神様(?)との邂逅 ~スキル判明~

「神様も驚くんだね? ふふっ、なんだか人間みたいだ」


 どうやら昨日は食事が残らなかったようだ。

 いつもなら妹のソフィアがコッソリと食事を届けてくれるんだけど。

 まあ、ないものは仕方がない。

 妹は僕のために食事を残そうとするけど、それは妹の成長のために断っている。


 そんなことより、さっきから頭に聞こえる声は何なのだろうか?

『お姉ちゃん、なにこれ! どうなってるの!?』とか『私が聞きたいよ!』なんて言い合っていて騒がしい。


「あの神様たち、少し静かにしてもらえませんか? 周りに聞こえたらちょっと僕が困るので……」


『……』


「うん、ありがとうございます」


 さて、この不思議な声は何が原因で聞こえてきたのだろうか?

 うーん、わからないや。まあ、考えてもどうしようもないことは後にしよう。

 とりあえず、顔を洗って水汲みに行こう。

 いつもの日課をこなしに、僕は屋敷の裏手に移動する。


 井戸から水を汲み、顔を洗う。顔を拭く布なんてない。

 だから、いつものように服で顔を拭う。

 そろそろ寒い季節になってきているから、風邪をひかないようにしないとな。

 妹も風邪をひかないか心配だ。まあ、僕よりは環境はいいはずだから、大丈夫か。


 屋敷の裏手側にある厨房に入り、水瓶に残っている水をまず捨てる。

 そのあとは水瓶いっぱいになるまで水を汲んで、井戸と厨房を往復するだけだ。

 水を汲み終わったら、優しい料理長が僕のためにいつも早朝にパンを焼いて待ってくれているので、なるべく迷惑がかからないように手早く朝食を終える。


 食べ終わった食器を片付けてからは今着ている服から着替えて、日が出ているうちに自分の服を洗濯する。とは言っても、乾かすのは小屋の中になるんだけどね。

 服は屋敷の使用人たちの子どものお下がりをもらっているので、彼らに感謝して大事に着ている。


 僕の家は侯爵家という身分で、僕は嫡男だけど生まれ持つスキルが何のスキルかわからなかったために、このような扱いを受けている。

 両親は僕のことをすでにいないものとして扱う。

 母がいるうちはまだ屋敷の中で生活できていたが、母が亡くなり、継母が来てからは徐々に部屋から使用人部屋に、そして今の小屋に生活圏が移動していった。


 継母の連れ子のソフィアは僕に懐いていたが、継母が間に入るようになり、いつしか姿を見ることが出来なくなった。

 最近になって再会することが出来たのだが、その時にはボロボロの状態の僕を見て妹は僕の環境や事情を知ってしまい、僕を思って泣いてくれた。

 優しい妹の存在に僕も一緒になって泣いた。


 それ以来、妹は両親に隠れて僕の世話を焼いてくれるようになった。

 パンを持ってきてくれたり、使用人たちに僕の面倒を無理のない範囲で見てくれるように言ってくれたんだ。


 妹は昼食のあとの散歩の時間に僕のもとに訪ねて、僕に勉強を教えてくれる。

 妹のおかげで、読み書きと簡単な計算は僕にも出来るようになった。

 勉強が一区切りつくと、妹の両親に対する愚痴を聞く時間だ。


 最近は侍女が入れ替えられて、監視が厳しくなっていると話してくれた。

 前まで仕えてくれた専属の侍女は強引に辞めさせられたらしい。

 あの人は僕にも優しかったのに、残念だな。




 時間が来たらしく、名残惜しそうにしている妹を見送って、僕は乾いた服を畳んで棚に置く。

 そういえばと思い出して、僕はスキルに意識を向けてみる。

 眼前に浮かぶそれを見て、なんて書いてあるか読めないことにいつものように残念に思っていると、再び脳内に朝聞いた声が聞こえてきた。


『お姉ちゃん、お姉ちゃん! 起きてってば! リノくんのスキルがわかったよ!』


『ふぇ? え、なに? スキルがわかったって!? 何のスキルなの!?』

『≪配信≫だって!』

『≪配信≫?』


「ハイシン? って、なんですか? 神様?」


『ああ、リノくんにはこっちの声が聞こえるのね? すごいわね、リアルタイムでやりとりできるなんて。どういう技術なんだろう?』

『私にもわかんないよ。いくらなんでもゲームの世界に干渉してるわけじゃないと思うし、ドラマか何かを見せられている感覚だったよ。だから、途中でうとうとしちゃったんだし……』


「あ、あの……」


『あ、ごめんね! リノくん、もう少しスキルウィンドウを私たちによく見せて!』

『うんうん、私たちはそこに書いてあることが読めるから教えてあげられるよ』


「本当ですか!? よろしくお願いします!」


 僕は唐突な吉報に飛びついた。

 今までわからなかったスキルがわかるようになるんだ。

 これで両親も僕を見てくれる――訳ないか。

 どうせなら、このままどこか遠くに行った方がいいはずだ。


『リノくん? どうしたの?』

『悩み事があるなら私たちに話してごらん?』


「あの、実は――」


 僕は思い切って、この神様たちに事情を話すことにした。

 神様たちは泣きながら話を聞いてくれた。


『うぅ……、知っているつもりだったけど、本人の口から聞くとなおさら悲しい』


『そうだね、お姉ちゃん。でも、スキルのことがわかったんだし、私たちなら、リノくんを幸せにしてあげられるよ!』

『私がリノくんを幸せにしてあげるんだ! 金ならいくらでもある! 使う暇もないし、推しに使えるなら私も幸せだ!』


「あ、あの……」


『あ、名前がないと私たちのことは呼びづらいよね? じゃあ、私のことはメルティって呼んでね? ほら、お姉ちゃんも!』

『なら、私のことはミルティって呼んでね!』


「女神メルティ様、女神ミルティ様。僕のことを心配してくれて、ありがとうございます。それでスキルのことなのですが――」


 それから女神様たちに僕のスキルのことを聞くことが出来た。

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