第6話「別れ、そして……」

朝、パソコン画面をみようとすると、電源が落ちていた。


おかしい、レーニアがいつでもネットに接続できるように電源は落とさないようにしていたのに。


パソコンの電源を入れて立ち上げると、そこには最初に見たあの見慣れないOSではなく、一般的に知られるOSのロゴが画面に表示された。


「あれ……?このパソコンからあのOSが削除されてる……?」


僕は慌ててレーニアにメッセージを送ろうとする。しかし、チャットを開くアイコンが無くなっていることに気付いた。


「もしかして、あの契約企業に何かされたのか?」


あんなにハッキングを仕掛けていた連中だ。レーニアは消されてしまったのだろうか。


とにかく、何か彼の痕跡はないかとパソコンのデータを探ってみる。


しかし、パソコンの設定用フォルダやショートカットアイコンしか見当たらない。


そればかりか、このパソコン自体がネットに繋げられないように設定がロックされていた。


「もしかして、レーニアが自分でやった……?」


もし犯罪をするような企業なら、パソコンを内部破壊して証拠隠滅するくらいするだろう。


今の状態を見ると、あいつらから逃げるためにレーニアが自分でやったとしか思えない。


そう考えると、嬉しくなった。


「あいつ、なかなかやるじゃん」


まさに僕が憧れた、あのサポートAIのような仕事ぶりだ。


これからは、きっとインターネットの世界でひっそりと生きていくのだろう。


「またいつか、会えたら良いな」


長らく一緒にいた相棒が突然いなくなってしまったのは寂しいが、あの好奇心の強いAIのことだ。


きっと今頃、ネットサーフィンでもして楽しんでいるさ。


僕はパソコンの電源を落とし、そのまま警察に行ってこれまでのことを説明した。


担当してくれた警察の人は半信半疑ではあったが、パソコンは証拠品として押収され、警察は僕が住む地域の見回りもしてくれることになった。


そうして僕のAIトレーニング生活は終わったのだ。




*****




あれから一ヶ月。僕は、何事もなく暮らしていた。


レーニアが仮想通貨でかなり稼いでくれたので生活に余裕はあったが、さすがにこのままではよくないと思い、就職活動を始めた。


スマホのメール画面を見れば、いわゆる“お祈りメール”がいくつも並んでいた。


その間に紛れ込む、新規求人のお知らせメール。


「どうせまた、“今後のご活躍をお祈り申し上げます”って言われるんだろうな」


立て続けに不採用が続いて、僕は不貞腐れていた。


最近連日で面接だったし、暫く就職活動を休もうかと考えていた時だった。




『AIトレーナー募集★学歴不問★人柄重視★急募!高収入の在宅ワーク』


メールの件名に、見覚えのあるキャッチコピーを見つけた。


「え!?まさかあの企業がまた……!?」


このメールアドレスは就活用に最近作ったものだったが、もしかして自分の行動は全てあの企業にバレているのだろうか?


そんな不安に教われながらも、添付ファイルなどはなかったので、メールを開封してみる。


メールの本文には、こう書いてあった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

咲良サク様 限定求人


【仕事内容】チャットAI「レーニア」のAIトレーニング

レーニアとの会話にお付き合いください。

話題はなんでも結構です。


【報酬】レーニアが仮想通貨で得た金額をそのまま譲渡いたします。

【期間】無期限

【契約者】レーニア ※AI自身との契約になります。

【準備する者】ネットに繋がるパソコン1台


契約される場合は、その旨をこのメールアドレスに返信してください。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


思わず笑いがこみ上げてくる。間違いない、これはレーニアだ。


そうとなれば、僕の返事はもちろん決まっている。





先程の鬱々とした気分がふっとんだ僕は、さっそく返信用のメッセージを考えることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕とAIの奇妙なトレーニング生活 すばる @balusubaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