035話 繰り返される悲劇


 突如として激しい振動が王宮を震わせた。早朝の悪夢が、再び繰り返されてしまったのだ。



「マスター、地下にいる者たちに怪しい動きがあります!」


「また爆発か!?」


 異変を察知したステラが、後ろを振り返りながら報告する。カズヤは朝方の崩落が起きたきっかけとなった振動を思い出した。



「やれやれ、やっと始まったか。街の住民を助けたいなら、すぐに行かないと犠牲者が増えるぞ。そもそもお前が邪魔をしたせいなんだからな!」


 余裕を取り戻したテセウスが、嘲笑しながらカズヤを見る。



 テセウスは再び街を崩落させるつもりなのだ……!



 カズヤはテセウスを激しくにらみつけると、すぐさま王の間を飛び出した。その直後に再度大きな爆発音がする。


 建物と地面が大きく揺れる。


 激しい振動にカズヤはふらついて、壁にもたれかかる。壁の窓ら街を見渡すと、大きな建物が崩れ始めているのが見えた。



「くそ、少しでも多くの人を避難させないと……」


 衝撃から崩落までの時間はほとんどない。すぐにでも住民を助けないと多くの犠牲者が出てしまう。



「マスター、ウィーバーが来るのを待ってください!」


 王の間を飛び出したカズヤを、ステラがあわてて追いかける。指示を受けたウィーバーがステラへ向かって飛んでくる。



 王宮を飛び出したカズヤは、街道を逃げ惑う多くの人達の渦の中に飛び込んだ。


 街のなかは今朝よりも更にパニックになっていた。この振動が街の崩落につながると分かっているからだ。


 泣き叫んで立ちすくむ人や、恐怖で座り込んでしまう人もいる。



 崩落が起きた時に一番安全な場所はどこか? それは王宮に違いなかった。


 テセウスがいる限り王宮が落ちることはないだろう。だから一人でも多くの住民を王宮へ避難させるのだ。



「みんな、王宮の中へ逃げろ!! この地区も崩壊するぞ、急げえ!!」


 カズヤはありったけの声で叫びながら街を駆け抜けた。立ちすくんだり起き上がれない人は、引っ張り上げて避難をうながす。



 逃げようとする人の流れに逆走して何度も人とぶつかりながらも、一人でも多くの人に知らせようとカズヤは街を走り続けた。


「王宮だ!! 王宮の中へ逃げるんだ!!」


 緊急事態とはいえ、一般の市民が王宮の中へ入ることには抵抗がある。しかし、いま安全なのは王宮だ。ためらわずに逃げ込んで欲しい。



 指示を受けて、次第に人々が王宮の中へ駆け込む流れができはじめた。


 それを見てカズヤは少し安堵する。


 カズヤは街を崩落させた責任を感じていた。知らなかったとはいえ、アリシアを助けたことが街の崩落という巨大災害に繋がってしまっている。



(異世界から来た俺が余計なことをしたせいかもしれない……)


 考え過ぎかもしれないとは思う。


 しかし、この世界とは関係のなかった自分が介入したことにより、予定には無かった悲劇が起きてしまっているのは事実だ。


 その責任を強く感じていた。


 少しでも多くの人を助けようと、カズヤは更に奥へと走る。




 すると崩落を始めた街道で、カズヤは逃げ遅れた一人の少年を見つけた。


 足が地面の亀裂にはさまってしまい、身動きがとれないようだ。恐怖に顔を歪ませており、助けを呼ぶこともできない。



「……大丈夫か!?」


 急いで駆け寄ったカズヤは、必死で足を抜こうとする。すると、足元の近くで新たな爆発音が聞こえた。


 さっきよりも近い場所で爆発が起きたのだ! 



 爆発の衝撃で少年の足が抜ける。


 カズヤは少年を街の方へと突き飛ばした。


 地面が持ちあがるように突き上げられ、カズヤの身体が宙を舞う。強固な石畳でできた街道が、おもちゃのブロックのように崩れ始める。



 カズヤは、自分の真下に大きくて暗く深い穴ができたのが目に入った。



「マスター!」


 遠くからステラの声が聞こえた気がした。


 カズヤは視界の端にステラの姿を見つける。


 力いっぱい手を延ばす。


 しかし、ステラの手を握ることはできない。



 ――ステラの叫び声を遠くに感じながら、カズヤは奈落の底へと落ちていった。

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