ep.5 本当のこと、嘘のこと
今日は土曜日。
楓さんに本当の姿を見せる。
タイミングも悪く
でももう後戻りはできない。どうせ後の祭だ。もう既に外に出て、待ち合わせ場所に居る。
昨日見たきれいな景色と違って、雨天だとむしろ禍々しい雰囲気だ。
…。
やっぱり直前になって嫌になってきた。引き返そうか…?
いやいや、ここまで来ておいてそれはない。
それに約束を破るのか?
本当の姿を受け入れてくれる彼女が居るというのに、俺はいつまでも怖がっているのか?
もう覚悟は決めた。待ち合わせ場所で待とう。
(ピコン…)
なんか通知来たな。なんだろ。
[ked:ちょっと遅れそうです…寝坊しました。]
楓さんか。
[Nightree:わかった。言われた場所で待ってるよ。]
〜10分後〜
[ked:もうすぐ着きます!]
お、来た。
[Nightree:わかった]
[ked:すみません、何処にいますか?]
[Nightree:目立つ外灯のとこにいるよ。]
[Nightree:俺から見えるしこっちから迎えにいく?]
[Ked:お願いします🙏]
適当に了解のリアクションをつけといた。
迎えに行ってる途中にこちらに気づいたようなので、手を振った。
「こんな雨の中でおつかれさま」
『も〜!本当遅れてすいません』
「そんなに俺は急いでないし別に気にしてないよ」
『私が急ぎなんですよ〜!!!!!!YOCO'Sの朝バイキングでお話しようと思ってて〜!』
「なら急がなきゃ」
◇YOCO’S(ファミリーレストラン)
『それで、夜木さんはどうして姿を隠しているんですか?』
「…ん。え〜と、まぁ見てもらえばわかるんだけどさ、この街の人たちってみんな中型とか小型ばっかりで、俺みたいな大型は浮くし怖がらせると思ったから…」
『なるほど…』
『(目に動揺の様子、嘘か隠し事でしょうか)』
『まぁでもここは混在地域ですし、大体の人は体格の差には慣れてますから心配は必要ないですよ』
『(写真で見たとはいえ、確かに迫力のあるサイズですが…)』
「そっか…」
『(嫌そうです…別の理由がありそう?)』
『クラスメイトや学校への言い訳、どうしましょうか。バレるわけでもないですし都合の良い嘘でも良いんですよ』
「う〜ん…あんま嘘が上手くないから良いの思いつかないなぁ…」
『元々別の人がここに来てたとかどうです?』
「シンプルに替え玉受験だよねそれ」
『即退学ですね』
…。
「ほかになんかいい案ないの?」
『嘘が下手ってわけじゃないですけど、今までないケース過ぎてどうにも…』
「やっぱそうか~…」
かくいう俺は嘘がすごい下手だ。なんだか申し訳ない。
「呪いで姿を変えられていたとか…よくないな」
『事件の香りがしますね』
「しかも俺が変えてもらったしな…う~ん」
『あれ?それ自分でやったんじゃないんですか?』
「あ……、言ってなかったっけ……」
『(動揺の仕草は見えない…。忘れていたことに関して本当ですかね)』
『言ってないですね。そういえば昨日つけていたミサンガ、今持ってますか?』
「あるかな。う~ん……。持ってないかも」
『わかりました。捨ててはいないですか?』
「なんか抵抗あって、捨ててはないかな」
『なるほど。もし明日予定が空いてたらそのミサンガ、少し見せてもらえないでしょうか?』
「別にいいけど…どうするつもり?」
『私、魔法鑑定が趣味なので少し興味がありまして、人の風貌を変える魔法なんて生まれてこの方見たことがないんです』
「ほう…?」
『そんじょそこらの魔導書にもない魔法です。昨日遠目から視ても高度な術式なのはわかりました』
「凄い、そんなのも解るんだ」
『初対面の時から、正体はわかりませんでしたが右の手首に強い魔力の流れを感じました』
「ええ、その時から!?」
会った当初からハッタリがバレかけていたらしい。彼女の勘の良さや観察力に少し怖くなってきた。
『それで話は戻りますが、結局理由どうしますか?』
「う〜ん、もう正直に言うしかないんじゃないかな。嘘に嘘を重ねたってバレたときに困るし、そもそも事実に真実味がないから変わらないよ」
『そうですか…。夜木さんの言う通りかもですね。私は良いと思いますよ』
「まぁ、普通に停学とか退学になるかもだけどね…」
『本人である証拠が薄まる以上、そこは避けられないですよね…』
「うん…」
『でも、私も夜木さんの身体だったら同じ孤立感を感じると思いますし、理解のある先生とかだったら説得できると思いますよ』
「そう…まぁ、期待しておくよ」
『(結局、夜木さんの助けにはなれなかったな…)』――
俺の正体を知っても___ よこしま。 @yksm3
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