034話 戦闘


 兵士はテセウスの方へ駆け出していき、国王やアリシアへ向かって武器を向けた。


「何をしている、そいつを捕まえるのだ!」


 しかし、兵士たちが動くことはない。武器をこちらに向けたまま、テセウスの指示をじっと待っている。



「この国で誰が一番偉いのか、まだ分かっていないようだな。お前が反旗をひるがえした以上、この国の王は俺だ。アビスネビュラの指示を受けて動いている俺が、この場では一番偉いんだよ」


 馬鹿にするようにテセウスが笑う。



 国王への忠誠を誓い従ってきた期間も長い近衛兵は、テセウスによって他の都市に配置されてしまった。


 残っている近衛兵は、すべてテセウスの息がかかってしまっているのだ。



「ここまで国王が使い物にならないのなら、この国の支配体制を大きく変更しなければいけないな」


 テセウスは考えながら、二、三歩歩く。そして、何かを思いついたようにアリシアを見た。



「俺が国王になるなら、お前を生かしておいた方がいいかもしれんな。お前を俺の妃にして継承権を奪った方が国民の支持も得られやすいだろう。せっかく見た目がいいのだから、殺すのはもったいないと思っていたところだ」


 テセウスが顔を歪めながら舌なめずりをする。



「断ります。あなたの后になるなら死んだほうがましです!」


「その気の強さがいつまで続くかな。あと何回崩落が起きれば、気持ちが変わるか試してやろうか?」


 テセウスの顔に張り付いていた微笑が消える。冷酷な眼差しで後ろの兵士の方を振り返った。



「お前たち、作戦を続けろ」


「やめろ! 今回の崩落で何千人もの人が犠牲になったことが分かっているのか!?」


 我慢できなくなったカズヤが声をあげる。



「国民など俺たちの所有物だ。どうなろうと支配者が勝手に決めることだ。さあ、アリシアよ、こっちへ来い」


「何でも思い通りになると思ったら大間違いよ」


 アリシアの厳しい表情は変わらなかった。持っていた杖を固く握りしめる。テセウスの暴虐を力ずくで止めようとしているのだ。



「ステラ、俺にもブラスターを貸してくれ。これ以上、奴の好き勝手にはさせないぞ」


「たった二人で俺と戦おうというのか? 騎士団長が舐められたものだ。こっちには近衛兵もいるんだぞ」



 戦う意思を見せたアリシアに、カズヤも同調する。


 ステラは、カズヤにブラスターを手渡した。


「俺一人で相手をしてやろう。力の差が分かれば少しは大人しくなるだろう」


 テセウスの言葉が終わると同時に、アリシアの魔法の詠唱も終わる。



 アリシアを中心に暴風が発生し周囲を巻き込んでいく……!


 そして杖を大きく振ると、放たれた暴風の塊がテセウス目掛けて飛んでいく。


 テセウスは魔法の軌道を見極めると、すぐさま横へ飛び退いた。風の魔法は誰もいない壁に激突し、その衝撃波で近衛兵が吹き飛ばされる。



「さすが魔術ギルドが一目を置くだけのことはあるな。ただ、お前の研究は危険視されているのを知っているのか?」


「なぜ、魔術ギルドの評価をあなたが知っているの!?」


「さあ? そのくらい有名だということだよ」



 会話で集中力を切らした隙を狙って、今度はカズヤのブラスターが光を放った。


 オークを倒した自動追尾のレーザー光線だ。相手がかわしても何処までも追いかけていく。



 しかし攻撃に気付いたテセウスは、カズヤの眼では捉えきれない程のスピードで避けていく。


 その後ろを何本もの光線が追い掛ける。逃げ続けるテセウスを追尾し、追い詰めた部屋の隅で複数の光線が炸裂した。



「どうだ!? 直撃したぞ!」


 しかし、レーザーはテセウスの身体に触れると同時に、激しい音を出して消滅した。ステラがブラッドベアを攻撃した時と同じだった。


 とっさにテセウスが展開した魔法障壁に、光線が弾かれてしまったのだ。



「なるほど、これがオークを倒した魔導具か。遠目では分からなかったが、これ程の威力とは驚きだ」


 テセウスは予想外の攻撃を受けて、驚いた表情でカズヤを見た。



「くそ、まだ諦めないぞ」


 カズヤは武器を持たないまま、拳を握りしめる。


「まだやるつもりか? 構えも知らない奴が何をするつもりだ」



 カズヤは勇気を出して突進すると、思いきり右手の拳を振りかぶる。


 テセウスは余裕を持ってかわそうとするが、途中までの動作からは想像もできない速さで拳が繰り出された。



 カズヤの拳が剣をかすめると、テセウスの体勢が大きく崩された。


「くっ……馬鹿力だけはあるようだな!」


 今度は至近距離からテセウスの剣が襲ってきた。



「うわあっっっ……!」


 カズヤは、必死にかわそうとするが間に合わない。剣がブロックした右腕直撃すると、身体ごと吹き飛ばされた。


 そのまま壁に激突すると、カズヤは息ができない程強く叩きつけられる。さすがに元Aランク相手には、ザイノイド化した右腕だけでは通用しなかった。



「やはりお前は、あの時に確実に殺しておくべきだった。崖に吸い込まれたように姿が消えたが、こんな形で再び邪魔されるとはな!」


 テセウスは剣を握り直した。



「お前たちの攻撃はこれだけか? では、今度は俺からいかせてもらうぞ」


 テセウスの殺気が伝わってくる。


 倒れ込んだカズヤに防ぐ手段はない。カズヤは思わず目をつぶった。



 テセウスが剣を振りかぶる。


 カズヤが突風のような風圧を受けた直後、前方で激しい衝撃音がした。テセウスの攻撃はカズヤまで届いていない。



 カズヤがゆっくり目を開けると、目の前にはテセウスの剣を片腕で受け止めているステラが立っていた。


「ブラッドベアを1人で倒したのはお前か! この攻撃を片腕で受け止めるとは」


 ステラの想像以上の素早さに、テセウスが驚愕する。



 しかし、ステラが反撃しようと腕を振り上げた瞬間。


 突如として激しい振動が王宮を震わせた。


 建物が揺れて窓が割れ、立てかけてあった物が倒れてくる。



 再び、早朝の悪夢が繰り返されようとしていたのだ……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る