ep.3 邂逅

『――夜木』


「はい」


入学式の氏名点呼。久々に感じる学校の雰囲気。

きっと何一つ怯えることはないのだが、トラウマがフラッシュバックする。

やっぱり苦手だ。

この先上手くやっていけるだろうか――


――『以上の生徒の入学を許可します。これにて入学式を閉会いたします。各クラス、列になって教室へ戻るように』


『一組起立!移動するぞ〜』


(バタバタバタ…)


この先、この人たちと馴染めるだろうか…。

考えても仕方がない。わかっている。


きっと考え過ぎだ。もっと気楽に行こう――




――『今日は、自己紹介をする。それが終わったら今日は帰れるぞ』


『『え〜!!!!!』』


あんまり目立ちたくないな…。

まぁ、前の人の真似すれば、大丈夫か。


『それじゃあ、1番のあおいくんから順番でやってけ〜』


『え〜!俺からっすか?えー、葵で〜す、くさかんむり登るの上側天気の天で葵って書きま〜す!

趣味は人間観察、好きなものは自分で〜す、一年間よろピくみ〜』


(パチパチパチ…)


随分最初から尖ってるなぁ…。


『えっと……息吹いぶきと言います…。息を吹くで息吹と書きます……趣味は動画鑑賞?…好きなものは料理です…よろしくお願いします』


(……パチパチパチ)


一番目があれじゃプレッシャーだよなぁ…。


『楓です。木に風で楓って書きます。誕生日が6月3日なので、あまり見頃じゃないんですけど、夏のカエデの葉の緑が素敵だったから楓になったらしいです。趣味は食べること、好きなものはご飯です。美味しいとこあったらぜひ教えてください!』


(パチパチパチ…)


慣れてるなぁ…。


かつらです。木に土二つで――』




――『もみじっていいま〜す、木に花って書きま〜す、趣味はメイクで〜好きなことはプリクラで〜す!みんな一年間よろ〜』


あ、次自分か…。


夜木やぎって言います。夜と木で夜木です。趣味は絵を描く事、えっと好きなものは…(なんだっけ…)」


…。


「え―っと…、カラオケです…。誕生日は10月3日です、一年よろしくお願いします…」


(…パチパチパチ)


人前に出ると緊張で、頭が真っ白になる。変に黙ったせいで注目を集めてしまったな。

顔が熱い…。


やなぎです。木に干支のウサギで――』




――『これで自己紹介は終わりだな。今日はもう帰っていいぞ、それじゃ解散!』




ふぅ…。

やっと終わった…。ようやく帰れる。

どこか寄り道でもしていこうかな。


『――すみません、私と一緒に帰りませんか?』


…!?


名前なんだったっけこの人…。


「良いよ!えっと…たちばなさん…だっけ?」


『楓ですね』


「うっ…名前間違えてごめん…」


『全然いいですよ、夜木さんって呼んでも良いですか?』


「うん、俺も楓さんで良いかな」


『いいですよ!』


どういうわけか、一緒に帰る相手ができた。


『あ、自販機寄ってきますね!』


「いってらっしゃ〜い」


珍しいな…初日に異性と関わるのは。

話しかける側もハードルが高そうなのに、楓さんは凄いな。


なんで俺に話しかけたか気になるが、かといって訊くのも無粋だ。


『お待たせしました!』


「おかえり。何買ったの?」


『レモンティー買いました!好きなので!』


「いいね。俺も、レモンティーとかミルクティー好きだよ」


『私もミルクティー好きです!あっ夜木さん、あそこコンビニ寄ってきませんか?私今日何も食べてなくて、お昼買おうかなって思いまして』


「いいね、寄ろっか」


丁度俺も腹が空いていた。なんか買っていこう。


『夜木さん、あれ美味しそうですね!』


「あのトマトバジルからあげ棒ってやつ?」


『そうです!』


「確かに美味しそうかも…買おうかな」


他にも色々目新しいものがたくさんある…。


「ん〜…」


どれも魅力的で迷うな…。


よし…。これに決めた。


塩おにぎりと、さっきのからあげ棒と、桜オレにしよう。


「楓さん、先に外で待ってるね」


『は〜い!』


とは言っても自分の二つ後ろに並んでいたからすぐか。


『おまたせしました!もう食べ始めちゃってますか?』


「ううん、まだ食べてないよ」


『よかった!あそこの公園で食べませんか!』


「公園か…いいね」


コンビニの向かいに公園があったのか…さっきまで気づかなかった。


『確か、この公園は入ってすぐに屋根付きもテーブルベンチがあったはずです』


「そこで食べたいってことか」


『そうです!あ、ありました!丁度空いてて良かったです』


「お〜。たしかにここなら見晴らし良くて、桜とか見やすくていいかも」


『ですね!じゃあいただきます!』


「俺も、いただきま〜す」


景色を見ながらご飯を食べるのなんていつぶりだろうか。それに独りでもない。

なんだか、いつもより美味しく感じるかもしれない。


それにしても桜、満開で見事な程に綺麗だな。


…。


ふと気になって、楓さんを見てしまっていた。


春風になびいた髪が凄く綺麗だ。

初対面なのに俺に気を許した顔が、なぜだか愛おしく見えて、おかしくも安心した自分がいる――。

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