040話 工作兵
カズヤが目にしたエストラの地下空洞は、想像を遥かに上回る巨大な空間だった。
遥かに見上げないと空や地上が見えないほど深く、左右は一度に目視ができないほど広い。地下に潜む巨大な空洞を目の当たりにした衝撃は大きかった。
地下に穴が空いたのなら、何かで塞ぐことはできないかとカズヤは考えていた。だが、とても塞げる広さではないことを痛感した。
地下の空洞ではゴオオオッという風の音が、あたりの岩に反響して響いている。
「地上で聞こえていた街鳴りの正体は、この音だったんだな……」
カズヤは、エストラの市場で聞いた街鳴りの音を思い出した。
地下の空洞に風が吹き込み、その反響した音が地上でも聞こえていたのだ。
ひょっとしたら、エストラには井戸が少なくて水不足になりやすいという話も、この空洞部分と関わっているのかもしれない。
そして地底には、地上から落下してきた大量の建物や道路の残骸、人らしき遺骸が降り積もっていた。
崩落部分から光が漏れているとはいえ、地下は真っ暗だ。しかし、カズヤはザイノイドの視覚センサーにより、その惨劇を昼間のようにはっきりと見てしまった。
「生存反応はありません……」
ステラの無情な宣告を聴きながら、カズヤは心の中で手を合わせる。そして、テセウスに二度と繰り返させないことを犠牲者たちに誓った。
「マスター、何ヶ所かで怪しげな動きをしている工作兵がいます」
「どこにいる?」
「空洞の天井部分に洞穴の通路があり、そこの6箇所に工作兵が3~4人ずつ潜んでいます」
「天井部分の地面に、更に空洞があるのか……」
地底の空洞と地表が繋がっている部分に、更に通路のような洞穴があり、そこにテセウス配下の工作兵たちが潜んでいる。
ただでさえ脆い地表部分が、さらに虫食いのように穴が空いている。地盤の脆弱さを考えると鳥肌が立ってきた。
「
カズヤがザイノイドになったおかげで、ステラとの通信は遠隔でも外部に漏らさずに詳しい情報を伝えることができるようになった。
カズヤの脳は人間のままなので情報処理能力は劣るが、送られてきた情報を把握する程度のことはできる。
ステラから送られてきた情報をもとに、カズヤは念入りに工作兵の場所と数を確認した。
「よし、工作兵たちを捕まえに行くか」
ここからの対処には少し注意が必要だ。
奴らは何らかの通信装備を持っているのは間違いない。カズヤたちの攻撃を受けたことがバレてしまうと、地上のテセウスに連絡が伝わってしまい街の崩落に繋がりかねない。
「ステラは怪しい動きをした奴がいたら攻撃してくれ。俺とバルザードは工作兵の殲滅に専念しよう」
ぶっつけ本番になってしまうが、全身がザイノイドになった身体の使い方を実戦で覚えていくしかない。
ウィーバーで空洞の天井部分まで上がると、そこから通路の中に入る。通路の壁や天井を見ると、奴らが人工的に地面をくりぬいて作っていたことが分かる。
「マスター、前方に4人います」
「俺様が先に行くから、カズヤは後ろから付いてこい」
バルザードは頼もしく宣言すると、剣を片手に堂々と正面から突っ込んでいった。カズヤも短剣を手にしながらその後を追う。
工作兵がカズヤたちを発見すると、そのうちの1人が手にきらびやかな魔石を握りしめたのが見えた。
その瞬間、ステラのブラスターが光線を放つ。
工作兵は手をおさえてうずくまった。あれが通信道具だったのだろう。これでテセウスや他の工作兵に伝わることは防げたはずだ。
すると、バルザードが圧倒的な勢いで制圧している隙間から、一人の兵士がカズヤの方へ抜けてきた。
兵士がカズヤに向かって斜めに切り裂いてくる!
カズヤは攻撃を見るや否や、軽々とかわした。
今までなら剣が直撃して致命傷になっていただろう。だが、今なら相手の動きを見た後からでも十分間に合う。
ザイノイドの反射能力は、それほど人間離れしたスピードなのだ。
直前までは間違いなく当たると思った攻撃をかわされてしまい、工作兵は呆気にとられている。
たまらず剣を振り回すが、カズヤはかすることすら無く全てをかわした。
「な、なんで当たらないんだ!?」
兵士が当惑するのが伝わってくる。
しかし、当たる方が難しいほどスピードが違う。それに直撃を受けたとしても、この程度の威力ではザイノイドの皮膚には傷一つつかないだろう。
カズヤは、今までにないくらい余裕を持って攻撃に対処した。
相手が疲れてきたのを感じると、腕に手刀を入れて剣を落とす。そして、素早く近寄って体当たりを喰らわせた。
相手は激しく吹っ飛ぶと、壁に衝突して崩れていった。
「おい、すげえなカズヤ! まるで別人のような動きじゃないか!」
「まあ、別人みたいなものだからな」
驚いているバルザードに、カズヤは自嘲気味に返答した。
もう、以前のひ弱だった頃の自分はいない。
ザイノイドになったことは正直今でも嬉しいことではない。
しかし、この世界で思いのままに生きるには、ある程度の強さが必要だ。これは自分の命を犠牲にして入れた力だ。
だからこそ、割り切って思いきり使いこなしてやるのだ。
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