027話 糾弾されるカズヤ


 カズヤとステラは国王の間に連れてこられていた。


 部屋の奥の少し高くなった壇上の玉座に、国王は座っている。


 国王の顔を見ると、アリシアにも幾分の面影が残っているような気がした。威厳がありつつも慈愛深く、彫りが深い顔をしている。しかし顔色が悪く、健康そうには見えなかった。



 本来ならばアリシアを二度救出した功績を、カズヤは国王に讃えられるはずだった。


 しかし今はその反対に、罪人の疑いで連れてこられている。



「陛下、この二人が今回の襲撃の犯人です」


「ご苦労だった、テセウス。しかし、この者たちは何度もアリシアを救出したと聞いているぞ。なぜこのような襲撃を企んだのだ?」


 テセウスの訴えに対して、国王は冷静に問い返す。カズヤたちを始めから犯人と決めつけていないので、少し救われた気がした。



「カズヤは森の中でブラッドベアを引き付けて、私を助けてくれたのよ。あの行動が演技だったとは思えないわ」


 アリシアもカズヤの援護をしてくれる。


 カズヤは心の底から嬉しかった。アリシアはテセウスの訴えを真に受けている訳ではないのだ。



「私の部下が森のなかで怪しい人物を捕らえました。その人物が、カズヤという男に指示を受けたと自白しています」


「……こ、この人は!?」


 入ってきた人物を見て、アリシアが驚いている。



 カズヤが後ろを振り返ると、そこには初めて見る女性が立っていた。見た感じは少女のような背格好だが、顔つきや雰囲気は大人のものだった。


「この小人族の女性は、犯人カズヤから指示を受けてアリシア様を森のなかへ誘いこんだと白状しました」



「勝手な嘘を言うな! 俺はその女性に会ったことも無いぞ」


「いいえ。この女性は報酬ももらったと言っています。分不相応にも服の中に金貨を隠し持っていました」



 そう言ってテセウスが手の中の金貨をひけらかす。この時はまだステラに会っていない。証拠となる物を何も持っていなかった。


 カズヤは反論できずに悔しさを噛み殺した。




「でもカズヤは、ブラッドベアやオークの襲撃からも姫さんを助けてくれたんだぜ」


 バルザードがカズヤの潔白を主張してくれる。


 二人が味方してくれることに、カズヤは感謝で胸がいっぱいになった。



「一回目の襲撃が失敗したので、あわてて取り繕おうとしたのでしょう。アリシア様に近付いて今回の襲撃を計画していました。他の星から来たなどという白々しい嘘もついています。私が怪しんでいた通りです」


 テセウスが言い終わると、今度は捕まっていた襲撃者が皆の前へ連れてこられた。



「そこにいるカズヤに襲撃を命令されたと自白しています。アリシア様の命を狙おうと、この王宮内へ手引きしていました」


 うなだれた襲撃者は何も言わない。どれもこれも作り話だ。なぜこんな茶番を見せられなければいけないのだ。



「全部おかしいぞ! 俺はそこにいる奴らに会ったこともないし、ステラだって襲撃を防いだんだ。それに、俺がこの街に入ってからの行動は全てホログラムで記録されている。俺がそんな指示を出す暇が無いことは、いつでも証明できるんだ」


 そう言ってステラの方を見ると、ステラは無言で空中にホログラムを展開した。そこには、エストラに入った時から今に至るまでの映像が順に再生される。



「な、なんだこの魔法は!? 見たことがないぞ」


 ホログラムを見た国王が目を見開く。たしかに、この技術を初めて見たら驚くかもしれない。


「陛下、お気をつけ下さい。この者たちはこのような怪しげな術を使うのです。改変された幻術魔法ですので信用なさらないでください」



 するとテセウスは、王宮で出会った時に持っていた水晶玉を持ち出した。遠目から覗き込むと何かの映像が映っている。


「真実はこうです。陛下、こちらをご覧ください」


「こ、これは……!?」


 国王が驚愕の声をあげる。



 そこには、カズヤらしき男性が襲撃者たちと相談している映像が映し出されていた。


「ご覧の通りです。この男カズヤは、今回の襲撃の相談をしていました。こいつらは命令通り動いただけなのです」


 テセウスは水晶玉をアリシアたちにも見せる。映像はぼんやりとしていて、ステラのホログラムほどの解像度はない。



「この映像こそ改変された偽物だ! こんな映像なんて幾らでも作り出せるじゃないか!?」


 思わずカズヤは反駁する。


 王宮に入った時に、水晶玉にカズヤの映像を記録していたのだ。それを改変したものを証拠として見せているだけだった。



「確かにこの映像だけでは証拠として足りないかもしれん。しかし、それを裏付けるような証人が複数いるのだぞ。いい加減、お前も観念して白状するがいい!」


 その場の空気は、完全にテセウスにコントロールされていた。



 アリシアやバルザードも、想定していなかった展開に戸惑っている。


 証言者を自分で用意して、証拠の映像すら偽造できる。こんな嘘ならいくらでもつけてしまう。DNA分析や指紋採取など、日本の警察で行なっていた科学的な捜査が懐かしくなった。



「この者たちの魔力痕はたどったのか?」


「いいえ。信じられないことに、彼らからは魔力が感じられないのです。証拠を隠すために、何か特殊な方法で魔力を消しているに違いありません」


 魔力痕という言葉を初めて聞いた。



 ひょっとして、この世界での捜査方法ではないだろうか。名前からすると、魔力を持った人間の行動には、魔力痕というものが残っているのかもしれない。


 カズヤもステラも、この世界の人間ではないので魔力は無い。そのことも、不利な証拠として利用されてしまった。



「……マスター。この王宮を破壊し尽くすことも可能ですが、どうしますか?」


 自らのホログラムを、陳腐なフェイク映像で否定されたステラは静かに怒っていた。


 ただ、この場でその台詞は逆効果だ。悪人の逆ギレにしか聞こえない。



「聞きましたか、陛下。これが奴らの本性なのです。王宮を破壊することも厭いません。公正な裁定をお願いします」



 テセウスが、カズヤの処遇に対しての国王の判断を要求した。

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