041話 カズヤ無双
カズヤが壁に吹っ飛ばした相手は起き上がってこない。
どうやらそのまま意識を失ってしまっていた。
「マスター、やり過ぎです! 壁の振動が崩落を誘発する危険性があります」
最後に体当たりで吹き飛ばしたのは、さすがに力の入れすぎだった。気持ちが先走ってしまい、まだ力加減がよく分かっていない。
「これが奴らの通信道具だな」
通信道具と思しき魔導具を拾うと、バルザードに見せた。
「こいつは、めったに手に入らない高級な魔導具だぜ。これがあるだけで戦場の優位性を大きく変えるくらいだ」
「マスター、私が借りてもいいですか? 持って帰って仕組みを研究したいです」
魔導具をステラに渡すと、メイド服の懐にしまいこむ。
この世界の魔法についてステラの理解が深まれば、もっと有利な状況になれるはずだ。
そして、最後にこの場所にある一番危険な物を処分しなければならない。
「……これが爆弾か?」
カズヤが見つけ出したのは、バスケットボールくらいの大きさで、結晶のような輝きを放って光っている石だった。
薄いガラス細工のような塊のなかに、煙のような魔力が怪しげに揺らめいている。
「巨大な魔石だな。この大きさだと、とんでもない魔力を秘めていそうだ。破壊的な魔法が埋め込まれているから、すぐに処分しないと危険だぜ」
バルザードの説明に納得したカズヤは、慎重に魔石を回収した。
「次は俺に行かせてくれ。全部ひとりで仕留めてやる」
次の工作兵を見つけると、カズヤは剣を握りしめて走り出した。
剣の握り方も使い方も分からないが、一般兵が相手ならもはや負ける気はしない。
カズヤは、まずは通信用の魔導具を手にした兵士に突撃した。
「て、敵襲だ!!」
叫んだ兵士が、慌てて通信しようとするが間に合わない。カズヤが魔石を奪い取ると、真っ先に叩き潰した。
逃げようとする兵士に足払いすると、倒れた兵士は困惑した顔でカズヤを見つめた。
「お前らは何者だ!?」
「通りすがりの冒険者だよ」
カズヤが剣をへし折ると抵抗する気を失って、兵士は降参したように両手をあげた。
他の兵士たちも襲撃に気付いて反撃してくる。
カズヤには相手の剣術を抑える技術は無い。兵士の攻撃をまともにくらった。
しかし、ザイノイドの身体はびくともしない。
すばやく兵士の腕をつかむと、一気にひねりあげた。
「痛ててっ! なんて馬鹿力だよ!」
常人の何十倍もの腕力があれば、相手は抵抗できない。難なく抑えつける。
敵の攻撃は正面から受け止めて全て弾き返す。
相手が勢いに負けて押し返されたところで、次々と体当たりをして意識を失わせた。
驚く二人を尻目に、カズヤ一人で拠点を制圧したのだった。
「すげえな、カズヤ! 俺様でも敵わないかもしれないぞ。Sランク冒険者も真っ青だ!」
「だから、ザイノイドも悪くないと言ったんです」
「危ない感じはしなかった。これ位のことは一人でも大丈夫だ」
カズヤは、ザイノイドの身体が秘めたポテンシャルを実感していた。
「ただ、俺には剣の使い方が全く分からないんだよな……」
「マスター、攻撃に専念するために防御を自動化しますか? 視覚情報をそのまま手足に伝えて、自動的に身体が反応するように設定できますけど」
防御を自動化できるなんてカズヤは初耳だった。そんなことが出来るなら早く言って欲しい。
「その機能を、ぜひ使わせてくれ」
「分かりました。それでは、そのまま立っていてください」
そう言うと、ステラはカズヤの傍に近寄り、自分のおでこをカズヤのおでこにくっつけた。
「……ス、ステラ!?」
ステラの顔が目の前に大写しになる。
驚いたカズヤはどきまぎして身体が固まる。顔が真っ赤に染まることは無いのが、ザイノイドになって良かったことなのか、寂しいことなのか。
「……これで大丈夫ですよ。あと防御のために、いつでも両腕から電磁シールドを出せますので」
「お、おう、ありがとう。それじゃあ奴らに気付かれる前に、残りを一網打尽にしてしまおう」
カズヤが先頭をきって洞窟の中を走っていく。
ステラ経由のバグボット情報で、兵士たちの居場所は筒抜けだ。全ての地点で、工作兵に気付かれる前に先制攻撃をくわえていく。
防御が自動化されたカズヤは、攻撃に専念するだけだ。
戦闘を重ねるたびに、ザイノイドの身体の使い方が上手になっていく。今までの鬱憤を晴らすような勢いで、カズヤはほとんど一人で全ての拠点を制圧してしまった。
爆破に関係する全ての魔石を回収すると、ホッと息をつく。
これでテセウスが市民を人質にとって、地面を崩落させる心配が無くなった。あとは、アリシアと国王を助け出すだけだ。
*
エストラの街外れの広場に多くの市民が集まっていた。今日、広場で国王が処刑されると発表されたからだ。
広場近辺は崩落が起きておらず、観衆の視線の先には処刑台が用意されていた。ここは街の多くの出来事を見守ってきた特別な場所だった。
街の崩落という悲劇が、慕われていた国王のせいだと発表されたときは、多くの国民は信じられずにいた。
しかし、国王の責任を追及する発表が相次ぐと、今まで積み上げていた信頼が少しずつ揺らいでいくようだった。
国王の噂が本当かどうかを確かめるために広場に集まってきたのだ。
そして、この時までにカズヤたちは、まだアリシアと国王を助け出すことができていなかった。
三人が地底の空洞から帰還するとほぼ同時に、国王が処刑されるという情報が入ってきたからだ。
依然として二人の居場所は分からなかったが、この後、広場で処刑される予定だ。少なくとも国王は姿を見せるはずだ。
テセウスなら国王の罪状を訴えて裁くことを、自ら喜んで行なうに違いない。それならば、その場にアリシアを連れてくる可能性も高いはずだ。
カズヤとステラは、広場全体を見下ろせる建物の屋上に身を隠していた。
しばらくすると大きな歓声があがった。
壇上にテセウスが姿をあらわしたのだ。
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