第3話 予期せぬ再会
「りこ、幸雄くんって何で転校したんだっけ?」
スマホを見つめていた、りこがパッと顔を上げてこちらを見る。
「あーなんか、両親の仕事の関係でだったみたいだよ。そういえばだけど、幸雄くんと出会ってから、アヒルの面見えるようになったよね。でも、りょうちゃんと私しか見えないのおかしな話だよね。」
「そうなんだよな。幸雄くんに会ったのは僕ら2人含め、クラスのみんなと先生にはアヒルの面が見えてもおかしくないのにな。」
そうなのだ。
幸雄くんがいなくなった日、クラスの友達に「幸雄くん、どこに転校したか聞いてる??」と尋ねたが、誰もその行き先を知らないばかりか、「そんな人ここに転校してきてたっけ、お前大丈夫か?」と言われる始末だった。
あんなに目立つ面をつけていたのに…。と思ったのは覚えている。
幸雄くんが転校してきた事は無かった事になっていた。
しかし実際、僕とりこはあの夏、確かにヒラタクワガタを探しに行ったのだ。
写真だってしっかりある。
「りこ、幸雄くんを探して彼に聞くしかない。きっと何か知ってるはずだ。」
僕は動揺していた。なんだって行き先の手がかりすら全く無かったからである。
とりあえず、今度の週末に僕らが卒業した小学校に行ってみる事にした。
何かしらの記録があるかも知れないと思っての事だった。
次の日、僕はいつも通り授業を受けた後バスケの練習に向かった。
キャプテンの岡村が声をかけてくる。
「りょう!!昨日は何だよ、様子おかしいなって思ってたけど、体調悪くて早く帰るなら一言ぐらい言えよな!」
「すまん、完全に忘れてた。」
「コーチには誤魔化しといたから、今度ジュース奢れよな。」
「わかったよ、あざす。」
コーチは昔語りの頑固な人だ。
弱小高のうちのバスケ部を全国に連れて行った事があるからかメニューも割と厳しい。
うちのバスケ部は弱くはないが、常連で全国に行けるほどには強くもない。
コーチには失礼だが、僕にとってはそれがちょうどよかった。
僕のように流れでやってる奴もいるが、岡村みたいに真剣にバスケに向き合っている奴もいる。
本当に人それぞれだった。
もうすぐ試合が近いのもあり、練習に火が入る。
僕はみんなの足を引っ張らないよう必死について行く。
やっと今日の練習が終わった。
ダウンを済ませて体育倉庫にモップを取りに行った時、岡村から「.汗を流しに温泉に寄って帰ろう」と誘われ行く事になった。
頻繁に来るわけではないが、80歳くらいのばあちゃんが番台にいる、昔ながらの銭湯だ。
老夫婦で営んでいて、たまにお爺さんが店番をしていることもある。
今日は緑茶を片手にもなかを食べながら、おばあちゃんが店番をしていた。
「お疲れさん、部活終わりかい?ゆっくりしておいで。」と言い、またテレビを見ながら食べ始める。
扇風機の側のパイプ椅子に腰を下ろした中年男性は新聞を広げながらもテレビを見て、1人で話している。
おばあちゃんとよくテレビを見ながら駄弁っている人だ。
僕と岡村は脱衣所に入り服を脱いだ。
「ぱぱ〜!早く〜!!」
「走るな、危ないから」と僕らの前を親子が先に入って行った。
男の子は目に水が入らないようにするための水色のシャワーキャップを頭につけていた。
体を洗い湯船に浸かる。岡村が入ってくる。
湯気が水面を這う。ふーっと天上を見上げる。
「疲れたぁ、今日シュート練調子良さそうだったな。」
「たまたまだよ、岡村には敵わん。」
「フェイク決められた時はやべってなったよ。」
「速攻反応してきたくせに。」
「まぁな笑」
バジャン!!
さっきの親子も湯船に入ってきた。
子供がシャワーキャップを付けたまま、バシャバシャと泳ぎ出す。
うるさいなぁと思いつつ、湯船に肩まで浸かりぼーっとしていた時だった。
目の前にすーーっとアヒルのおもちゃが横顔を見せながら流れてきた。
僕ははしゃいでいるあの子どものおもちゃが流れて来たのだと思った。
どこにでもあるようなアヒルのおもちゃ。
そのまま右隣にいる岡村の方に流れて行くと思ったが、アヒルのおもちゃは僕の顔の前で止まりあきらかにこちら側に向きを変えた。
その顔が僕がつけている面と同じ顔だと認識した時、アヒルのおもちゃが
「ぐわわわわわわぁぁぁぁ!?!?!?」
と叫んだ。
僕は一体何が起きたのかわからなかった。
アヒルのおもちゃにいきなり叫ばれて気持ちが悪かった。
まわりを見渡すと何事もなかったかのようにシャワーの音や桶を置く音がした。
「俺、もう上がるわ」と岡村が言う。
「おう」と返事をして顔をあげると岡村の顔がアヒルの面になっていた。
驚いて思わず僕は後退りをした。
隣にいた親子にぶつかってしまったと思い、
「あっ、すみません!!」と言い、振り返ると
シャワーキャップを被りアヒルの面をつけた子どもが湯面から顔を上げて僕を見ていた。
もちろん、その子どものお父さんもアヒルの面をつけていた。
僕はあまりの異変にパニックになっていた。
誰か普通の人を探さないとと思い、咄嗟に湯船の斜め前にあるサウナ室の扉を開けた。
そこには5人のアヒルの面をつけた男達が一斉にこちらを見ていた。
あまりの事態に僕は出口に向かおうと後退りをしたが、流れていないジャンプーの残りに足を取られ盛大に転けそうになった。
その時なぜか僕は転けなかった。
時間が止まったのだ。
時間は止まっているが僕の意識は完全にあった。
目の前の脱衣所の足拭きマットの上に誰か座っているのがわかった。
そこにしゃがんでいたのは、僕が探そうとしていた幸雄くんだった。
「大丈夫??やぁ、久しぶりだね。
まぁ、話しかけても君は話せないか。
じゃあ要件だけ伝えるね。
今ここにいるのはダックダック病の人達だ。
この病は次第に広がっていく。
君もこの病にかかっているみたいだけど、どうやら耐性が少しだけあるみたいだね。
今までもこの病の人達を見た事があるみたいだけど、それとは訳が違うからね、僕はこれで日本を征服しようと思っているんだ。
君は僕の唯一の友達さ、ゲームをしようよ。
僕を止められたら君の勝ちさ、僕がなぜこんな事をするのかって?
それはきっと君の記憶の中に鍵があるはずだよ。見つけてみてよ。
おっと言い忘れてたけど、無理やり面を取っちゃだめだよ、何にもなくなっちゃうからね笑
僕が日本中の人間をアヒル人間にしてしまった時、君の負けになるからね。それまでに僕を止められるかな。」
僕は必死に心の中で彼の名前を呼んだ、呼んだが全く彼には届かなかった。
ぴしゃりと脱衣所の扉が閉まる。
幸雄くんの影が曇りガラスの奥に消えていく。
どういうことだ。これは一体…??
時間が動き出した。
僕は扉の側に積まれていた桶の山に勢い良く頭から突っ込んだ。
「うっ……!!いてぇ………。」
「大丈夫かよ、いきなり慌てて。」
アヒル面の岡村が僕を引き起こしてくれた。
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