036話 ステラの独白
宇宙船が墜落してからどれだけの時間が経ったのだろう。
ステラは墜落した宇宙船のなかで、一人で考え続けていた。
本星へ何度も救難信号を送ったが、返信は一度もこない。どうやら肝心の通信機能が壊れてしまったようだ。
他のどのような手段を使っても、他星と連絡をとることができなかった。
しかし、連絡がとれなくなったからといって、ステラたちを捜索しにくるとは限らない。過去に同じような事故は何度もあったが、救援が出ないこともあったからだ。
そんな条件を飲み込んだうえでの惑星調査なのだ。ザイノイドは人間よりも長寿だが、それでもいつかは限界がきてしまう。
情報処理型のザイノイドは、人間種ほどではないが幾つかの権利が認められている。働く場所や主人とする人間を選ぶ権利は持っているのだ。
そのなかで、ステラは自分の能力をもっとも生かせる軍隊を選んだ。軍隊に所属する以上、上司の命令が絶対なのは人間と変わらない。
人間からの指示が無い限り、ステラは宇宙船から出ることができなかった。
(私はこのまま朽ち果てていくのだろうか……)
300年間、何度同じ問いを繰り返したか分からなかった。
あるとき、宇宙船の壁に人間が叩きつけられたのをステラは感知した。
叩きつけられた人間は何かに襲われて重傷を負っており、更なる攻撃をうければ死を免れない。
ステラは咄嗟に、この人間を宇宙船の中に引き入れた。
これが許される行為なのかは分からない。だが、ザイノイドは人間種の命を救うことが義務とされている。
それに新たな出会いに、心が高まるのをステラは感じていた。300年の孤独から解放され、いつもと違った日々が始まるかもしれない。
怪我をした男性は右腕を無くしていたが、治療には問題なかった。
回復した男性の言葉はデータベースには無かったが、それほど複雑な言葉ではない。短時間のセッションで理解することができた。
男性の名前はカズヤといい、なぜ自分がこの世界にいるのか分からないという。不思議な体験ではあるが、次元の狭間で神隠しにあう現象はいくつも記録に残っている。
カズヤは、ステラたちよりも科学や文明が劣った星の出身で、知性もそれほど高くはなかった。
しかし、人間にとって大事なのは知性や技術力ではない。必要があれば、ザイノイドがサポートすれば良いからだ。
人間にとって大切なのは、知性や技術力を利用する目的だ。それが自分勝手な欲望の為なのか、他者を思いやる為なのかで、結果は大きく変わってくる。
この男性の正直な反応には嘘がなく誠実さが感じられた。
それに魔物に襲われている、たった一度しか出会っていない人物を助けに行こうとする献身さは、自分のマスターにふさわしいとさえ感じていた。
マスターの身体の脆弱さや知性は、自分がサポートすればいい。だから好きに行動していい。そのために最適な手段を提供する。
それがステラの仕事なのだ。
もっと色んなことができるはず、もっと色んなことで役に立ちたい、とステラは感じていた。孤独から解放されて、能力を発揮する機会を与えてくれたカズヤに感謝しているのだ。
カズヤと共に初めて宇宙船の外に出てみると、この星にも多くの問題があることが分かった。
魔物や人間の戦い、政治的な争いもあるようだ。
ステラはこのような争いには興味がない。データベースには今までの文明で起こってきた、様々な人類の衝突がたくさん記録されているからだ。
こんな世界でも、ステラが気に入っているものはたくさんあった。
理想的なモフモフであるバルザードに出会うことができた。さらに、ステラのお気に入りのかわいい服も見つけることができた。
データベースの中にあったので前から着てみたかったが、宇宙船の中には用意されていなかったのだ。
ここではメイド服と呼ばれているようだが名前は関係ない。他の服には興味がないし、これ以上の服は見つけられないくらいぴったりの服だった。
だが、最後にステラは致命的な失敗を犯してしまった。
まだ、この星の調査を開始したばかりだったので、地下の情報までは手に入れていなかった。そのため、街の地面が空洞になっていることに気付いていなかったのだ。
街の崩落が起きた時、以前と同じようにウィーバーに乗るのが安全だとステラは判断した。いつどの地点が崩落するのか予想できない。
空中にとどまるのが、カズヤを助ける最善だと判断した。
ステラは空を飛ぶことができる訳ではない。地面の上をホバリングのように浮きあがったり、瞬間的に高く舞うことができるだけだ。
ステラはウィーバーを呼び寄せた。
しかし、まずはカズヤを確保するのが最優先だったのだ。
ウィーバーに乗って助けに向かうが、地面が崩落する方が先だった。ステラの手は宙をつかみ、カズヤの身体は穴の底へ落ちていく。
それでもステラは諦めなかった。
マスターの名を叫び続けながら、瓦礫が降り注いでくるなか、カズヤの身体を掴もうと必死に降下した。
落ちてくる瓦礫がカズヤの身体にあたり、激しく損傷しているのが分かる。このまま地面に叩きつけられれば命が無いのは確実だった。
ステラやウィーバーも瓦礫の衝突を受け続けた。それでも、カズヤに向かって一直線に進んだ。
そして、穴の底に叩きつけられる直前。なんとかカズヤを確保したのだ。
血だらけになった身体をしっかりと抱きしめる。
瓦礫の雨を浴びながら、何とか浮上することに成功した。そして、ステラは後ろを振り返ることなく宇宙船へと向かい、すぐに治療を開始した。
どうかカズヤに生きていて欲しい。
ステラは、カズヤもこの世界も気に入っていた。
二人の冒険はまだ始まったばかりだ。どうかまた一人ぼっちにしないで欲しい、とステラは心の底から願っていた。
しかし、命に関わるほどの重傷だった。
ステラの治療の甲斐もなく、カズヤはなかなか目を覚まさなかった……
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