がいる。大切な仲間を放り出して、自分だけが逃げ出すことが想像できなかった。


 そして、アビスネビュラの仕打ちが許せないというのもある。罪のない住人の命をもてあそぶアビスネビュラは、カズヤの信条と比べても許せる存在ではなかった。


 それに、ザイノイドとなった今の自分なら、少なからずエルトベルクの役に立てるという自負心もあった。



「もちろん大丈夫だよ。アリシアやバルたちがいるし、アビスネビュラのやり方も許せない。お願いされて巻き込まれた訳ではないよ。自分の意志でエルトベルクの役に立ちたいんだ」



「……ありがとう。協力してくれるなら嬉しいわ。カズヤもステラも頼りにしてるからね!」


 すっきりとした顔で返答したカズヤを見て、アリシアは安心した表情に変わった。





 カズヤには都市計画以外にもやっておきたい準備があった。


 それは自身の戦闘力の強化だった。


 防御に関しては、ステラが設定してくれた自動防御のおかげで、大半の攻撃は無力化することができている。



 しかし、攻撃に関しては不安だった。カズヤは剣の振り方すら自信が無かったので、実際の戦闘では体当たりやパンチなど身体を使う攻撃が多かった。


 魔法の抵抗力が強い相手にはブラスターの光線が効かない場合もある。早いうちに、実剣での攻撃方法を学んでおきたいと思っていた。



「バル、俺に剣の使い方を教えてくれないか?」


「いいけど、俺様が得意なのは槍だから、剣を教えるのは上手くないぜ。実戦形式でよかったらいつでもできるが」



 カズヤの頼みに、バルザードがニヤリとしながら答えた。


「それでもいいから剣を教えてくれ。どこで教えてくれる?」



「カズヤとやるなら派手になりそうだな。街の外に出た方がいい。姫さん、カズヤと模擬戦しますけど、どうします?」


「私も一緒に魔法の練習をしようかしら。魔術ギルドには誰もいないし遠慮が無くなったから、独自の魔法を色々試してみたいわ」


 戦闘の準備にはアリシアも乗り気だった。



「せっかく人間の身体より優秀なザイノイドになったんだから、有効に活用した方がいいだろう? 剣の使い方くらい身につけないとな」


「……マスター、ちなみにザイノイドと人間の身体の、どちらが優秀かご存じですか?」



カズヤの発言が気になったのか、珍しくステラの方から問いかけてきた。

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