022話 魔術ギルド
「逆に私は、魔力が多すぎて苦労してきたからね……」
そういうとアリシアは、恥かしそうに自分の両腕を見つめた。
「この火傷の跡目立つでしょう? 私は子どもの頃から魔力過剰症という病気を持っていたの。魔力が大きすぎて制御できなくなっちゃうの。でも大変だったけど、そのおかげで魔力や魔法についてより深く学ぶことができたわ」
「そうだったんだ。でも、傷跡は別に気にならないよ。魔力を制御しようと頑張った証拠じゃないか」
そう言うとカズヤは、優しくアリシアの手を握った。
決して恥ずかしがることではない。精一杯頑張った努力の跡が残っているだけなのだ。
「そ、そうなのよ。ありがとう……」
しかし、少し驚いた表情で返事をしたアリシアを見て、カズヤはすぐに心の中でしまったと思った。
腕の傷をどの程度深刻に思っているかは本人次第だ。話題としてふれていい場合もあるし、ふれない方がいい場合もある。
それなのに軽々しく頑張ったなんて言うのは、少し上から目線だったかもしれない。
握られていた手を恥ずかしそうに外すと、アリシアは話を続けた。
「それに、そもそも戦闘で使う魔法は、魔術ギルドと契約しないと使えないんだけどね」
「……ん、どういうことだ?」
また聞き慣れない、魔術ギルドという名前が出てきた。
「攻撃魔法や防御魔法といった戦闘用の魔法は、魔術ギルドと契約したら使えるようになるの。契約しないと紋様が浮かび上がってこないから、魔法は使えないのよ」
以前、アリシアがブラッドベア相手に魔法を唱えた時に、腕に紋様が浮かび上がってきたのを思い出した。あの紋様はお金を払って契約しているのか。
カズヤが思い描いている魔法とは、少し違っていた。
「表向きは魔法が間違った目的で使われないように、魔術ギルドが管理しているということなんだけどね。生活魔法くらいなら誰でも自由に使えるわ」
「表向きってことは、裏向きの理由もあるのか?」
「そもそも、魔法を使うのにお金を払って許可をとるって、おかしいと思わない!? 紋様を更新して魔法を使い続けるにもお金がかかるのよ」
カズヤの不用意な質問が、アリシアのスイッチを押してしまったようだ。アリシアは急に目の色を変えて話し出した。
「もっともらしい理由を付けているけど、魔術ギルドが管理するなんて疑問しかないわ。それに、もし何らかの方法で魔法を使えるようになっても、必ず報告しなければいけないの。違反すると魔法を封印されてしまうのよ。なぜ魔術ギルドにそんな権限があるのかしら、おかしいと思わない!?」
すごいスピードでアリシアがまくしたてる。途中から何を言っているのか全く分からなかった。
「ただ、このことを皆に話しても理解してもらえないのよね。はじめからそうやって魔法を使ってきたせいか、異常なことに気付いてもらえないの」
魔術ギルドへの危機感を共有できないことに、アリシアはいらだちを覚えているようだった。
ただ、他人に魔法を管理されることに違和感があるのは理解できる。生活の大事な部分を他人に依存するのは、少し危険な気がした。
「姫さんは魔力過剰症と戦ってきたから、魔法にかなり詳しいんだよ。それに、暇さえあれば実験したりしているから、魔法については人一倍想いが強いんだ」
バルザードが、カズヤの肩に手を置きながらフォローしてくれた。
「ただ姫さんと言えども、魔術ギルドを批判するのは危険ですぜ」
「そうね、それは分かっているんだけど……」
少し納得のできない表情をしながらも、アリシアはこくりとうなずいた。
ステラの模擬試験はあっさり終わっていた。
カズヤもちらちら横目で訓練室を見ていたが、全く問題なかった。カズヤと同じように木刀を使っていたが、ステラが強すぎて試験官は全く相手になっていなかった。
そもそもザイノイドの筋力と動体視力が別格なのだ。相手の動きや呼吸を読み、隙を見つけると間髪入れずに決定的な一撃をくわえる。
ステラは、試験官を終始圧倒しながら倒してしまった。
「いやあ、まさか俺が初心者に一方的にやられるとはな。さすが姫様とバルザードの知り合いだ。彼女はDランクからのスタートだ」
試験官はステラに攻撃された箇所を、薬草で治療しながら苦笑していた。
涼しい顔をして訓練室から出てきたステラにも、カズヤは他の宇宙での魔法について尋ねてみた。
「アリシアに魔法について質問してみたんだが、魔法を使う星というのは珍しいのか?」
「この世界の魔法がどんなものなのか分かっていませんが、特殊な能力を使う星は他にもありました。ただ、星の組成や資源、生物種によって性質は違います。おそらくそれぞれの星が持つ個性的な能力を、人間や動物たちが使えるようになったのだと思います」
言っている内容は難しいが、ようするに星によって魔法の種類が違うということか。
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