042話 逆賊テセウスの演説


 カズヤとステラは、広場全体を見下ろせる建物の屋上に身を隠していた。


 しばらくすると大きな歓声があがった。壇上にテセウスが姿をあらわしたのだ。



 いつものような鎧姿ではなく、すでに国王にでもなったかのような豪華な衣装に身を包んでいる。


 王者がつけるマントには金の刺繍がほどこされ、首に下げられたネックレスには幾つもの大きな宝石が輝いていた。



「広場にお集りの諸君、今回の災害で犠牲になった方々に深く祈りを捧げたい。災禍を防げなかったことは騎士団長として痛恨の極みである。そして、国王の暴走を止めることができなかったことも、私はとても悔いている」


 テセウスは殊勝な顔をして演説をはじめた。



「今回の悲劇は国王の裏切りによって起こったものだ。それは、この街が不安定な地盤の上に建てられていたことを、長年の間、国民に隠していたからだ。そのために、昨日のような災害によって地面の崩落が引き起こされてしまった。脆弱な箇所が事前に分かっていれば、そこに街を作ることは無かっただろう」



 崩落の引き金になった爆発については触れていない。あくまでも災害として処理して、国王に責任をなすりつけるようだ。


「ただ安心して欲しい。この街の脆弱な地盤は昨日崩落したエリアだけである。他の箇所で崩落が起きる心配は無いので、今まで通り安心して生活して欲しい」



 カズヤたちが目にしてきた空洞は、街全体の下にあった。他の場所も崩落の危険性があるのに、明らかな嘘をついている。


「国王は他にも間違った政策を続けてきた。私はそれらを全て改善しようと考えている。今後は自国のことだけを考えずに、他国や他人のことを思いやる力が必要だ。近隣諸国の安定のために、より多くの出費が見込まれている。税が増えて徴収されるのは皆にとって苦しいかもしれない。しかし、そのお金はあなた達よりもっと苦しんでいる人の元へ届けられる。自分の保身だけを考える者は自らを滅ぼすであろう」




 テセウスは今回の崩落にかこつけて、今までの施策を全てアビスネビュラの意図通りに変えようとしているのだ。


「近隣諸国の平和を維持するために、ゴンドアナ王国の戦争にも協力する。自分の身だけ安全だと思ってはいけない。他国の戦争も自分のこととして考えないと、結果として自分たちも巻き込まれてしまうのだ。今回の崩落の悲劇は、全て国王の裏切りから起こったものだ。この責任は国王にしっかりとらせよう。そしてこの国は私とアリシア姫が協力して支えていくことを約束する」



 アリシアが建物内から姿を現わすと、より一層大きな歓声が起こった。アリシアはうつむき加減で表情は見えない。


「実は私とアリシア姫は以前から秘めた恋仲であった。このような国難にあたっては、もはや隠すつもりはない。二人で手を取り合ってエルトベルクの未来を支えていくのだ!」



 アリシアが望んでそこにいないことは明らかだ。テセウスに従わないと街の崩落が起きる可能性があるので、国民のために我慢しているのだ。


 テセウスは歓声をあげる民衆を見渡すと、満足そうな笑みを浮かべた。



「国王に責任をとってもらう時がきた。国王の首をはねよ!」


 テセウスの指示により、国王は縄を引かれより高い場所へ運ばれる。そこでは斬首するための処刑人が待機している。



「……マスター、そろそろです」


「よし、始めよう!」


 もちろん全てを手をこまねいて見ている訳ではない。


 さあ、テセウスの企みを全てひっくり返してやるのだ。




 カズヤの合図で広場の上空に無数の花火が打ち上がる。


 激しい火花が空中にほとばしり、戦いの始まりを告げる軽快な音が辺りに響きわたった。


 突然の出来事に観衆の視線が釘付けになり、処刑人も戸惑って手が止まる。



 その直後、ステラのウィーバーに乗り込んだカズヤが、処刑場の一番高い場所に降り立った。


「カズヤ! 生きていたの!?」


 死んだと思っていたカズヤの姿を見つけて、アリシアの顔に笑みが広がった。


「アリシア、待っててくれ! まずは陛下を助ける」



「貴様、穴の底へ落ちて死んだと思っていたが、生きていたのか!」


 用意していたショーの邪魔をされ、テセウスは憤怒の表情でカズヤを睨みつけた。


「お前の悪事をみんなにバラすまでは、死んでも死にきれなくてな。お前こそ、これまでの責任をとってもらうぞ!」


 カズヤの周りに兵士が押し寄せてくる。



 しかし、ステラが足元へブラスターを連射して立ち止まらせる。それをかわして突進してくる兵士を、ステラは軽々とつかんで放り投げた。


 カズヤは国王を捕らえている兵士を体当たりで吹き飛ばす。



「ステラ、国王の救出は任せた!」


 国王の近くにステラが駆け寄るのを確認すると、カズヤは用意した拡声装置を使って広場の観衆に語りかけた。

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