008話 アリシア救出
「ご覧になりますか?」
ステラはエネルギーコアを見せるために、胸のボディスーツを開けようとした。
「大丈夫だよ! 話を聞けば分かるから!」
ステラの真っ白な肌が見えそうになったので、カズヤは慌てて顔をそむけて遮った。羞恥心は人間とは違うのだろうか。
「それじゃあ、俺の右腕はどうなるんだ?」
「マスターの右腕も、定期的にエネルギーコアを交換する必要があります。機能面でも生体のときより、腕力や制動性が数十倍向上しているはずです」
右腕を動かし続けるには、カズヤもエネルギーコアが必要になるらしい。
右腕の機能が上昇しているのはまだ実感できないが、温度や圧力などは何となく正常に感知しているという状態だ。
「ロボットということは、身体能力も人間とは違うのか?」
「個体差が大きいのですが、握力や跳躍力、瞬発力は人間の数十倍です。もちろん疲れることはありません」
おそろしいほどの身体能力だ。
疲れを知らないというのが、地味に一番大きなメリットかもしれない。
「目や耳は、どうなってるんだ?」
「目や耳に限らず、ザイノイドには人間が持つほとんどの機能が備わっています。目や耳は外部からの刺激センサーになっていて、一般の生物よりも感度はいいはずです。臭いも感じますが、異常を感知したときにアラームを出すのが主な働きです」
ザイノイドの感覚も、人間よりすぐれていて鋭敏だ。
ただ嗅覚がアラームを出すのがメインなのは味気ない。いい香りだって、場合によっては臭い香りだって大事な感覚だ。たんなる情報やデータの一部として扱われるのは少し残念だった。
それにしても……、とカズヤは自分の心の変化に驚いていた。
会話を続けるうちに、ステラをロボットでは無く、普通の人間のように感じ始めていた。
人間のように好きなものや嫌いなものがある。自分が良いと思うことを提案してくる姿は、人間の行動と何の遜色もなかった。
「……あの、ザイノイドにも心はあるのかな?」
「当たり前じゃないですか。私を何だと思ってるんですか? 生き物でなくても知能が高くなると、自我を持つ者が出てくるんですよ」
ステラが少し怒ったような口調で言った。
なるほど。たしかに人形にすら魂が宿る場合があるという話を聞いたことがある。こんなに精巧なザイノイドなら、魂が宿っても不思議ではないのかもしれない。
だがカズヤが今まで何の興味も持たなかった分野なので、たいした知識は持っていない。
「でも、自我なんて持ったら人間の指示に従うのか?」
「当然、自我を持つと従わない者も出てきます。ですから私たちザイノイドは、基本的には人間の指示で動くように制限されています」
地球でも、そんな話が議論されていたかもしれない。ひょっとしたら地球での知識が役に立つかも、と思い出そうとするが、すぐに大した意味がないことに気が付いた。
それを遥かに超越したロボットが目の前に存在しているのだ。カズヤはとりあえず、自分が置かれたこの世界に専念することにした。
すると会話の途中で、ステラが急に話を遮った。
「……マスター、先ほど放出したボットが、この近くで数十人ほどの人間種の集団を発見しました。おそらく、マスターを襲ったのと同じ種類の魔物と戦っています」
ステラの報告を聞いて、ブラッドベアに襲われていた魔法使いの女性・アリシアのことを思い出した。
カズヤが助けられたのは昨日だと言っていたが、まだこの辺りにいたのか。
カズヤの姿を見失ったあの魔物は、再びアリシアを追いかけるに違いない。このままでは、アリシアが危ない。
「そこにアリシアがいるかもしれない。助けに行けないか!?」
「その女性は、マスターと一度面識があるだけですよね。危険を冒してまで助ける必要はないと思いますが……」
「前回はアリシアが俺を助けてくれたんだ。今度は俺が助けに行きたい、ぜひ行かせてくれ!」
カズヤは必死で訴えた。
ステラは、しばらく考える様子で沈黙した
「了解しました。ただし、マスターだけでは心配なので私も同行します」
「もちろんだ、ぜひお願いしたい!」
ステラが同行してくれるなら、むしろ有り難い申し出だ。マスターとしての指示と受け取ったのかもしれない。
カズヤはお礼に、ステラの手をぎゅっと握りしめる。
両手を握りしめられて、ステラの表情が一瞬変わったような気がした。だが、またすぐにいつもの冷静な顔へと変わる。
「そうと決まったら、すぐに出発しましょう。外に乗り物を用意します」
ステラが宇宙船の壁に向かって歩き出すと、音もなく壁が無くなって扉が現れる。
カズヤは、ステラに従って宇宙船の外に出た。扉の外には、宙に浮いたエアバイクが待ち構えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます