049話 ギルド行脚
二人が息のあった曲はとても軽快なリズムで、見ている人を笑顔にするような演奏だった。
曲の終盤に差し掛かって旋律が高まりあったかと思うと、二人は目で合図を送りあって同時に演奏を終えた。
市民から大きな拍手が送られる。
「ステラ、驚くほど上手だったわ! 本当に初めて弾いたの!?」
「アリシアが上手ですからね。真似をしただけです」
ステラが少しだけ照れくさそうにしているのを、カズヤだけが気付いていた。
にこやかな笑顔を振りまいて周囲の拍手に答えるアリシアと対照的に、ステラはどうしたらいいか分からずぶっきらぼうに突っ立っていた。
楽器を男性に返して礼を言い終わる頃には、人波は少しずつ無くなっていった。
「ああ楽しかったわ。ステラ、これからも時々一緒に弾いてみない?」
「暇で暇で仕方がない時なら。私はとても忙しいですから」
アリシアと目を合わせないようにステラが答えた。
※
「それじゃあ、やらなければいけない仕事があるから、ここからは私とバルくんで回るわ。カズヤたちは遷都事業の準備をお願いね」
そういうとアリシアとバルザードは、エストラの中心部に向かって歩いて行った。
アリシアの仕事とは、エストラに駐在する多くの団体を回って、遷都にあたっての理解と協力をお願いすることだった。
この世界には職業団体であるギルドが数多くあり、小さなものでは演劇や役者の芸能ギルドから料理人のギルドまであった。
しかし、アリシアが訪れる予定の団体は、国家をまたいだ影響力を持つ5つの大きな組織だった。
まず1つ目は冒険者ギルドだ。
アリシアやバルザードは普段から冒険者ギルドを利用しており、ギルド長とも気安く話ができる。
二人が冒険者ギルドを訪れて、遷都先のセドナ周辺やエストラからの道中での魔物退治の依頼を出すと、ギルド長は積極的に協力することを約束してくれた。
しかし、2つ目の魔術ギルドは真逆の対応だった。
この世界のほとんどの人には魔力が備わっていて、着火や水、風といった生活魔法を自由に使うことができる。
だが、炎や雷撃、防御魔法や能力上昇などの戦闘魔法を使うためには、魔術ギルドと契約をする必要がある。
少なくないお金を払って魔術ギルドと契約して、そのうえで教わった呪文を詠唱することによって初めて戦闘魔法を使うことができるのだ。
また、継続して使い続ける為にはお金を支払い続ける必要がある。
魔法使いであるアリシアは魔術ギルドにも所属しているのだが、魔法契約に批判的なアリシアはあまり歓迎されていない。
王族であるアリシアへの対応は表向きこそ丁寧だったが、その内容は非協力的だった。
「いったんエストラから引き上げるように本部から指示が来ています。しばらく魔術ギルドには職員がいなくなりますのでご了承ください」
そう告げると、ギルドの建物から二人を追い返した。
「あいつら、馬鹿にした態度をとりやがって。エルトベルクが小国だと思って舐めているのか」
「バルくん、落ち着いて。魔術ギルドの対応は予想できたわ。直接足を引っ張られないだけ、マシかもしれないから」
苛立つバルザードをアリシアは必死でなだめた。
そして数日後には、本当に全職員がエストラを後にしたという報告がきたのだった。
気を取り直してギルド巡りを再開する。3つ目は商業ギルドだ。
国家を股にかけて商売をしているので、今回の災厄は商業ギルドにとっては大きな痛手だった。崩落したエストラから離れようとする商会もあるかもしれない。
しかし、新しい首都を建設して移転するためには、莫大な食料や生活物資が必要だ。
商業ギルドはそこに商機を感じて、遷都を前向きに捉えて欲しいところなのだが。
「アリシア様のお話は承りました。本部への確認もありますので少しお時間をください」
商業ギルド長はアリシアの提案を算盤をはじきながら思案すると、検討するとだけ返答した。
商魂たくましい商人にとっては、アビスネビュラという黒幕には気が付かなくても、世界の流れに逆らおうとするエルトベルクの動きを、敏感に感じているかもしれなかった。
「奴らの打算的な態度は気に食わんな」
「遷都に必要な物資を頼みたかったんだけどね。商業ギルドの協力が無ければ、流通を自前で用意しなければいけないわ」
損得勘定が苦手なバルザードには、商業ギルド長の態度は腹立たしく感じられた。
4つ目に回ったのは職人ギルドだった。
今回一番乗り気になってくれたのが、この職人ギルドだ。新しい首都を建設するといったら、もろ手を挙げて歓迎してくれた。
住宅の建設や家具の製作など、彼らの力を借りることが多くなるはずだ。仕事が増えることを喜んだ職人たちが、張り切ってくれているのが伝わってきた。
しかし、一番難色を示したのが、5つ目のサルヴィア教のエストラ教会支部だった。
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