第5話 待った?

「ゴメン、遅れちゃって。待った?」


 不意に掛けられた言葉に顔を上げると、そこにはめぐみがいた。

 ちょっと恐縮する表情も可愛らしい。これだよこれ、このシチュエーション。俺がずっと求めてきた正にデートって感じ。

 九月の朝陽を背にするみぐみは、俺の表情を覗き込んでいる。


「ラインしようと思ったんだけど、もう着きそうだったから……」

「いや、今来たとこだから」


 お決まりの台詞と共に、俺は駅前のベンチから腰を上げた。

 白のブラウスに、黒のミニスカートと白のスニーカーに身を包むめぐみ。似合いすぎてて俺の心臓はバクバクだ。

 そして左腕には白い時計が光っている。明らかにホワイトウォッチーズのコーデを意識しているが、それは考えないでおこう。今日は彼女のサーヴァントになるって決めたんだから。


 一緒に駅の改札を抜け、並んで電車のホームに向かう。

 ああ、恋人同士だったらここで手を繋いじゃうのかな、なんて思いながら。

 土曜日だから電車も空いている。

 ホームに着いた電車に乗って腰を降ろそうとした時、ビビっと小さな刺激が脳を揺さぶった。


(キター!)


 めぐみとピッタリのタイミングで、俺たちはシートに腰掛ける。

 駅で合流して二人の距離が百メートル以内になったことで時計同士の距離も縮まり、めぐみからの信号が俺の時計に届くようになったのだ。

 ちなみに時計をしていることがバレないよう、俺は袖の長いシャツで手元を隠している。


 これってなんかいいかも。

 こうしてタイミングを合わせていれば、そのうち「なんか私たちって息ピッタリね?」って言ってくれるんじゃないだろうか。

 そういう異性との相性って結構重要な要素なんじゃないかと、俺は電車の中で考え始めていた。


 早速、それを実感させる出来事が起きる。

 電車が目的の駅に着くと、またビビっと刺激を受けたのだ。

 ドンピシャのタイミングで二人は腰を上げる。そのシンクロ具合に思わず二人は顔を見合わせた。

 可笑しくなってくすくすと笑うめぐみも、なんだかすごく可愛らしかった。

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