第11話 黒澤くんはお友達が欲しい ①



 ※


 次の日。なんとか朝7時過ぎに起きることに成功し、通常通りの時間に学校へ向かう三輪みわさんであった。中学の時と同じくさおりんとまゆちんと並んで歩くのは最早ウチの物語では常識だと思って欲しい。


「ふぅ……」


 そんな溜息を吐くまゆちん。何か落ち込むことでもあったのか? いや、違うな。

 落ち込んでるようには見えず、一人で勝手に恥ずかしがってるようにも見えて来た。


「あ~。分かった。白竹しらたけちゃんの弟さんでそ?」


 クルクル回りながら最後のキメに指差すさおりん。今日もニコニコ笑顔だぜ。


「……なんていうかさ。本当に。ほんっと~~に! 私の理想というか、100%一致し過ぎてもう……どうしよぉ~~~!」


 ダメだこりゃ。完全にイっちまったか。まゆちんよ。

 だけど今までそんな風にノロけた彼女は見た事が無かっただけに、意外と言えば意外である。ここで梶谷かじたにという幼馴染を切ってしまうなどと誰が思ったであろうか。


「ん~~それはイイんだけどマユコっち? 弟さんは正直……かなり難しいと思うっさ」

「まゆちん。悪いことは言わん。友として助言するが、あのレベルはマジでヤバイって。あんまり本気になるなよ」


 嫌味でも何でもない。正直に。客観的に述べたまでだ。

 まゆちんだって別にそれなりの容姿をしてると思うが、あの弟さんは……次元が違うと言いたいんだぜ。相手がエーシズと分かってて勝負するようなもんだぜ?


「……分かってるわよ。でも……これって一目惚れって感じなのかな? 入学式の時も一瞬だけ目が合って、それからちょっと……おかしいもん」


 イヤンイヤンと頭を振るまゆちん。短いポニテをブンブンしてて顔が赤いぜ。

 横にいるさおりんと目が合うと、こりゃ重症だとアイコンタクトで言い合った。


「まぁまぁ落ち着きなよマユコっち。とりあえず様子を見ようね。まずは白竹(しらたけ)ちゃんからも色々と情報を得ようじゃないか。まだ焦る時間じゃないでござる」


 それが妥当だな。別に今すぐ動かなくていいし、あれだけの美男子だから向こうだって彼女選びには慎重なんじゃないかと思う。ほら、初対面でも軽い感じはしなかったし……


 あれ? そういえば……


 昨日の喫茶店で見たあの弟さんなのだが、高校の時に見せたイケメン成分が喫茶店の時には完全に消え去ってたよな? しかも白竹しらたけちゃんに殴られてたし。


 何だか白竹しらたけさん姉弟って結構謎だらけじゃない? などと思ってると、交差点でばったりとその白竹しらたけさん姉弟に出会ってしまったのだ。今の今まで弟さんの話をしてたので流石に焦ったぜ。


「おしゃぁおごじゃま~~す! 三輪みわしゃん。さかたぁさん! よにゃめやまさん!」

「おじゃっ~す!」


 気軽に挨拶したものの、横に弟さんがいるのでちょっと恥ずかしい三輪みわさんであった。さおりんは「おはようございま~す」と誰でも変わらない挨拶。そしてまゆちんが顔を真っ赤っ赤にさせながら白竹しらたけちゃんに挨拶したあと弟さんにも頭を下げるのであった。


「皆さんおはようございます。どうする美優みゆう? 友達と一緒にいく? 僕は先に行こうか?」

「う~う。魔樹まきも一緒に行こうよ。ね? 魔樹まきもお友達になるのでしゅ」


 おおっ。これは嬉しいぞ! 白竹しらたけちゃんの方から弟さんを友達になるべく、くっ付けてくれるかもしれない。

 これは大きい。白竹しらたけちゃんと知り合いになってるおかげで、弟さんと喋る機会出来た。他の女子生徒よりも大きくリードしたハズだ。


 それにしても……今日の弟さんは初日見せたようなクールさを前面に出しつつも、ウチらには丁寧に挨拶していた。う~ん昨日の喫茶店の彼は一体なんだったんだ?


 それは白竹しらたけちゃんにも言えることで、楓蓮かれんお姉さんも驚いた運動神経に、般若みたいに怒った顔もそうだし……やっぱ別人じゃね?


 ほらほら、今も何故か緊張しちゃってプルプル震えてる。「ふしゅ~ふしゅ~」って声が漏れててて若干ブサイクになりつつある白竹しらたけちゃんに小声で「そんな緊張しなくっておっけ~」と囁くと「はひ!」と敬礼しだすのであった。そして逆に小声で返された内容は……


「あにょですね。昨日の喫茶店のお話……」

「任せときな。誰にも内緒のトップシークレットだ」


 調子に乗ってシェイクハンドを試みるが、両手で握手される。「ありがとう」と感謝される。そんなときの白竹しらたけちゃんはマジで可愛い。そうそう、ベースは超絶美少女なんだから男達を悩殺させるスマイルを覚えた方がいいんじゃないか? 


