第2話 遭遇
その後もだらだらと談笑を続けているうちに予鈴のチャイムが鳴った。これから後二限も苦しい授業を受けなければいけないと、みんな憂鬱を漏らすも、それが終われば放課後という解放に胸を弾ませていた。
それに、だるくてしんどいけど、何かとこの時間が高校生活だと言う認識を皆が大切にしている気がする。
教室に着く頃にふと思い出した。
「あ、ごめん先戻ってて」
「どしたの? 忘れ物?」
「そんなとこ」
そういえば3限目に受けた体育の時間で、体操服の上着を忘れていた事を思い出した。昼休みの間に取りに行こうと思ってすっかり忘れていた。
もうすぐ授業が始まるというのに体育館に戻らないと行けない。めんどくさいことを後回しにするとさらにめんどくさいことになる。それにもしかしたら、前の授業で先生が持って行ってるかもしれない。もしなかったらと思うと無駄足だ。
しかし、そんな不安は杞憂に終わり、体育館の隅っこには私の体操服が畳んだまま置かれていた。
よかった、と心で安堵し体操服を手に取りすぐに帰ろうとすると、誰かの怒声がすぐ隣の体育倉庫から聞こえてきた。
びっくりしてすぐに逃げ出そうという気持ちを抑え、興味本位で微かに開いたドアの隙間に目を通すと生徒が二人いる。
一人はさっきじめに合っていた子だった。さっき見た下手くそな笑みはなく、感情をぐちゃぐちゃにしたような表情で、それが彼の本当の顔だと知った。
そしてもう一人の男の子は、よく覚えていない。その子はマットの上に倒れていて、顔や腕に痣がいくつもあった。もしかして、いじめの現場かもしれない。
止めないと。そう心の中で思うだけで、また足は動かなかった。
「気は済んだ?」
柔らかく、暖かい、包み込むような声。目を疑ったが倒れた人が出した声だった。今いじめられている人が、いじめている人に対して出すような声じゃない。
情報がまとまらない私を置いて、いじめを受けていた子が何かを思い出したようにまた彼に殴りかかった。
握った拳で頬を殴ると、生々しいような音が鳴り、口が切れたのか血を吐いていた。あまりの光景に思わず目を伏せてしまう。それでも止めるための足は一向に動かず、むしろ震えていて言うことをきかない。
何発殴ったのか、ようやく気が済んだのか馬乗りになっていた体を起こして何度も謝罪してから逃げるように倉庫から出てきた。
すると盗み見ていた私とばったり鉢合わせるわけで、その子は私を見るや恐ろしいものでも見るかのように怯えて、泣いていた。
「だ、大丈夫?」
混乱していた私はそんな言葉しか出せず、彼は答えないまま涙を拭いてから走り去っていく。どうして殴っていた人が泣いているのか。
授業が始まるチャイムが鳴った。
幸いにもこの時間に体育館を使うクラスはないようだった。
残ったのは未だ困惑し動けないままの私と、おそらくマットの上で倒れている彼だけだろう。このままそっと帰ろうと考えたけど、少し気になって倉庫を覗いた。
「あ、」
「……あ」
不運にも倒れたままの彼と目が合ってしまった。
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