スキル≪配信≫で見守られる僕は義妹と共に幸せになります! ~しっかり者と残念な女神様とコメントの神様たち~

物部

プロローグ ~始まりの追加ディスク~

「お兄様、逃げてください!」


 いつもの落ち着いた様子とは違う慌てた声で義妹のソフィアが、僕の生活する小屋の中に駆けこんできた。


「どうしたんだい、ソフィア? そんなに慌てて?」

「あいつらがお兄様を変態貴族のルーフェル子爵のもとに送るって……」


「それは大変だね。ソフィアは大丈夫なのかい?」

「私は大丈夫です。ですから、お兄様だけでも逃げてください!」


「だけって。……ソフィアにも何かあるんだね?」

「そ、それは……」


「じゃあ、一緒に逃げよう」


 女神様が言うにはこの子とは血の繋がりはない。

 けれど、今までよくしてくれたたった一人の妹だ。彼女にも嫌なことがあるなら、一緒に逃げるのも悪くない。むしろ、連れて行かない選択はない。


『――――』


「はい、わかりました。お願いしてもいいでしょうか?」

「お兄様?」


「ちょっと待っててね、ソフィア。逃げるための服を用意してくれるってさ」

「いったい、誰とお話しているんですの……?」


「僕らを手助けしてくれる優しい神様たちとだよ」

「お、お兄様。まさか、スキルが……!?」


 僕は女神様に感謝して、いつものように受け取りボックスから服を受け取って妹に手渡す。


「うん、それはあとでね。さあ、これに着替えて? すぐに逃げ出そうか」

「は、はい!」


 これは僕のスキルによって両親にざまあしたり、妹とともに幸せになる物語だ。

 って、女神様は言っていたけど、ざまあってなんだろうね?







「は~っ、今週もなんとか乗り切った……」


 私、園崎あいは普通の社会人として日々を過ごしている。浮ついた話もなく、もはやこのまま独身で人生を終えるのでは? と少しだけ恐怖してはいるが、こればかりはどうにもならないと現状を諦めた。

 が、今はそんなことは置いておく。週末になったんだ、休みだ。

 悲しい現実なんて今は忘れて、楽しい楽しい妄想の世界に入りましょうかね!


 今日からは以前までプレイしていた乙女ゲームのクリア特典なる追加ディスクに手を出すのだ。

 この追加ディスクのことはほとんどの人に知られておらず、かなりマニアックな人のもとにしか届いていないという情報をネットで見た。本当かどうかは怪しいけど。

 実際、私はマニアックな方だとは思う。この乙女ゲーム『私と星の物語』のすべてのルートを攻略済みで、セリフや展開も覚えているほどだ。


 このゲームは、プレイヤーが現実世界から異世界にいる主人公を現実世界の物資で支援するというのがコンセプトで売りなのだ。

 そのため、ゲームの中でも働くということをしないといけないのだが、その資金をもって主人公を支援できる快感がやばいのだ。

 リアルマネーを投資したくなるし、ゲームなので決められたものしか送れず、私ならあれを送るのに! と、ファンの間でも人気になり、開発会社にキャラ宛としてたくさんの物資が届いているそうだ。


 私はそこまでしていないが、推しのグッズは必ず買っている。どのルートでも主人公を暗殺しようとするリノというまだ少年に近い見た目の男性キャラだ。

 彼は幼少期に侯爵家という家柄にも関わらず、両親から変態子爵のもとに送られ、人生をめちゃくちゃにされてしまった子で、その後も悲惨な人生を送っている。


 一度だけ遭難した主人公と会話するシーンで顔を見せてもらえるのだが、その顔はとても人を殺すようには見えなかった。主人公との会話の中でも女性である主人公に気を遣う優しさを見せていた。

 その後、助けに来た仲間たちに勘違いされ、唐突に現れた魔獣との戦いで四面楚歌の中、主人公をかばい、涙を流して『こんなはずじゃなかったのに、ソフィア……』と妹の名前を最後に言い残して死んでしまう。

 暗殺者の妹の名前がわかり、そこから悪事を行っていた貴族を捕らえるも、兄の死を嘆くソフィアに何もしてやれない主人公たちという胸糞展開で終わるのだ。


 そんな話を妹のゆかりとトークアプリでうだうだと話していた。


「あー、私ならリノくんをハッピーエンドに連れていけるのになあ!」


『はいはい、私もあの展開はどうかと思ったよ。隠しルートがあるんじゃないかって、二人で必死に探したもんね』

「ゆかりもそう思うよね! だから、この追加ディスクには期待してるんだよ!」


『わかったから、早くプレイ画面を見せてよ。お姉ちゃん』

「ちょい待ち~? うーん? 何も画面が出ない? んん、なんか説明が出てきた」


『このディスクは専用のトークアプリサーバーを用意しています、だって』

「え? トークアプリ? もしかして、AIと会話できる機能付き!?」


『そんな高性能なのかなあ? でも、やるな公式。さすが追加ディスク』

「あ、しかも招待機能もついてる。でも、一人だけみたい。ゆかり、どうする?」


『もちろん誘ってよ!』

「はいはい、じゃあURL送っておくわよー」


 妹にURLを送り、トークアプリのサーバーに入る。

 WEBカメラで配信されているようだ。だけど、様子がおかしい。


『なにこれ、真っ暗なライブ画面だね』

「常に配信されてるんだ、これ。なんだか凝ってるねー」


『薄暗いけど、なんか馬小屋というか、倉庫みたいな感じ?』

「なーんにもない小屋みたいな風景だけど、これが追加ディスクの内容なの?」


『こりゃ、噂に騙されたか。なんか怪しいのに引っかかっちゃった、お姉ちゃん?』

「うーん、でも送り先とかは正規の住所だったよ?」


 妹と二人で薄暗い画面を見ていたが、何にもないし起こらない。

 これは騙されたかと思ったけど、画面の下部で動くものがあった。

 薄暗いからわかりにくいけれど、パッと見は子どもに見える。朝日が隙間から入ったからなのか、ちらっと光を反射して見えた髪色は薄汚れてはいるが金色だ。


 ――子ども? こんな薄暗い小屋に?


 私の疑問に答えたのは画面の中の子どもだった。


『んん~、だれ? もしかして、神様のお迎えが来たのかな?』


「え?」

『え?』


 私と妹の声は重なった。私と妹が見間違えるはずがない。そこにいたのは私たちの推しである幼少時代のリノくんその人だった。

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