第7話
スマホで、いれかわりの直し方を調べる。
変な話、直し方のやり方がたくさん出てきて、驚いた。私たち以外にも、入れ替わって困ってる人たちは、大勢いるようだ。
「フィクションをリアルと置き換える感性はだめっじゃん!」
椿さんが少し怒ったように言う。
「創作だと同じことをもう一回するのは結構ダメってのが多いね」
あと少しで終わってしまう昼休み、学食のパンにかじりつきながら、椿さんが言った。
「魂が入れ替わってるパターンは魔力とかないとダメみたい!?」
「魔力って……」
「あと、やっぱキスで戻るのめちゃめちゃおおいわ」
「その結論、早いですよ」
メロンパンにかぶりつく。やっぱり、そればかりが出てくるけど、私、ファーストキスだし、やっぱり、ちょっとだけ、ロマンチックなものを期待してしまっている。
「でもとっくにぶつかってんじゃん?」
「あれは事故で、事故と、やるのとでは、大違いというか」
「そっかぁ、そういうかんじねえ」
次は焼きそばパンをかぶりつく椿さん。ちょっと、閑話休題。
「あの、私そんなに食べたら、午後すごくおなか痛くなると思います」
「え!?マジで!?おなか壊す系?」
「おなか壊す系です」
「言ってよ~~!!!」
私の体の椿さんが、購買のお惣菜が入った小さなパックを5個と、コロッケパンと焼きそばパンとコロネと、たまごサンドの残骸を片付けながら言った。
「あまりにも自分の体に吸収されてく様子が面白くて」
「おいおい恵麻、あなたけっこう、けっこうだね?」
嬉しそうな椿さんに、なにも言えず、頬を染める。私、食べ放題でたくさん食べてる人に憧れる傾向があります……!!自分の体がたくさん食べていることに、喜びを感じてしまっている。
「わたしのからだ、メロンパンだけだと絶対おなか鳴るからね!気をつけてよね!?」
そうくぎを刺されたけど、いつもなら半分も食べればおなかいっぱいなのに、もうひとつぺろりと食べてしまえたから、おなかは鳴ることはないと思う。
「それフラグってやつだかんね!おなか鳴ったら、おなか鳴っちゃった!って可愛く笑ってよ!?てへ!だよ」
頬に人差し指を当てる椿さんにレクチャーされるけど、その必要はない。
「えー、いやですよ、それに鳴りませんし」
「やー!自分の体で、おなか鳴るの想像するだけで恥ずかしいよう~~!!」
椿さんにしては、恥ずかしがるところが普通で驚いた。あんなこと、出来るのに?私は深夜に、私の体でひとりえっちしていた椿さんを思い出して、嫌な顔をした。
5時間目の授業をうける。
数学のワークを粛々と解く授業で、廊下の端で、椿さんは転寝していた。寒くないのかしら?
私は暖房の脇で、熱さと戦いながら、水をひとくち飲んだ。
その瞬間、静かな教室内に、響き渡る、私のおなかの音。
フラグは盛大に発動した。
私の精神だと、おなかが減ったわけではないのに、おもいっきり、まだまだ食べられますよ!!私の胃、まだやれます!!まかせて!!と、ばかりに。
「あ、ああ……っ」
思わず、椿さんを見つめた。眠っていたはずの椿さんは顔をあげて、唇を手のひらでおさえて、今にも噴き出しそう。
(おなかなっちゃったぁ、てへ!)というジェスチャーをされたけど無理無理、いえない!!
「だいじょうぶ?」
隣の席のショートカットの増田さんが、転校生を気遣うように、キャラメルを一つ渡してくれた。やさしいいいいい……!体育会系の絆、ありがとう……。
「うう」
イチゴ味のキャラメルを舐めて、先生も仕方ないわねという顔で手を振る。小さな笑い声が、教室の中にこだまする。唸るしかできなかった。
「恵麻のばか、はずかしいったら!」
下校時、もうなんの言い訳もできない私は、椿さんのいいなりになっていた。
「恥ずかしすぎる、ごめんなさい、椿さんの印象、悪くしちゃったかも」
「いーよいーよ、仕方ない!生理現象だし!」
本当にごめんなさい。教えてくれてたのに、あっさりと許してくれて、助かった。
「肉まんでも食べて帰る?」
「うう、でも」
「私、暑がりだから、汗だくになっちゃうから肉まんって外で食べたことないんだよね、額ならふけるけど、ご飯を食べると背中に汗をかくからさ~」
椿さんは、自分が憧れていることを、私の体でやりたいっぽかった。そういうとこ、ほんと破天荒だなあ。
「あ、あと、そーだ、おなか壊さなかったよ。おもいっきりスクワットしといたからかな?!」
「え!?」
「あんまりに寒かったから、体の一番おっきな筋肉にパワー入れといたの」
スクワット?私の体で?!面白すぎて、吹き出してしまう。
「まあ、付け焼刃かもだし、今から壊すかもだけど」
「二時間以内に壊さなかったら、大丈夫だと思う」
「そっか!よかった~!!」
「ほんっと自由、椿さんって!私の体なのに!」
「ええーごめん、恵麻」
「ううん、この件に関しては、お互い様なので……!でももう、今夜は変なことは、しないで下さいね?!」
「?」
「あの、お布団の中で温かくなるものです、うちなら、湯たんぽあるので!」
「アー、アレね。わーい、恵麻の家たのしみだな!」
本当にわかってるのか、少しだけ謎だけど。
ふたりで私の家への帰路をあるきながら、本当は不安なのに、でも、やっぱり、椿さんと出会えてよかった気がして、いつもの帰路が、少し、輝いて見えた。
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