第8話 三輪家と白峰家は親戚です ①


 何事もなく帰宅。そろそろ新居に引っ越せるように準備しておかねば。確か今週に引っ越しするって言ってたもんな。


 ああしかし……ぜってー見られてはいけない部屋だよな。大量の本棚にポスターとか抱き枕も封印せねばならぬのか。あとはパソコンのセキュリティを最大限まで上げておかねば、コレの中身を知られた日には切腹モノだと思ってるんで厳重にロックすることだ。


 などと今から片付けまっせ~と言わんばかりなタイミングでオカンからの電話。どうやら遅くなるからまた晩御飯は勝手にしなさいと無責任砲が飛んできた。その数秒後、楓蓮かれんお姉さんのラインが着弾した。


『一緒に夜飯買いに行きませんか? ウチの親父や義母さん遅くなるみたいなんで』


 それは願ったり叶ったりなのだが、一つ質問よろしい? 凄く重要なことだぜ?


『今。黒澤くろさわくん? 楓蓮かれんさん?』 

楓蓮かれんです。学校がある日の夕方は99%楓蓮かれんだと思ってくれて結構です』 


 そ、そうなのか。


『じゃあ準備出来たら行きますね。華凛かりんも連れて行きますのでよろしく! 20分後くらいで』


 つまり学校では黒澤くろさわくんがメインでその他の時間は楓蓮かれんねーさんになる、でOK?

 そう考えると結構気が楽になった感じがする。


 そして20分後、待ってる間に恥ずかしい物はダンボールに収納していた。

 寝れるようにはしてあるぞ。あとはできるだけ自分で荷物は運んで持って行かないと、運搬中に落とされて中身を撒き散らす事にでもなれば洒落にならんぜ。


「こんばんは~」

加奈子かなこお姉ちゃん~こんばんわ」

「よろしくお願いしますね」


 白峰しらみね家到着である。別にさ苗字まで変えなくても。と思ってしまうが本人達の前で言う勇気などありはしない。

 今日の楓蓮かれんさんはストレートでサイドテールみたいな感じかな。やっぱりこの人が黒澤くろさわくんなんて思えねーから。絶対別人だろってくらいの万遍の笑みを見せられると逆に顔が引きつっちまう。

 華凛かりんちゃんは相変わらず茶髪のツインテールが良く似合うね。しかも加奈子かなこお姉ちゃんとあんまり胸の大きさが変わらない気がするよ? 気のせいじゃないよね? 確か小学校6年生だよね? 発育良すぎだぞ?

 とはいえそんな可愛らしい妹に加奈子かなこお姉ちゃんと言われて照れる三輪みわさんであった。


 ああ、妹っていいなぁ……弟らしいけど。もう妹でいいんじゃね?


「どうします? コンビニでもいいですしスーパーの総菜とかでもいいですし、ファーストフードでもいいですよ。マジで何でもアリです。どこか美味しい店に食べに行ってもいいですよ。全部親父が後で払ってくれるそうなんで」


 うほっ。楓蓮かれんお姉さんはウチに万札を見せてくれた。豪勢な飯代だぜ。

 それはまた美味しい食事にありつける可能性大ですね。


 とりあえず家を出て駅の方に向かう。そっちに行けば何でもあるぞ。駅に行く前に商店街もあるしコンビニもあるし、駅前に大きなスーパーもあるしファーストフードもある。ウチにとってはこれが普通なのだが白峰しらみね家はそうじゃないらしい。


「流石都会っすね。何でもあるのに驚きです。前に住んでたのが本当に田舎すぎてですね……コンビニすら歩いて行ける距離じゃなかったんで」


 国道の信号待ちをしながら、以前に住んでた地域の田舎っぷりを語る楓蓮かれんお姉さん。それにしても無茶苦茶目立ってる気がしてならねー。というのも楓蓮かれんお姉さんが美人過ぎるのもあるだろうが、華凛かりんちゃんが甘えん坊すぎてずっとおんぶされてるし! 


