005話 ステラの語学学習
艶のある短い青髪が光った美しい女性が、こちらに向かってゆっくりと歩いてくる。
その女性は人間味を感じない、例えるならば青い目をした西洋人形のようだった。
胸の膨らみはそれほど大きくはなく、身体の線が折れそうなほどに細い。顔の無表情さと相まって、機械的で独特な美しさをかもし出していた。
服装はカズヤと同じようなウエットスーツに近い、身体にぴったりと密着した半袖の衣服を着込んでいる。
アニメや映画で見るような、空想上の宇宙船の乗組員が着るような服だ。外にとびだした肘の部分には、機械のような部品が見えている。
「※※※※※※※※※、※※※?」
女性がカズヤに向かって言葉のようなものを発する。
しかし、今度は一度も聞いたことが無い言葉だ。カズヤは、何を話しているか分からない、といった風な動作をしてみる。
それを見た女性は、ニュアンスを変えながら色々な言葉を発するが、どれも聞き覚えが無い。
英語やフランス語、中国語くらいなら、意味は分からなくても種類くらいは判断できる。だが、そのどれとも似ていなかった。
カズヤに対して何も言葉が通じないと分かると、女性は少し考え込むように押し黙った。そして、しばらくするとカズヤの目の前に大きく手をかざす。
すると、アニメやゲームで見るような3Dホログラムのスクリーンが、空中に映し出された。
カズヤが驚いてスクリーンを眺めていると、女性が何かを発声した。ホログラムには人間の身体の一部の映像がうつし出される。
その映像を見ながら、女性はカズヤに口を動かすジェスチャーをした。
(この名前を言えというのか!?)
カズヤは女性の指示通り、映し出された箇所の名前を日本語で答えた。
女性は深くうなずくと、今度は次の言葉を発する。すると別の映像が映し出され、その都度カズヤに答えるように促していく。
(まさか、これで言葉を覚えるつもりなのか……!?)
ステラが映し出すホログラムのスクリーンには、人間や動物、日常生活で使う道具や見たこともない映像が次々と映し出された。
カズヤは分かる限りの語彙で一生懸命に答えた。
写真のような映像が終わると、今度は短い動画が流れて、一連の流れを文章で説明するように促された。これで文法や言葉の組み立てを学んでいるのかもしれない。
何かの心理テストをやらされている気持ちで、カズヤは指示されたとおりに答え続けた。
体感で30分ほど経っただろうか。
ひと通り映像による作業を終えると、女性はあらたまった様子でこちらに向き直した。
「……私の言っていることは分かりますか?」
彼女は完璧な日本語を話し始めた。
(本当にこの短時間で学習したのか!!)
イントネーションは少しおかしいが、十分に理解できる。こんなに短時間で学べるなら、この程度の違和感はすぐに修正してしまうだろう。
「あ、ああ。分かるよ……。君は本当に、この短時間で話せるようになったのか!?」
「まだ不自然な部分があるかもしれませんが、大体は伝わるずです。あなたが知っている分類でいうと私はロボットにあたるので、言語分析は得意な方です」
「えっ、君はロボットなのか!?」
「私の星ではザイノイドと呼んでいます。広い意味では、身体の一部でも機械化することをザイノイド化と呼びますが、私の場合は生まれたときから機械で作られたザイノイドです。少なくとも生物上の人間ではありません」
自然な表情と動きを見ていると、どう見ても人間にしか見えない。関節部分からカズヤと同じような機械らしきものが見えているが、言動にロボットらしさは微塵も感じなかった。
あえて言うなら人間離れした知力と、人形のような端正な美しさだろうか。見た目は人間の女性にしか見えないのに、こんなにも科学技術が進んだ世界があるのか。
「そうだ、俺を治療してくれたのは君なのか? 右腕が機械のような部品に変わってしまってるんだけど……」
カズヤは、一番気になっていたことを尋ねた。
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