 あ~あ。ピンクのロングなロリフェイスに一日でいいから入れ替わってみて~な~と思う三輪みわさんであった。う~ん。楓蓮かれんお姉さんでもいいし、どうせなら弟ちゃんや黒澤くろさわくんと入れ替わったりしてみたいね。


 あぁいいなぁ入れ替わり体質。男にも女にもなれるって最高じゃね? しかもどっちもイケメンで美少女だし、性格も良いし、ケンカは強いし、マジで完璧人間すぎて三輪みわさんは嫉妬しまくりだぞぉ。


 

 ※


 教室に入るとHRまでまだ時間があるので白竹しらたけちゃんと喋っていた。大分ウチのことも馴れて来たっぽい。それはこっちも同じであって、内気な部分が全く一緒なのでやり易すぎる。


 さりげなく白竹しらたけちゃんにアピールしてくる西部にしべは放っておけばいい。お前さ、どれだけ頑張っても白竹しらたけちゃんが振り向く訳がないだろ? 絶対無理なのが分かんないのかね? 哀れな奴だ。


 ウチが気になっているのは「昨日の喫茶店」の話だ。あんまりキャラが違うので聞きたいんだが、他の人に聞こえちゃマズいので、ラインで色々と聞いてみようかな。そんな時、遅れてやって来たのは染谷そめやくんと黒澤くろさわくんが仲良く一緒に入って来た。


 2人とも近くの席に座る生徒には挨拶すると、丁度HRとなった。


 うんうん。今日もよろしく黒澤くろさわくん。未だに心の中ですら黒澤くろさわくんなんだよな。れんって……恥ずかしいんだよなぁ。もし心の中でれん呼びしてて、何かの拍子に呼び捨てで言っちゃったらどうしよう! などと心配しており、心の中でも黒澤くろさわくん呼びに徹していた。


 れんくんとか……恥ずかしいじゃないか。

 自作小説ではレン侯爵だが、レンっ! って呼んでるけど、リアじゃマジで無理。


 ちょいと後ろを見るとスマイルを見せる黒澤くろさわくん。いつもの事である。

 そろそろあのスマイルを喰らっても平常心でいられるように慣れないと、何事も前に進まないぜ。そう思ってたら前の席のさおりんが耳元でコソコソと言ってくる。


「ねぇ。かなぺー。いつも思うんだけど黒澤くろさわってさ……」


 え? なに? なんだい? さおりん? 黒澤くろさわくんの話題は大歓迎だ。


「ウチにニコってしてくれるからさ、ちょっと照れるんだよね」


 違う違う! それはそれはウチへのモールス信号なんだって! 

 勘違いしちゃいかんよ! それは大いなる誤解だと思うんだぜ。


 黒澤くろさわくんがそんな……そんなこと……さおりんに?  

 いやいやいや……あまり想像つかないんだが。


「待て待てさおりん。飛び切りスマイル砲ならウチにもカマしてくるぜ?」


 何故か妙に焦る三輪みわさん。なんでだろ~。まるで黒澤くろさわくんは私のモノよ! とか潜在意識の中でそう思ってるのかもしれねぇ。


「そっか~ウチだけかな~と。勘違いしてたでござる」


「その割には喋り掛けてくる訳でもないし、いつも笑顔。それが黒澤くろさわのデフォルトなんじゃね?」


 おっと。呼び捨てにしてるのは、さおりんとの会話だからさ。

 くん付けの方が逆に怪しまれるだろ?


「あんなタイプの男子って中学の時にいなかったからさ~。ニコってされただけでドギマギするなりよ」


「安心しろさおりん。そりゃウチも同じだ。ありゃ女子が勘違いしてもしょーがねーよ」

「だぬ~。かなっぺの言う通りだね。過度な期待は禁物ナリ。う~んでも……」


 おいおい。さおりん? 何その諦められないようなリアクションは。


「めちゃ遠くのN県から引っ越してきてさ、同じクラスでさ、席も近いワケだよ? これって結構……運が良いというか。ある意味チャンスではないのかな~? とか思っちゃうワケ」

 

 ぬぅわ! さおりん? まゆちんに引き続き……遥か高みを目指すのか?

 いあ、ダメだ。ダメだって! く、黒澤くろさわくんは……


 ウチの……ウチんとこの家族だし、血は繋がってないけど、もうすぐ一緒に一つ屋根の下で暮らすし、女の子に変わるしめっちゃ美人だし、妹めっちゃ可愛いし……ってかウチはさっきから何言ってるんだよ! 


 何故か異常に落ち着かねぇし、焦っているこの感情は一体なんなんだ!


「ま、徐々に仲良くなってね~それからの話だよね。どんな女の子がタイプなんだろ」


 あれ? そういえば……今更ながら思いついたんだけどさ。


 黒澤くろさわくんって心は男の子って言ってるわけだけど、やっぱり好きになるのは女の子だよな?

 それにどんな子がタイプなのかな? そういう話を一切してなかったことに驚いたぜ。


 どんな子がタイプなのか、そういう話なら聞いてもいいよね? 聞いたところでどうなる訳じゃないけど、やっぱり色々気になるじゃん。


 よ~し。どこかのタイミングでラインで聞いてみようと決心する三輪(みわ)さんであった。とはいえ、ウチがそんな話を黒澤(くろさわ)くんに切り出せるか。それが問題だ。

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