 ウチも……おんぶされてー。

 いあ、されたじゃないか? あ、黒澤くろさわくんじゃなくて楓蓮かれんお姉さん。でお願いしたいね。などと、どうでもいい事を考えながら商店街まで到着すると、その中間くらいの場所に見た事も無い建物があった。


 なんだここ。こんな場所に飯食う場所あったっけ?

 見た感じ西洋風の建物で、何となくイタリアンっぽい店だった。少し前にオープンしたらしい。


 楓蓮かれんお姉さんは「へぇ~」と言いながら店のメニューを確認してると「別に外食でもいいですよ」と言うと華凛かりんちゃんが、


「高いんじゃないの?」

「別にいいよ。俺の金じゃねーし。余ったら返せって言ってたし」


 ああそれなら。使った方がいいよな。ウチもそうするヤツだ。と思ってると、


「あ、バイトも募集してますね。ふ~ん」


 え? 楓蓮かれんお姉さん。興味があるの? 時給1200円だって。高くね?

 いあ、でもウチら16だし。働けるのかな? などと考えてたら急に華凛かりんちゃんがメニューを指差しながら。


「あ、オムライスある。ココが良い!」と言うので楓蓮かれんお姉さんがこちらを向いた。それはウチの意見を待ってると思ったので、おっけ~とグッジョブすると今日の飯はこの喫茶店で決まりとなった。


華凛かりん。降りろ」 


 流石におんぶしたまま店内は入れないよね。なので今度は手を繋ぐ姉妹。マジで仲が良すぎる。ウチはその後に続くと、ドアを開けて急に楓蓮かれんお姉さんが立ち止まったのでぶつかってしまった。すぐに「あ、ごめんなさい」とウチに謝るお姉さんだったが、目の前に見えたのは……


「いらっしゃいませ。3名様ですね。こちらの席にどうぞ」


 そう挨拶をした店員さんなのだが……

 どこからどう見ても、ウチのクラスにいるピンク白竹しらたけちゃんにしか見えなかったのだ。


 え? 白竹しらたけ)ちゃん?


 しかも恐ろしく残酷なほど可愛いメイド姿なのだ。あまりにも似合っており可愛すぎて思わず「おっしゃぁ~~!」っと叫びそうになった。


「どうしたの? お姉ちゃん?」   


 華凛かりんちゃんが不思議そうにお姉ちゃんを眺める。めちゃくちゃ大きいお目目で首を傾げる妹だったが中々お姉ちゃんが動かない。3秒くらい。きっとフリーズしてると思った。

 暫くして動き出した楓蓮かれんお姉さんの後に続くと、4人席へと案内された。


 まずは注文を確定しようとメニューを渡してくれる楓蓮かれんお姉さん。店内に入る前に決めておいたのでカルボナーラを指差すと、華凛かりんちゃんはオムライスだよね。すると楓蓮かれんお姉さんは


「じゃあ私は……マルゲリータのミートソースにしようかな?」  


 あれ? 急に女言葉になっただと? 私って言ったよね?

 そんな七変化っぷりを見せる楓蓮かれんお姉さんだったが、それよりも店内ではピンクのロングヘアを靡かせながら白竹しらたけさんが走り回っていた。


美優みゆう美優みゆう美優みゆうぅ~~! こっち来て~~~!」


 そう何度も叫ぶ男がいた。カウンターにいるのは……あっ! あれは銀髪のイケメンじゃねーか! 隣のクラスの弟さんがバーテンダーのような恰好して、ずっと美優みゆうって叫んでる。


 その間、ちらちらと楓蓮かれんお姉さんと目が合うが、なんとなく言いたい事は分かりますよ。

 あれって。白竹しらたけさんだよね? ってアイコンタクトされてると思ったウチはうんうんと頷いていた。


 横目でずっとカウンターを見ていると、何やら弟と白竹しらたけちゃんが喋ってる。暫くして白竹しらたけちゃんがオーダーを取りに来たのだった。するとまずウチに笑顔を下さった。


三輪みわさんこんばんは~! 私この喫茶店で働いてまぁ~す。ご注文は何にしますぅ?」


 そんな軽い軽い軽すぎる挨拶にも驚いた。

 あの白竹しらたけさんがすげー軽い。軽すぎるって! フワフワ過ぎんだろ!


