028話 王都追放

 

 テセウスに促された国王は、顎に手を当てて考える。


 周りの護衛の兵士たちは、いつでもカズヤを捕らえるように武器を持って構えていた。



「……カズヤといったな。そなたはテセウスの訴えをどう思うのだ? 本来ならば私は、そなたにアリシアの件でお礼を伝えるつもりだったのだ」


「このような追及をされて私も戸惑っています。彼があげた証拠や証言は全てでたらめです。ただ、それを証明したいのですが、やってもいないことを証明するのは困難を極めます」



「なるほどな……。アリシアはどう考える?」


 国王はアリシアの方へ向き直る。



「私はカズヤを信じています。彼と出会ってまだ日が浅いですが、そんなことを考える人間ではありません。ただ、テセウス騎士団長が訴える証拠を否定する物は、私も持っていません。こんなことになるとは思ってもいなかったので……」


 アリシアも心ではカズヤの味方をしてくれている。



 ただ、証拠が何もないことにためらっている。


 証拠も何も、全て偽造なのだから当然だろう。先ほどまでは命を助けてくれた恩人として、カズヤを国王に紹介しようとしていたのだ。


 アリシアの訴えを聞いて国王はしばらく沈黙する。そして、しばらくしてから口を開いた。




「カズヤ。そなたと従者を首都エストラに立ち入ることを禁止する。すぐにこの街から出ていくのだ」


「へ、陛下。甘すぎますぞ!! 王族の命を狙った犯罪者なのです。すぐに捕らえて拘束しないと、再び命を狙ってきますぞ!」


 取り乱したテセウスが国王へ反発する。


 思わず本性が顔を出しているような気がするが、国王は気に留めていない。



「では、もしこの男やアリシアの訴えが本当だったらどうするのだ。アリシアは昔から勘が鋭い娘だ。魔力に鋭敏な部分もある。彼らが街にいなければ、誰が事件を起こしたのか判明するではないか」


 国王としては、かなり甘い裁定を下してくれたみたいだ。


 街を追放されるのは納得いかないが、カズヤやアリシアの訴えに配慮して妥協してくれている。一方的に拘束されなかっただけでも、有難いのかもしれない。



 ここで暴れては、かえって状況を悪化させてしまう。


 カズヤは国王の裁定に黙って従った。


 心配そうな表情を浮かべながら、アリシアとバルザードが二人を見送っている。


 カズヤとステラは、兵士の誘導で連行された。


 そしてそのまま、王都エストラの外へ締め出されてしまったのだ。




 *


「マスター、これ以上この国に関わる必要はありません。別の国に行きましょう」


「そうだな……。俺がいることが問題なら、他の国に行った方がいいかもな」



 エストラから追放されたカズヤは、街から少し離れた廃墟の瓦礫の上に腰かけていた。


 その前で、人形のような顔に不満げな表情を浮かべながらステラが立っている。


 真夜中に追放されたカズヤは、この先どうするか考えながら、近くにあった廃墟で一晩過ごしていたのだ。



 すると草を踏みしめながら、こちらへ近付いてくる足音が聞こえてきた。


「……カズヤ、ここにいたのね」


 アリシアとバルザードだった。


 カズヤを探して、わざわざここまで来たのだ。



「アリシア、バルザード。俺と会っても大丈夫なのか?」


「お父様の命令は、カズヤが街に入らないことよ。会うなとは言われてないわ」


 そうだとしても、普通は命を狙った人間と出会うことはできないはずだ。カズヤたちを信用して来てくれたのだろう。



「テセウスの証言や証拠は分かるんだけど、どれも強引すぎる気がするの。是が非でもカズヤを捕らえたいように感じたわ」


「俺も賛成ですね。こういった時は、誰が得するか考えると分かりやすいですぜ。この街や俺たちに関係がなかったカズヤに利益があるようには思えない。だが、騎士団長として居座るテセウスには、何らかの利益があってもおかしくないですからね」



 アリシアとバルザードは、カズヤを信頼してくれているようだ。


 出会って間もない二人にここまで信用されて、カズヤの胸が熱くなる。


「街から追放されても、俺が困ることは特に無いんだ。心配なのはアリシアだ。テセウスはアリシアの命を狙っていると俺は思ってる。襲撃を三度防いだ俺たちが邪魔になっただけだと思うんだよ」



「たしかに昨晩みたいなテセウスは見たことがなかったわ。お父様の決定にも不服なようだったし」


 アリシアの目にも、違和感があったようにうつっている。



「この件については、私の方でも調べてみるわ。他の兵士たちの証言や、テセウスを任命した理由をお父様に聞いてみる」


「俺様も、冒険者仲間にテセウスの噂を聞いてみやすぜ。ひょっとしたら奴の違う一面が分かるかもしれん」



 テセウスの執拗な訴えに辟易していたカズヤは、この街から離れることも考えていた。


 しかし、アリシアとバルザードは、カズヤの汚名を晴らそうとしてくれている。ならば、カズヤ自身だって頑張らなければいけない。


「二人ともありがとう。俺とステラも、もう少し情報を整理してみるよ」



 この世界に来たばかりだから、分からないことの方が遥かに多い。


 ただ、ステラのバグボットは、昨日の時点ですでに街全体に行き渡っている。まだ、気付いていない情報があるかもしれないのだ。



 アリシアとバルザードが街に戻ると、カズヤはあらためて情報の精査をステラにお願いするのだった。

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