ep.4 虚像

入学してから一週間ほど経って、少しはこの場所に慣れた気がする。


『夜木さん! 今日一緒に帰りましょう!』


「いいよ」


毎日ほどではないが頻繁に一緒に帰るお誘いを貰う。


彼女には同性の友達も居るし、一緒に帰ってるのを見たこともある。

それなのに頻繁に誘われる。


少し不思議だけど、かと言ってなにか変な所があるかと言われると全くそんなことはない。


『今日、あの公園で夜木さんを記念に撮りたいんですけど、いいですか?』


「写真?撮ってもいいよ」


『良かったです!撮りたい場所があるのでついてきてください!』


「わかった」


俺を案内するように、彼女が歩きが少しだけ早くなった。


『着きました!』


「おお…!」


『ここの池、景色が反射して綺麗なんですよ!』


「ほんとだ、桜も散り初めだしすごくいい写真が取れそうだね」


『ですよね!』


前来た時、地図をまともに見ていなかったから、こんな場所があるのを知らなかったな。


「どこらへんで撮る?」


『あそこらへんに立ってもらえれば!夜木さんの荷物、私の近くに置いといていいですよ!』


「わかった」


言われた通りの場所に立ってみたが、本当に池が鏡みたいで綺麗だ。


『写真撮りますよ〜!好きなポーズ取ってください!』


「おっけ〜!」


適当にピースでいいか…。


『撮りますよ~!3…2…1…』


(パシャッ…)


『(…本当に映りました)』


「撮れた?」


『撮れました!』


「お、写真見せて!」


『…いいですよ!えっと…こんな感じです』


すごくいい感じだ。やっぱり散った桜と鏡面の池が綺麗…ん?

なんだこれ――


――なんでだ。


水面に本当の俺が映っている。姿を変える前の、あの俺が。


「…」


『(夜木さんの表情かおが曇ってきました…やっぱり、気づいちゃったんでしょうか)』


「あのさ…その…楓ちゃんの写真も撮っていいかな」


『あ! …いいですよ!』


下手に俺が反応したらバレる…。


「撮るよ~」


(パシャッ…)


「どう?」


『いい感じです!』


「よかった」


『…』


「…」


やはり気付いているのだろうか。

お互い黙ってしまった。ただ静寂が辛い。


『…すみませんでした。気になって本当か確かめたかったんです』


「えっと…」


『あの写真に写ったのが夜木さんの正体…ですよね』


「…そうだよ。幻滅したでしょ」


『いえ!そんなことは…』


「そうかい…一体いつから気づいてたの」


『入学式の日…からですかね』


「そっか…どうやって?」


『私、魔法使いの一族で、少し勘が鋭いというか、そういうのがわかるんです』


「…」


『もともと、夜木さんの背は私の頭一つ差があるほどに高くて、威圧感というか、そういう物があるんですが、それとは違う。それよりもっと、大きいような、重い圧を感じたんです』


「…そうか」


『違和感、というのでしょうか。私は夜木さんが正体を隠している気がしたんです』


「でも、どうやって正体を撮った?」


まこと、そんな言い伝えが私の家にはあるんです。虚像というのは鏡に映った偽物のことを指します。その虚像をもう一度鏡に映したら正体が現れるんです』


「…なるほど。でもここにあるのは池だけ、鏡が一つ足りないような…」


『池ともう一つ、です』


「カメラ?」


『カメラも同じく、鏡のように物を映すので虚像を作ります。なので池のある場所で夜木さん撮れば条件が揃うんです』


「…そういうことか」


『むりやり正体を暴くような真似をして、本当にすいませんでした。私のこと嫌いになりましたか?』


「…いや、嫌いになっていない。ただ、驚いただけ。その、俺の正体を知ってどう思った?」


『えっと…どうして、隠しているのでしょうか、ですかね』


「そうか…。このこと、誰にも言わないでほしい」


『元からそのつもりです。…でも、じきに怪しまれると思います』


「え?」


『先ほど、重い圧を感じた、と云いました。あれは私の勘でもなんでもなく、誰でも感じるあなたの気配です。今の姿でも十分背の高い夜木さんですが、それでいても違和感を感じるものです』


「でも気配なんて…」


『そこで、です。明日、私に本当の姿を見せてくれませんか?誤解は早めに解いた方がいいと思います…。理由を説明すればきっと皆さんわかってくれるはずですよ』


「…」


『右袖のミサンガ。それがあなたの姿を変えているんですか?』


「!? どうしてそれを…!」


『わかりづらいですが、あなたの右腕から結界の様なものを感じます。ミサンガを切ってしまえば魔法が解ける、違いますか?』


「…合ってる」


『本当の姿を隠した理由があるんですよね?ですので無理にとは言わないです。でも私を信じてください。きっと大丈夫です』


俺の正体を知っても――彼女は親身になってくれている。

そんな彼女に少し救われた気がする。


「わかった、楓さんを信じる」


『…! では、また明日10時半にここに来てください!』


「わかった、また明日ね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る