031話 国王の暴露:隠された真実


 国王は明らかに動揺している様子が見て取れた。


 昨日の冷静さは失われていて、顔面が蒼白になっている。



「お父様、状況は把握されてますか? 住人の救助はどうしましょう」


「ああ、これは私のせいなのだ……! テセウスへの追及を止めなかったばかりに」


 アリシアは指示を促すが、国王はうわ言のような言葉を吐くばかりで要領を得ない。



「お父様、どうしたのですか!? すぐに穴の底へ救助を出さなければ」


 いつもと違う国王の様子にアリシアも戸惑っている。



「マスター、緊急の報告があります!」


「いきなりどうしたんだ!? いま必要な情報か?」


「後には出来ません。ここにいる全員の安全のためです」


 ステラが突然、話の途中に割って入ってきた。


 見たこともない緊迫した表情だ。



「衛星からの情報ですが、この街全域の地下は大きな空洞になっています。この城も空洞の上に建っています。すぐに避難してください」


「え、何だって!?」


 カズヤに寒気が走る。


 街全体が空洞の上に建っている……。この王宮の地下も巨大な空洞になっているのか。



F.A.フライトアングラーとバグボット達をすでに穴の底におろしてあります。映像を見る限り、そもそもこの街全体が大きな空洞の上に建てられていて、薄い地表で支えられていたようです。何かの衝撃でいつ崩壊してもおかしくありません」



 自分の足元が巨大な空洞になっていて、その薄皮一枚の地面の上に立っている。そう考えると急にカズヤの足が震えてきた。地面に立つ力が失われていく。足がすくんできた。


 この街に入ったときに、ステラが感じていた足下の違和感とはこのことだったのだ。



「残念ながら、地下に落ちた人たちの生存は期待できません。穴の深さは100m以上の高さがあり、落下の衝撃に耐えることは不可能です」


 最悪の結果に全員が驚愕する。



 話を聞いた国王はさらに取り乱した。


「奴らの言っていたことは本当だったのだ! 奴らの命令に大人しく従っておけば、こんなことは起きなかったのだ……!」


「お父様、落ち着いてください。奴らってだれですか!?」


 話が見えてこない国王に対して、アリシアが問い詰めるような口調で尋ねる。



 アリシアの叱責をうけて、国王は若干の冷静さを取り戻した。


「アリシア、お前がこの国を継ぐ時がきたら伝えるつもりだったが、そんなことを言っている場合では無さそうだ。今すぐにお前が知っておかなければいけないことがある」


 国王はアリシアの目を見ながら、声のトーンを落とした。



「しかし、これはこの国の根幹に関わる重大なことだ。他の者たちの前で奴らの話をすることはできない」


 国王はカズヤとステラの方を見て目で退室を促してくる。話をするだけでも恐ろしいことのように国王の声は震えていた。



 しかし、そんな国王の様子は意に介さず、ステラが国王に向かって話しかけた。


「奴らって、地面を壊して崩落させた人たちのことですか? 彼らは穴の下にまだ爆弾のような物をしかけていて、いつでも爆破できる準備をしていますけど」


「何だと! なぜお主はそんなことまでわかるのだ!?」



 予想外の発言に国王は戸惑いを隠せない。


 ステラの情報は、一般人には到底知り得ないはずのことだ。


「バグボットたちが、穴の下にいる不審な人物たちを捉えています。彼らが全てを爆破すれば、町全体を一気に崩落させることもできるでしょう」


 国王は言葉を失って放心している。




 やがて、国王はおもいつめた表情でアリシアの方へ向き直った。


「……アリシア、真実を話そう。この街が100年前に魔物を駆逐して作られたという話は嘘なのだ」


「えっ!? 魔物を駆逐した騎士団のリーダーが、私たちのご先祖様なのではないですか?」



「違う、本当は違うのだ。我らの祖先は争いに負け、行き場が無くて途方に暮れていた。その時に、奴らから与えられた土地がこのエストラなのだ」


 予想外の話にアリシアは言葉に詰まらせた。



 為政者によって、歴史が都合よく作り変えられるのはよくある話だ。とはいえ、カズヤが聞いていた話とは真逆の内容だった。


 100年前の出来事だったら当時を知る人はもう生きていない。争いに負けたという話を後世に伝えたくなかったのかもしれない。



 国として嘘の情報を振りまき、言い伝えや書物を作り変えてしまえば、間違った歴史が正しいものとして残っていく。


 このような話はよくあることだ。



「この街の地下がこんなにも不安定だとは知らなかったが、奴らの指示によって建設された。この街は奴らが指定した場所に作られたのだ」


 国や街を作る場所を指示できるとは、相当な権力を持っていないと不可能だ。



 アリシアはショックで固まっている。自慢の国や首都の歴史が、自分が知っていたのと違っていたら動揺しても仕方がない。



「奴らとは、いったい誰なんですか!?」


 代わりにカズヤが国王に質問した。

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