043話 暴かれる真相

 

 国王の近くにステラが駆け寄るのを確認すると、カズヤは用意した拡声装置を使って広場の観衆に語りかけた。



「みんな話を聞いてくれ! 今のテセウスの話は全て出鱈目だ。昨日の崩落は全てこのテセウスの仕業なんだ。それを止めようとしてくれた国王に、全ての責任をなすりつけようとしているだけなんだ!」


 もともと国民の国王への信頼は厚いのだ。カズヤの話を聞いた観衆は再び騒然とする。


 しかし、口で言われただけでは確信が持てないのか、いまいち反応が鈍い。



「そんな戯言で民衆を扇動しようというのか」


 テセウスが馬鹿にしたような表情でカズヤを見つめる。


「証拠か、証拠が欲しいなら見せてやるぞ」



 カズヤは再び拡声装置を握りしめる。


「みんな、これを見てくれ! テセウスが昨日、みんなを人質にして国王を脅しているところだ」



 観衆が注目する処刑台に、3階建ての建物くらいありそうな大きなホログラムのモニターが浮かび上がる。


 そこに、昨日のカズヤたちとテセウスの映像が流された。




 "”

「エルトベルクの領土を提供しないから、ゴンドアナ王国の侵攻によって奪ってやったのだ」


「増税を認めないので国王の私財を没収してやった」


「ゴンドアナ王国への出兵をしないので、代わりにアリシアを殺そうとしたのだ」


「アリシアの殺害を三度失敗したので、街を崩落させて住民を殺すことにする」


「この街全てが空洞の上に建てられている。指示に従わないなら更に街を崩落させてやるぞ」


 "”



 テセウスが国王を脅迫する姿が大画面に映し出される。クッキリとした映像に聞き間違いのないような大音量だ。



 全てがテセウスの演説内容と食い違っている。観衆は、昨日の王宮で何が起こっていたのか、はっきりと理解したのだ。


「これは幻術の魔法だ。騙されるな!」



 テセウスが大声を張り上げる。


 しかし、国王への信頼が残っていた観衆は、映像が事実であることに気付いた。観衆がテセウスへの非難の声をあげ始めた。



「くそ、うるさい奴らだ。力づくで観衆を抑えろ。広場にいる奴らを兵士に排除させるのだ!」


 テセウスの命令により、広場の警備をしていた兵士達が観衆を押さえつけようとする。



 しかし、それと同時に、広場の外からもっと多くの兵士が広場の中へなだれ込んできた。民衆を抑えようとする兵士と、それを止めようとする兵士たちが衝突する。


 そして、その衝突から抜け出した一人の戦士が、兵士の妨害を軽々と乗り越えて処刑場の上に降り立った。



「たった一年で随分と多くの兵士たちを誘惑してくれたな。ただ、どんなに誘惑されても、陛下や姫さんを慕う奴らの方が多いんだぜ!」


 啖呵を切って現れたのはバルザードだった。



「貴様、姿を見せないと思っていたら、こんな所にいたのか。ええい、兵士たちは何をしている!」


 テセウスは苛立たしそうに、周囲の兵士に怒声をあげる。


「冒険者ギルドに行けば、ヴァルテゼウスとしての残虐な行為は全て記録されている。お前が犯罪者だと分かれば、従う国民なんかいやしないぜ」



 バルザードの言葉を聞いて、テセウスを糾弾する観衆の声が大きくなってくる。


「くそ、身の程知らずの愚民どもが! 貴様らゴミの代わりなど幾らでもいる。こんな小さな国など捨ててやるぞ。残りのエリアも全て崩落させてしまえ!」



 テセウスが周囲にいる兵士に指示を出す。追い詰められたテセウスは全てを破壊するつもりだ。


 昨日は、この命令の直後に爆発が起きて崩落が始まった。観衆は爆発と崩落を思い出して、あわてて広場から逃げ出そうとする。



 しかし、もちろん何も起きない。


 これを防ぐために、カズヤたちは先に地下に潜ったのだ。


「何をやっている、爆発させろと言っているのだ!」


 荒れたテセウスが何度も指示を出すが、爆発が起きる気配は一切ない。



「……これ以上、爆発は起きないし崩落も起きないさ」


 カズヤがテセウスの前に立ちふさがった。


「バルザード、アリシアを救出してくれ」


 うなずいたバルザードは、すぐさまアリシアの元へ向かう。



「貴様はどこまで邪魔をするつもりだ。私たちに逆らうとどうかるのか分かっているのか!?」


 怒りに満ちたテセウスは、もはやわずかな余裕すら無くなっていた。



「お前らがやりたいのは殺すか搾取することだけだろう。これ以上この国に手を出すなら、俺が全力で排除してやる!!」


 カズヤは、アビスネビュラに真っ向から敵対することを宣言した。

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