020話 魔石の仕組み
「魔物も冒険者と同じように、強さや脅威にあわせてFからSまでランクがあるんだ。この前のブラッドベアがAランクだったから、かなりヤバかったのは分かるだろ?」
オークは一頭だけならDランクだが、群れになるとCランクになるらしい。
この冒険者という身分は、世界中に散らばる冒険者ギルドという職業団体が管理しているので、どこの国でも通用する。それがアリシアが勧めてくれた理由だった。
「冒険者ギルドってのは、冒険者が仕事を受けたり報酬の受け取りをする場所だ。ギルドに登録されて初めて、冒険者として正式に認められるんだぜ」
「ステラはともかく、俺は何もできないんだけど冒険者になれるのか?」
冒険者ギルドの役割は何となく分かったが、カズヤは自分が冒険者になれるか自信がなかった。
武器を握ったこともなく使い方も知らない。そのうえ魔法も使えないのに、魔物を退治する冒険者になんてなれるのだろうか。
「別に冒険者だからといって魔物と戦う訳じゃないから大丈夫よ。街の人の仕事を手伝ったり、薬草を採取する仕事だってあるんだから」
アリシアが助け船を出してくれる。運転しないけど身分証として使ったりする、元の世界の車の免許証のようなものかもしれない。
カズヤは少し安心しながら歩を進めた。
*
そして、冒険者ギルドに向かっている途中。道の両脇にあるテントで何やらきれいな石をたくさん売っている店を見つけた。
カズヤは吸い込まれるように引き寄せられると、売り物の石を見入ってしまった。
石は赤や青や黄色まで様々な色彩で溢れていて、ピンポン玉くらいの大きさからバスケットボール大の物まであって幅広い。
ガラスや宝石のように薄っすらと透き通っていて、石の中を何やら煙のようなものが、ゆらゆらと揺れている物もあった。
「この美しい石は何だろう? 宝石かな」
「それは魔石よ。服屋の灯りにも使っていたけど、見なかったかしら?」
カズヤは服屋の灯りを全く見ていなかった。服を選ぶのに精一杯で、建物の造りや設備など一切気にしていなかったのだ。
「魔石は生き物の体の中に埋まっている魔力の塊よ。魔力だけじゃなくて魔法を込めることもできるの。私たちは魔石を使って、明かりとか火とか、色々な物に利用しているのよ」
「他にも地中に埋まってたり、地表に出てきてるときもあるんだぜ」
「ということは、ブラッドベアを倒した時にも魔石はあったのか」
「そうよ、大きな魔石だったから大事に保管してあるわ」
この魔石がこの世界のエネルギー源ということか。元の世界の電気のようなものだと考えると想像しやすい。持ち運びできる魔石は電池のようなものだ。
「この魔石一個で、どれくらいの期間使えるんだ?」
カズヤは、ピンポン玉くらいの魔石を手にして覗き込む。表面は硬くてすべすべしているが、思ったよりも軽い。
「魔石の大きさや、込められた魔力の強さ、使う目的にもよるわ。部屋の明かりくらいなら何十日も保つわよ」
こんなに小さいのに十分な性能だ。電池より有能かもしれない。
「使い終わったらどうするんだ?」
「新しい物と交換して捨てるのよ。ほら、そこに空っぽの魔石が捨ててあるでしょう」
言われてみると、テントの横に透明になったガラス瓶のような物が山のように積まれている。これが使い終わった後の魔石なのか。
「だから冒険者が魔物を倒して、肉や毛皮だけでなく魔石を集める必要があるのよ」
なるほど、こうやって冒険者の仕事と生活が成り立っているのか。この世界の仕組みをまた一つ理解できた。
「ちなみに俺たちの身体の中にもあるんだぜ。人間にも獣人にもだ」
バルザードがニヤリとして教えてくれる。
そうだとすると、エルフやドワーフといった人種にもあるのだろう。ひょっとしたら、俺の身体の中にもあるんだろうか。元の世界の時には魔石なんか無かったと思うんだが。
「マスターの身体の中に魔石はありませんでしたよ。おそらく、この世界で生まれ育った生き物の中にあるんじゃないですか」
カズヤの治療をしたステラが教えてくれる。
(ひょっとしたら、魔力の塊である魔石が無いと、魔法を使えないかもしれないぞ)
カズヤの脳裏にそんな考えがかすかに浮かんだ。
さらに歩くと道の正面に石造りの頑丈そうな建物が現れた。
4階建ての大きな造りで、民家とは一線を画す重厚な存在感を放っている。大きな建物の横には魔物の死体が積み上げられていた。その周りで談笑している屈強な男たちが冒険者なんだろう。
「なんで魔物の死体を持ってきてるんだ。魔石を持ってくるだけでいいんじゃないのか?」
「魔物の身体は、装備や生活用品の材料になるからな。魔物の素材も高く売れるんだ」
バルザードは慣れた様子で建物の中にずかずかと入ると、こちらを見ながら受付の女性と話をしている。冒険者ランクを剥奪されていても、バルザードが気にしている様子はない。
バルザードが目くばせでカズヤとステラを呼ぶと、受付の女性に代筆してもらって書類を提出した。
「このあと訓練室で模擬戦をやらされるぜ。まあ、儀式みたいなもんだから適当で大丈夫だ」
「な、なんだって、初耳だぞ!?」
剣の握り方すら分かっていないのに、模擬戦なんてできる訳がない。ステラの装備を借りないと勝負になる気がしなかった。
「……ステラ、この前のブラスターを貸してくれるか?」
カズヤは、ステラのオーバーテクノロジーに頼るしかなかった。
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