005話 カズヤ無双
「これなら、小型の魔物はカズヤさんに任せて大丈夫ですね」
オークをカズヤに任せられると判断したステラは、走っているウィーバーの上に立ちあがった。
すると折り畳まれたブラスターが、更に長いライフルへと変形する。
「何だ、その武器は!?」
「ブラスターより威力が大きいフォトンライフルです。私は大型の魔物を狙います。カズヤさんには、ウィーバーの運転をお願いします」
「ちょっ、待ってくれ……。運転方法なんて聞いてないぞ!」
カズヤは慌てて前方のハンドルを握る。
「ブラスターと同じです。ハンドルを握った人の思念を読み取るので、行きたい方向を想像してください」
ステラは、走行中のウィーバーの上からヒラリと一回転して飛び降りた。
着地するかと思いきや、足が接地する寸前に10cmほど浮き上がる。そのまま地面の上を、氷上スケートのように軽やかに滑っていく。
ウィーバーにも負けないスピードで、魔物めがけて飛んでいった。
魔物が密集しているところに近付くと、ステラはおもむろにライフルを構える。
構えた瞬間に、さらに銃が変形する。
「……まずは、周りのオークが邪魔ですね」
ステラは空中を右へ左へ滑るように移動しながら、スナイパーのような姿勢で魔物を狙う。
しばらく体勢を維持したかと思うと、カズヤの胴体くらいある太い光線が発射された。
まっすぐに飛んでいった光の塊がオークに命中すると、3体まとめて吹き飛ばしてしまった。
「すごい威力だ……! ブラスターの比じゃない」
フォトンライフルの破壊力に、カズヤも思わず攻撃の手を止めて見入ってしまった。
「もしかして、カズヤ……!? 生きてたの?」
すると戦場の離れたところから、カズヤを呼ぶ声が聞こえる。
アリシアも、カズヤたちの存在にも気が付いたのだ。
「アリシア、助けに来たぞ!」
カズヤはアリシアに向かって大きく手を振る。別れてからの事情を説明したいが、もう少し戦闘が収まってからだ。
「……カズヤ、後ろ!!」
しかしすぐに、アリシアから切迫した声が飛んできた。
後ろを振り返ると、もう一体の別のブラッドベアが間近に迫っている。
そのブラッドベアは他の騎士たちにはわき目もふらず、一直線にカズヤ目掛けて突進してきていた。
「こいつは……!」
カズヤは瞬時に理解した。
そのブラッドベアは、以前カズヤと対峙した個体だった。
もちろん、魔物を識別する方法があるわけではない。だが、その血走った目を見た瞬間に、カズヤは間違いなく同じ個体だと確信した。
地球の野生動物と同じだ。
逃げられた獲物に執着しているに違いなかった。
突進してきたブラッドベアが、問答無用でカズヤに鋭い爪を振り下ろしてくる。
「危ないっ……!」
アリシアの悲鳴が響く。
咄嗟にカズヤは、反射的に右腕で身体をかばった。
大地が裂けるような強烈な一撃。激しい衝突音が辺りに轟いた。
「えっ……?」
しかし、カズヤは何事も無かったかのように、その場に立ち尽くしている。
無論、どこも傷ついてはいない。
アダプトスーツを着たカズヤの右腕が、凶暴なブラッドベアの剛腕を軽々と受け止めたのだ。
そのうえ鋭い爪を受け止めただけでなく、勢いすらも緩和している。
激しい衝撃を覚悟していたカズヤは、たやすく弾き返したことに驚愕した。
一度は逃げ出した虚弱な相手だと見くびっていたブラッドベアも、意外な抵抗に驚いているように見えた。
「アダプトスーツで関節部が強化されています。同じ空間に留まり続けるスタビライズ機能も付いているので、この程度の攻撃では傷一つ付きません」
カズヤの戦闘を見ていたステラが、冷静に状況を説明する。
ブラッドベアがカズヤに襲い掛かる様子を見ても、ステラは助けるまでも無いという風に落ち着いていた。
怒りが頂点に達したブラッドベアは、もう片方の腕でカズヤを捕まえようと迫ってくる。
「う、うわぁっ……!」
思わずカズヤはブラッドベアの腕を捕まえ、思い切り握りしめた。
「グオオオオオッッ!!」
今度はブラッドベアの叫び声が空気を震わせた。
魔物の左腕がだらりと垂れ下がって脱力している。
アダプトスーツの握力で、ブラッドベアの左腕の骨を粉砕したのだ。
「腕力は以前の20倍以上です。この程度の魔物なら力比べでも負けません」
ステラが、淡々と戦況を解説している。
もちろん、ブラッドベアは戦意を失っていない。カズヤの左腕に噛みつこうと、鋭い牙がぎらりと光った。
しかしカズヤは狙われた瞬間、大きく腕を振り上げた。
強靭な腕がブラッドベアの口を掴んで頭ごと抑え込む。魔物が苦しげに唸り声をあげるが、力を緩めることはない。
そして、そのまま容赦なく頭を地面に叩きつけた。
「何なんだ、この強さは……!」
巨大な魔物を圧倒する力に、当のカズヤ自身が一番驚いていた。
以前は手も足も出なかった魔物を、一方的に追いつめているのだ。
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