009話 光線銃

 

 カズヤは、ステラに従って宇宙船の外に出た。


 扉の外には、宙に浮いたエアバイクが待ち構えていた。銀色のボディが光り輝き、滑らかなデザインが未来的な印象を受ける。



「私たちがウィーバーと呼んでいる乗り物で、変形すれば宇宙でも操縦可能です。私がコントロールするので、マスターは後ろに乗って下さい」


 ステラは、軽やかに身をひるがえしてウィーバーに乗りこんだ。



 カズヤはステラの後ろにまたがると、おそるおそる腰に手を回す。ステラの身体の表面は、人間の皮膚と同じくらい柔らかくてドキリとした。


 いくらロボットだと言われても、こんなに近くで女性にふれるのは久しぶりだった。


 ほっそりとして華奢な体つきだが、身体の芯はしっかりとしている。強くしがみついても微動だにしなかった。



「マスターの心拍数が急に上がりましたけど、どうしましたか?」


「い、いや、皮膚は人間と同じなのかなって……」



「人間の皮膚とは違いますが、頑丈に作られているので多少の衝撃では損傷しません。生半可な武器で斬られても、傷すらつかないでしょう」


 後ろからしがみついて緊張しているのを、カズヤは適当な質問で誤魔化した。




 二人を乗せたウィーバーは、宙を滑るように音もなく動き出す。徐々に加速すると、恐ろしいスピードで木々の間を抜けていった。


 木や岩の狭いすきまを、風を切りながら高速移動で抜けていく。ステラが完璧に操縦しているので、枝葉の一つにもかすらなかった。



 しばらく飛ぶと、森を抜けた。


 すると、魔物と戦闘している30人ほどの人間の集団が目に入ってきた。騎士のような鎧姿で戦っている者や、杖を持って炎を飛ばしている者もいる。



 戦っている相手は、オークと呼ばれる豚のような顔をした魔物だ。筋肉質の身体で、背の高さが2m近くある。二足歩行で移動し、手には棍棒を持っていた。


 そのオークが50体以上もいるような大きな群れが、人間たちに襲い掛かっているのだ……!



「マスターが出会った、アリシアと思われる女性もいます。どうやら味方と合流できたようですね」


 ステラが教えてくれた方向を見ると、確かにアリシアがいた。肩に届くくらいの赤い髪と、鮮やかな赤色の目。


 間違いなかった。



 魔法使いの装いをしたアリシアは、杖を握りしめてオークに攻撃していた。アリシアの杖から竜巻が起こり、敵を巻き込んで吹き飛ばす。


 そして戦いながら、周りの騎士たちに次々と指示を出していた。


 森の中に一人でいたアリシアが、無事に仲間と合流できたようでひとまず安心する。




 しかし、カズヤの目に映ったのは、さらなる予想外の魔物だった。


「えっ……!? あのブラッドベアが二匹もいるのか!」



 群れのなかで、ひと際大きくて目立っている魔物がいる。それは、カズヤが襲われたあのブラッドベアだ!


 人間をはるかに上回った体格で、全長5mはある。深い茶色の毛で覆われた熊のような姿で、口元から大きな鋭い牙が突き出ていた。



 手前と奥の2箇所で騎士たちを相手にしているが、全くひるむ気配を見せていない。


 豚の顔をしたオークを含め、人間一人に対して複数の魔物が攻撃してくるので、人間側はかなり苦戦している。


 優勢なのは魔物の方だった。このまま傍観していたら、全滅してもおかしくない雰囲気だ。



「これはまずいぞ、少しでも手助けしないと……。ステラ、俺でも使える武器はないか!?」


「これはどうでしょうか、ブラスター光線銃と呼ばれる一般的なライフルです。どんな運動音痴でも使えるように開発されたものなので、マスターでも大丈夫なはずです」



「そ、そうか。それは助かるな……」


 カズヤは引きつった顔で返事する。


 ステラに悪気は無さそうだが、ストレートな物言いに少し自信を無くしそうになる。



「持ち主の思念を読み取る武器なので、敵をはっきりと決めてください。あとは自動照準なので、大体の方向に向けて発射するだけで光線が飛んでいきます」


 操作が簡単でほとんどが自動化されている。これならカズヤでも使えそうだ。



 渡されたブラスター光線銃を受け取ると、ザイノイド化された右腕とよく馴染んだ。


 カズヤは右手でブラスター光線銃を構えると、まずはオークを標的として念じてみる。思念を読み取るというのがよく分からないが、試しに敵としてはっきりイメージしてみた。


 そして魔物の方へ照準を合わせて、何となくトリガーを引いてみる。



 すると、激しい勢いで放たれたレーザー光線が、弧を描いて飛んでいった。光線は、そのまま狙っていたオークに直撃する。 


 叫び声をあげて吹き飛ぶと、撃たれたオークは立ち上がってこなかった。


 なんと、たった一撃で倒してしまったのだ!



「これは凄いぞ!」


 カズヤは別のオークに狙いを定めると、ブラスター光線銃から次々と光線を発射する。


 魔物が倒されていく様子を見て、戦っている騎士たちからも大きな歓声があがっていた。

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