 学校でのビビリな彼女とは思えねぇから! ほらっ! 楓蓮かれんお姉さんも笑顔だけど絶対動揺してる顔だよ!


 だがもっと驚いたのは次の楓蓮かれんお姉さんの一言だった。まずは白竹しらたけさんに注文を伝えるのはいいのだが、その後だった。


「あれ? 加奈子かなこちゃんのお知り合いですか?」


 加奈子かなこちゃん? 今そう言った? 楓蓮かれんお姉さんが? ちょっと不思議そうな顔して?

 すると白竹しらたけさんはすげー笑顔で「同じクラスになって前の席なんです」と返して来たのだ。


「そうなんですね」と楓蓮かれんお姉さん。笑顔の白竹しらたけちゃんに笑顔で返してた。なんだこれ。何かの戦いが勃発してるのか?


 っていうかこの場所だけ。何か世界が違うぅ! 美人だらけじゃねーか! (ウチを除く)


「あ、三輪みわさん。あのですね。ここで働いてるのは……学校ではとりあえず内緒にしててもらえます?」


 そう言いながら口元に人差し指をつける白竹しらたけさんだった。ついでにウィンク付き。ぶはっ! 男子にやるとクリティカル一目惚れするヤツだ! 


 当然ウチは何も言えず高速で頷くことしか出来なかった。


 いあ、まて、何か変だ。変だって!

 これ本当に……白竹しらたけちゃんなの? あの白竹しらたけちゃんなの?

 ブタの鳴き声はどうしたんだ? フゴフゴと鼻息の荒い喋り方はどうした?


 残酷すぎるメイド姿もヤバいけど。そのハッキリとした受け答えもそうだし、何よりも陽キャラになってるって! ついでにブサイク成分も0%という、何処からどう見ても完璧美少女じゃないか!


 オーダーを受け取った白竹しらたけちゃんが席を離れると、再び店内を走り回る白竹しらたけちゃんだった。さっきからずっと忙しそうで、もう一人の店員さんである小太りのお爺ちゃんと2人で接客を行ってるようだった。弟は裏方の仕事なのだろうか。出て来ない。


 っていうか白竹しらたけちゃんが物凄く俊敏なのだ。まるでアイススケートの選手みたいにクルクル回りながら客とぶつからず、次々に接客をこなしていく彼女。


 いあ、これ……マジで白竹しらたけちゃんなの? 何か高校の彼女と全然違うんですけど!

 別人? いあ。顔のパーツは100%一緒だってば!  


 その時、楓蓮かれんお姉さんの顔が近づいてくると「ビックリですね~」と小さい声で聞こえて来たのでウチも同じく「ビックリでした~」と返した。ワケが分かってないのは華凛かりんちゃんだったが、お姉ちゃんが説明するのであった。


「へぇ~凄い綺麗な人と同じクラスなの?」

「そそ、俺もビックリした」


 小声では男言葉になる楓蓮かれんお姉さんだった。そのあと、目の前でスマホを見だした楓蓮かれんお姉さんはラインを開いた。と思えばウチに連絡してくる。


『外では基本、楓蓮かれんでは女っぽく喋るんでご理解下さい』

 

 ウチはグッジョブするスタンプを送ると、すげーカワイイ猫のスタンプが送られて来た。そのスタンプに驚く間もなく、


『でも、心の中は男なんで』


 などと、あまり意味が分からない文章に頭を悩ます暇もなく、


『どうします? 外での関係ですが三輪みわさんとは【従妹】という関係でよろしいでしょうか?』

 

 そう送られて来たので、了解のスタンプで返すと、


『私が姉でよろしいでしょうか?』


 そう送られて来た瞬間、お姉さんと目が合う。ちょっと恥ずかしそうだったのでいっぱいスタンプを送りまくったとさ。


 おっけ~おっけ~その方がいいです! 頭の中でも楓蓮かれんお姉さんだし! 

 これでウチがお姉さんとかマジありえねーから! 


 そんなもん世間が許してくれねーよ!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る