叙逆

03 俺、捕まる

 気づけば、唯男ただおの視界は様変わりしていた。


「お話を聞きたいので、署までご同行願えますか?」


 目の前でもう1人の唯男が警官に連れていかれようとしていた。


「ぼぼ、僕、なにもしてません! 入れてもらっただけで」


 唯男はこの異空間の法則を察し、だるそうに肩を落とす。


「話は署で聞きますので」


 唯男は自分が連れていかれるところを見送った。


『君、なにをやったんだい?』


だまされたんだ』


『君がだましたんじゃなくて?』


 唯男は不服な顔をする。


『まあいいや。君はさっきまで警察から逃げてたんだね。職場に押しかけてくるなんて、警察も嫌なことするね~』


 警官に連れていかれ、もう1人の唯男がいなくなったオフィスはざわついていた。社内はクスクスと笑ったり、ヒソヒソとあざ笑う声で賑わう。どうやら今の自分の姿は、他の人に見えないらしい。


『それより、僕はここで何をすればいい?』


『君は警官から逃げたわけだろ? つまり、君はここで選択を迫られた。警官と一緒に署まで行くか? 逃げるか? あるいはどこへ逃げるか? 署まで行ってどう乗り切るか? 選択肢はよりどり見取りだ』


 出窓に腰かける唯男は髪をかき乱す。


『ここからやり直しても構わないよ。でも、ここからやり直すなら、君の逆行の旅は終了だ』


『他の選択は見られない?』


『決断は現実でも一度だろ?』


 唯男は息をついて間を置いた。そして。


『……次に行って』


『いいのかい?』


 唯男はこくりとうなづく。


『オーケー。それじゃ巻き戻すよ』

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