039話 王都潜行
「……バルちゃん!」
エストラの王宮のほど近く。
ステラの指示通りの場所でバルザードを発見した。たてがみを震わせて、今にも王宮へ突入しかねない勢いだった。
ステラは真っ先にバルザードに飛びついた。
「カズヤ、ステ坊、無事だったのか! てっきりお前らも捕らえられていると思っていたぜ」
「俺たちは大丈夫だったけど、アリシアや国王が捕まってしまったんだ」
しがみつくステラを、バルザードは何事も無かったかのように受け入れた。すでにバルちゃん扱いにも慣れてきたようだ。
一緒にいた国王と王女が捕まってしまったのだ。自分達も捕らえられたと思われても仕方がない。
「人目につくと良くないな、ちょっと裏へ行こう」
バルザードは二人を建物の裏の路地へ連れて行った。
「仲間を集めて、姫さんや陛下の居場所を調べているが分からないんだ。王宮の中にいるのは間違いないから、これから突撃しようかと思っていたんだが……」
バルザードは努めて平静を装っているが、アリシアや国王が心配で落ち着かない様子だった。
カズヤは王宮で起こった出来事をバルザードに説明する。
「……アビスネビュラ? そんな名前は聞いたことないな。世界を支配する組織なんて、ちょっと大げさじゃないか」
「別によくある話ですよ。世界を好きに支配するためなら、権力者たちは必死に考えます。他の星でも普通に行なわれていることです」
ピンとこないバルザードに対して、ステラが重ねて説明してくれる。
「ふうん、そんなもんなのか。それにしてもカズヤ。お前その身体はどうしたんだ? 雰囲気も変わったし、まるで別人のようだ」
バルザードはカズヤの顔や身体を、まじまじと見つめる。
「いろいろあってな、俺はもう人間じゃないんだ。気にするなと言っても難しいかもしれないが……」
「まあ、またステ坊に何かしてもらったんだろ。お前らがやっていることは最初から理解できねえよ。でも、お前はお前だろ?」
バルザードがあっけらかんと答える。
そうだ、自分の心は何も変わっていないのだ。
人間の時と同じように考えたり、同じように動くことができるのだ。
バルザードの話を聞いていたら、カズヤは身体がザイノイドに変わったことも気にならなくなってきた。
「まだ、この身体には慣れていないんだが、以前よりも戦力になれるはずだ。アリシアと国王を助けに行こう」
生身の人間の時よりは遥かに運動能力が上がっている。身体の動かし方や戦い方さえ分かってくれば、今まで以上に戦えるはずだ。
「ステラの調査でも、アリシアと国王の居場所は分からない。でも、王宮以外へ出ていった形跡がないから、今でもどこかに囚われていることは間違いないはずだ」
「それじゃあ突入しようぜ。俺の仲間や陛下たちを慕う人間を集めれば、王宮を制圧するのは可能だぜ」
バルザードの提案に、カズヤが少し考える。
「たしかにアリシアと国王は必ず助けなければいけない。ただその前にどうしてもやらなければいけないことが、あるんじゃないか?」
カズヤの言葉を聞いて、バルザードはハッとした顔を見せる。
先にやらなければいけない大事なことに気が付いたようだ。これを解決しないと何度も同じ悲劇を繰り返すことになってしまう。
ステラはすでに出発する準備をしている。
カズヤたちは、エストラの地下空洞へと乗り込んだ。
*
三人はウィーバーに乗って、崩落が起きた地点の上空に来ていた。
ウィーバーの運転ができるカズヤは一人で乗っている。
ハンドルを握って行きたい方向をイメージすれば良いので難しいことは無い。そして、ステラとバルザードは大騒ぎしながら乗っていた。
「ちょっと、バルちゃん! モフモフ気持ちいいですけど目をふさがないでください。落ちたら死んじゃいますよ」
バルザードが悲鳴をあげて、運転するステラに後ろからしがみついている。
「だけどよおお、こんな空飛ぶ馬なんて乗ったことがねえよ! いったいどんな仕組みで飛んでやがるんだこれは!? 絶対信用できねえよ!」
「ただの反重力ですよ」
「マンジュウ力!? ますます信用できねえよお!」
バルザードは高い所が苦手なのか。仕組みも分からずにウィーバーに乗る怖さは、カズヤにも理解できる。
三人はアリシアと国王を助けるよりも先に、まずは地下にいるテセウスの部下たちを捕らえることを優先したのだ。
指示に従わない国王への見せしめとして、テセウスは複数の場所を崩落させた。奴はいつでも住人の命を人質にするだろう。
例えバルザードの仲間を集めて王宮を襲撃しても、追い詰められたテセウスに街の崩落を利用されてしまう。
そうすると、また同じ過ちを繰り返すことになってしまう。
これ以上の暴虐を繰り返させないために、地下に潜ることを優先したのだ。
「こ、これは……!?」
カズヤはエストラの地底まで降りると、その光景に絶句した。
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