第2章 王国防衛編

046話 戦争


 カズヤは昼も夜も戦い続けていた。


 混沌とした戦場には火花と土煙が舞い上がり、地面は血で濡れている。ゴンドアナ軍の兵士は連携して攻撃を仕掛け、次々と迫ってくる。



 距離を取りながら落ち着いてブラスターで攻撃すると、敵兵が次々と倒れていく。魔法防御によりブラスターの光線が効かない敵が迫ってくると、至近距離まで近付けてから実剣で斬り倒した。敵兵が一人、二人と倒れていく。


 戦場でのカズヤは、この世界にたどり着いた時とは打って変わったように落ち着いていた。予期せず剣と魔法の異世界に転移したことは、引っ込み思案だった性格から開き直るきっかけを与えていた。



 思いがけずロボット人間として生まれ変わったことで、過去の自分を吹っ切ったような思い切りの良さも感じられる。ザイノイドになったことによる葛藤と苦悩は、カズヤの人間性に新たな深みを与えていた。


 くせっ毛混じりの黒髪はザイノイドでも再現されており、黒い目の奥には弱い者に対する優しさが隠れている。元の世界では取り柄が無いような平凡な人間だったからこそ、権力や武力によって虐げられる人たちのことは他人事では無いのだ。


 広く混沌とした戦場のなかで、カズヤの存在感は絶大だった。




 そんなカズヤの後方では、ステラによる強烈な援護射撃が飛んでいた。


 その光線はカズヤのブラスターよりも遥かに太く、桁違いの破壊力だった。戦場でもメイド服を翻しながらステラが構えるフォトンライフルは、身長よりもはるかに長くて大きかった。



 雷のような轟音を響かせて敵陣に降り注ぐステラの攻撃は、ゴンドアナ軍の兵士にとっては畏怖の対象でしかなかった。


 生まれながらのザイノイドであるステラは、人間を殺すことができない。ステラのライフルによるレーザー攻撃は、相手を麻痺させて攻撃不能になるように設定されている。



 ステラの華奢な細身と、青く短い髪は戦場でも目立っていた。青く水色がかった瞳はガラス細工のように繊細で、深い孤独と静かさを秘めていた。


 白く瑞々しい肌は機械仕掛けであることを感じさせないほど、きめ細やかで美しい。ステラの人形のような精巧な美しさに、心惹かれてファンになる兵士も多かった。



 指示が無いときはカズヤのそばで物静かに佇んでおり、時折見せる人間離れした冷静な言動をカズヤは頼もしく感じていた。


 地面の上を滑るように歩くステラの動きは優雅で、風に舞う花びらのように洗練されていた。




 別の戦場では、エルトベルク王国の王女であるアリシアが、幾重もの攻撃魔法を放っていた。


 アリシアの赤く暗い髪は、まるで夕焼けの空を思わせるかのように輝いており、風が吹く度に火の粉が舞っているかのようになびいていた。


 同じように深く赤い瞳は、燃えるような情熱を秘めていて、知性と愛情をあわせもった眼差しは、見る者の心をつかんで放さなかった。



 その美しい容姿に加えて、アリシアの品のある立ち居振る舞いや言葉遣いは、彼女が高貴な血筋であることを感じさせるものだった。


 アリシアの杖の先から複数の真っ赤な炎の塊が生まれると、風魔法に乗って敵陣へと降り注いだ。炎と風の魔法をかけ合わせた独自の魔法だった。着弾と同時に大爆発が起こり、敵兵の身体が空中に舞った。




 そして、そのアリシアの周りには護衛の兵士の輪ができている。その先頭では紫の毛に覆われたバルザードが、鬼神のごとき姿で立ちはだかっていた。


 バルザードは鋼のような堅固な肉体を持っている狼系の獣人で、身体のあちこちに戦場で受けた傷がついていた。その傷は彼にとって武勲や誇りの一つであり、威風堂々とした貫禄のある振る舞いに繋がっていた。



 バルザードは元Sランクの冒険者であったが、今はアリシア直属の護衛として専念している。猫のようなしなやかさで襲い掛かり、獅子のような力強さで敵を粉砕していく。戦場でのバルザードはまさに勇者であり、口からは覚えず獰猛な獣の唸り声が漏れていた。


 バルザードの足元にはすでに何人もの敵兵が倒れており、まさに獣のような攻撃で近付くものを全て薙ぎ払っていた。




 しかし、彼らの圧倒的な攻撃力がありながらも、二国間の兵力差は大きかった。


 2000人のエルトベルク軍の兵力に対して、ゴンドアナ軍は8000人以上の兵士を投入している。彼らがいくらゴンドアナ軍を倒せども、敵兵の数は一向に減らなかった。



 カズヤは単身で敵陣に突っ込みながら、何度も相手を蹴散らした。戦いで人を殺すのはこの戦争が初めてだった。



 カズヤの心は大きく乱れていた。

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