第4話 変化
頭をぶつけた場所が軋むように痛む。
「岡村、すまん……。すまん………。」
僕は頭を押さえながら岡村に謝った。
きっと僕がここにいたから、岡村をアヒル面のこの事態に巻き込んでしまったという申し訳なさから顔を上げられなかった。
「りょう、大丈夫か?とりあえず風呂から上がって休もう」と言ってくれた。
風呂から上がりパイプ椅子に座らせられる。
まだ心臓と頭の血管が波打つのがわかる。
隣に座っていた中年男性はまだテレビを見ているようだった。
テレビのクイズバラエティ番組の機械的な電子音とゲストの歓声が頭に響く。
岡村が気を利かせてペットボトルのスポーツ飲料を買ってきてくれた。
僕はそれを受け取りタオルで巻き、頭に押し当てる。
岡村はいつものようにコーヒー牛乳を一気飲みしているのだろうと思い、僕はお礼を言おうと顔を上げた。
岡村の顔にはやはりアヒルの面がついたままだったが、コーヒー牛乳を一気飲みしている様子を見て少しだけ安心した僕がいた。
ダックダック病とはなんなんだ。
僕らが休んでいると風呂場からあの親子が上がってきた。水色のシャワーキャップをつけた少年は、走り回るどころかお父さんと手を繋ぎ別人になったように大人しくなっていた。
番台のおばあちゃんが少年に声をかける。
「けんちゃん、いい湯だったかい。そうそうここに飴玉があったかね、、、。あらら、もう行っちゃうのかい。またパパとおいでね〜!」
中年男性がおばあちゃんに話しかける。
「けんちゃん、なんだか元気がなかったなぁ。いつも飴玉もらうの楽しみに番台に背伸びして覗こうとするのにな。」
「年頃なんかもしれないね〜。パパさんも今日は用事があったんだろうね。」と話していた。
岡村もその様子を見ていたようだった。
「岡村、そろそろ帰ろうか。もう治った。」と僕が言うと。
「おう。」と答えた。
岡村とは温泉の入り口で別れ、僕は家に帰った。
僕は帰り道、幸雄くんから言われた事を思い返していた。
幸雄くんはダックダック病を人に感染させて日本を征服する?、、、何のために、それを僕にどうやって止めろと言うのか。。
僕の記憶の中に鍵があるとはいったい……?
そもそもダックダック病とは何なのか。
僕も少なからずその病にかかっているようであるが、耐性?を持っているらしい、それはどういう事なのか。
そもそも今までアヒル人間の人達は見た事があった。
見える僕や、りこにとっては不気味な存在であったものの、見えない人達にとっては何ら変わりない人達なのに、それらが日本を征服するまでの脅威になり得るのか。
など様々な疑問が頭の中を駆け巡っていた。
りこにすぐさま相談したかったが、頭を打った事や現実とは思えない事が次々と起こってしまったため、家に着くとすぐに眠りについてしまった。
岡村の様子がおかしい事に気づいたのはその次の日だった。
岡村は毎朝、朝のホームルームが始まる前に必ず体育館で走り込みをし、シュート練習をする習慣がある。
登校する時に登る坂のすぐそばに体育館があり、僕が坂を登る頃にボールが床に落ちる音が響くのが聞こえてくる。
彼はキャプテンということもあり、同級生のプレイヤーの中でも人一倍努力をしていた。
しかし、いつもの時間に登校すると体育館から聞こえてくるはずの音が聞こえない。
僕は不思議に思い、体育館を覗いた。
そこには汗を流しながら「.おう、おはよ!」9と言ってくる岡村はいなかった。
僕は教室の方へ向きを変え歩いた。
朝のホームルームの前の読書の音楽が流れてくる中。岡村が教室に入って来た。
「岡村!おはよ!」と僕は言ったが、聞こえなかったのか反応する様子をみせず、彼は席についた。
1時間目の授業が始まる前に、僕は朝のことが気になり聞きに行った。
「岡村、おはよう!今日どうしたん?体育館いなかったじゃん。体調悪いん?」
「おはよ。ああ、朝練ね…。そういえばしてたね。体調は大丈夫だよ。」
「お、おう、、。体調良いなら良いけど。あんまりこん詰めすぎると良くないしな。そうそう!今日、社会の授業、あいつ体調不良で休みで自習らしいぞ!さっき連絡係が言ってた。」
「そっか、そりゃラッキーだな。」
アヒル面をつけているせいで岡村の表情が見えず、彼の声色から様子を探るしか無かったがいつもの岡村よりも生気がないように思えた。
岡村の様子がおかしいのは僕だけが気づいたようではないようだった。
3時間目にあった英語の授業でのことだった。
この授業の先生はテキストの会話文を隣同士のペアで読み合う練習をした後、数名のペアが当てられその場で立ち、感情を込めイントネーションを意識して読み合うという流れから始まる授業だった。
運悪く岡村の隣の女子が先生から当てられてしまい、岡村とその女子生徒が音読をする事になった。
女子生徒は岡村の顔を見ながら、恥ずかしがりながらも声を張って文を読む。
しかし、岡村は全く顔を上げず堂々としている岡村らしからない様子で、感情が全く入ってない棒読みの音読であった。
この様子を見た先生は15分もの間2人に音読をさせた。普段ハキハキと話す岡村であったため、余計に不真面目であると先生の目には映ったようだった。
2人が音読を何度もやり直しさせられている中のクラスの雰囲気は、クラゲに刺された時のような痺れた緊張感に覆われていた。
僕は心の中で岡村を心配するのと同時に、その岡村の変わり様に戸惑ってしまっていた。
部活の時も相変わらず綺麗なシュートを決める岡村であったが、面をつける前との様子の変化に「何か岡村あったん??」と別クラスのメンバーがこそっりと僕に聞いてくる始末であった。
ダックダックダック 月音うみ @tukineumi
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