012話 王女様!?
「彼はバルザードというのよ、近接戦闘が得意なの。この様子なら大丈夫そうね」
獣人の姿に驚いているカズヤを見て、アリシアが教えてくれた。
動きが鈍くなったブラッドベアは、ついに向きを変えて逃げ出した。
バルザードが、その背中に大きな槍を突き立てる。ブラッドベアは大きな叫び声をあげると、ついに動かなくなった。バルザードは倒した魔物を満足そうに見下ろした。
すると、バルザードがこちらの存在に気が付いた。アリシアの姿を見つけると、安心したように駆け寄ってきた。
「……姫さん、ご無事でしたか!」
獣人が人間と同じ言葉を発したことに驚いた。
そして何より……、
「お姫様!?」
アリシアに向かって「姫」と呼んだのだ。
アリシアは鮮やかな色彩と優雅さを兼ね備えた衣服を身にまとっている。一般市民では無く、身分が高い人なのかもしれないとは思っていた。
しかし、まさかお姫様だとは思っていなかった。豪華な服装や周りに指示を出す堂々とした態度にも納得がいく。
カズヤは、今までアリシアに自然とタメ口を使っていたことを後悔した。
今後は言葉遣いや態度に気を付けなければいけない、と密かに思い直す。
ところが、カズヤが気を引き締めたのとは裏腹に、ザイノイドであるステラは獣人のバルザードを見ると浮かれたように目を輝かせた。
「綺麗な毛並み……。すっごくモフモフしてます!」
ステラがバルザードの毛を撫でながら大騒ぎする。意外にも見えるステラの可愛いもの好きがここでも発揮された。
「な、なんだお前は!? なれなれしく身体に触るな!」
突然近寄ってきたステラに、バルザードも戸惑っている。
「バルくん、この人がブラッドベアを倒してくれたのよ」
「そ、そうなのか。今回ばかりはヤバいと思っていたから助かったぜ」
バルザードがステラに向かって礼をする。
こんなに大きな図体をしていて、『バルくん』などと呼ばれていることに笑いそうになる。
「ブラッドベアとオークが群れで襲ってくるなんて聞いたことないからな。Aランクのブラッドベアを一人で倒すなんて凄いじゃないか!」
「どういたしまして、私はステラといいます。バルちゃんっていう名前なんですね」
「お、おお、そうなんだ。よろしくな……」
ステラはバルザードの毛並みに夢中で、まるで会話がかみ合っていない。
バルザードは諦めたようにステラから目をはなすと、今度はカズヤの方に向き直った。
「お前がオークを一掃するのも遠くから見ていたぜ。すごい魔法を使うんだな!」
「いや、俺じゃなくてこの武器が凄いだけなんだ」
カズヤ自身は大したことをしていないが、褒められるとまんざらでもない。
「何という魔導具だ!? 俺様は世界中を回ってきたが、こんな武器は見たことがないぞ」
こういう魔法の武器のことを魔導具と呼ぶのか。
まあ、それはそうだろう。ブラスターはこの世界の物ではなく、他の星から持ち込まれたものだ。
「そのステラが用意してくれた武器なんだ。俺も詳しくは分からない」
アリシアの興味も、二人が乗ってきたウィーバーの方を向いていた。ウィーバーは二人が降りても空中に浮いたまま、微妙な距離をあけて付いてきていた。
「変わった乗り物だな。この形はどこかで見たことがあるような気もするが……」
バルザードが興味深そうにウィーバーを見つめる。
「不思議な乗り物ね。カズヤはどこから来たのか思い出した?」
「いいえ、それが……。どうやら、遠い星から来たみたいなんです」
あまりにも幼稚な答えで申し訳なくなる。
「遠い星? ここはエルトベルクという国なんだけど、それは知ってるかしら?」
「いいえ、ここはエルトベルクという国なんですね。この辺りどころか、この世界のこともよく分かっていなくて困ってるんですが……」
アリシアは純粋に疑問に感じたことを尋ねてくる。あまりにも怪しい二人だが、詰問するような口調ではないことに少し心が救われた。
「それなら是非私の国に招待したいわ! 街を案内してあげる。二度も命を救われたんだから、しっかりお礼しなくちゃ」
アリシアは怪しい二人組を歓迎してくれるようだ。
「あの、俺の言うことを信じてもらえるんですか?」
「星っていうのが何のことか分からないし、正直ちょっと信じられない話ね。でも、あなたたちの不思議な服装や乗り物、凄まじい威力の武器を見ていたら嘘では無い気がするの」
確かにカズヤとステラが着ているボディスーツのような服装は、鎧姿の人達からしたら違和感だらけだろう。
「それに、別の機会でいいから、この不思議な魔導具を詳しく見せてくれるかしら。私の研究に役立ちそうな気がするの」
「いいですよ。その代わりに、この世界について教えてもらってもいいですか?」
「もちろんよ!」
ステラが無言でうなずいたのを確認したカズヤは、この世界の情報との交換を提案する。
アリシアは喜んで同意してくれた。
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