第7話 黒澤くんの秘密はウチだけしか知らない ②


 ※


 そして昼休み。弁当もクソもないウチは食堂に駆け込むかどうか悩んでいた。まゆちんやさおりんはしっかり弁当を持ってきており、一人寂しく食堂に行かなければならぬのか? そう思ってると後ろから声が聞こえてくる


黒澤くろさわくんどうする? 食堂で食べる?」

「うん。いいね」

 

 染谷そめやくんと黒澤くろさわくんが教室を出て行くと、何故か食堂に行くのを躊躇ってしまう。

 いや、絶対無理。何が悲しくて一人で食堂で飯食わなきゃならねぇんだ! 特に黒澤くろさわくんにそんな場面見られたくねーじゃねーか!

 

「かなっぺ。分けてやるにょ~ダイエット中だしね」

「サンクスさおりん。褒めて遣わす」


 何でもいいからくれぇ! 朝から何も食ってねーからハラペコなんだよ。そう思ってるとウチの背中をツンツンするのは白竹しらたけちゃんだった。


「あにゅ。もしゅよろしゅ。よろしゅければサンドイッチ食べましゅ?」

 

 白竹しらたけさんの机には結構大きめのバスケットにサンドイッチがぎっしり入ってた。

 コレ一人分で食べるの? などという質問はさておき、「食べて下さいね」と許可を頂いた瞬間、一切れ貰い食べてみると……


「うううんまっ!」


 たまごぉ~レタスゥハム最高! コンビニやスーパーのレベルじゃねぇ。もっと上だ。一切れ千円するヤツだってコレ!

 

「美味そう。白竹しらたけさ~ん。ウチにもちょうだい? この卵焼きをあげよう」

「ウチにも頂戴。見た目からしてもう美味しいよね。すごーい白竹しらたけさん!」


 白竹しらたけさんの机に群がる三人衆。その様子をジト目で見てるのは、このクラスの男子全般であった。ちらちらとウチらのパーティを覗きやがって。お前らには縁のないイベントなんだよ。などと思ってると、


「ねぇねぇ白竹しらたけさん! 俺も欲しいっす!」

 

 西部にしべ染谷そめやくんの席に勝手に座ると催促してやがるが、そんなもん通るかぁ!


「しゃぁ~~~! 誰が貴様なんかにくれてやるものかぁ!」


 ウチは早々と二個目のサンドイッチを口にぶっこむと、両手に二つを持った。 


「こらぁ三輪みわぁ! ふざけんなてめぇ! ねぇ白竹しらたけさん。一個くらい貰ってもいいですよね?」


 そう言いながら手を伸ばす西部にしべだったが、ビビりまくってる白竹しらたけさんを見て男性陣から反乱がおきていた。


白竹しらたけさん。こんな奴にやらなくていいっすよ。むしろ俺が欲しいけど」

「それは白竹しらたけさんが作って来たの? 女子力たけぇ~」


 味方と思われた男性陣からも攻撃されて、何と哀れなチンパンジーなのだろうか。 

 西部にしべが言われてる間に手に持ってたサンドイッチの一切れを口に入れ、もう一個は伸び盛りまゆちんにくれてやろう。もっと大きくなれよ~。まゆちん! 身長180逝ってみようぜ?


 それにしてもこのサンドイッチ美味しいってマジで! 

 思わず「あぁ美味かった。むちゃくちゃ美味かったっす!」と、素で喋り掛けてしまった。


「あ、あへあへあへ」


 白竹しらたけちゃんの笑い方が独特過ぎるがあえて突っ込まない。それ以上に彼女の笑顔が見られたのが大きい。ウチも普通に挨拶しちまったな。まぁいい。白竹しらたけちゃんとはウチも仲良くやっていきたいんでね。


 ほどなくして昼休憩が終わる。染谷そめやくんや黒澤くろさわくんが食堂から戻って来ると、ふと白竹しらたけさんを呼ぶ染谷くん。


「ねぇねぇ白竹しらたけさん。どうせなら遠方から来た仲間と言う事で。俺と黒澤くろさわくんとライン交換しない?」


 おおっと? 急に勝負掛けて来たか? 染谷そめやくん?

 でも流石に話が急じゃねーか。そう思ってたんだけど。


 白竹しらたけさんは染谷そめやくんと黒澤くろさわくんの顔を何度か往復すると、コクコクと頭を下げてから「よろしゅくおねがいしましゅ」と言いながら承諾してしまったのだ。


「とりあえずみんな遠方から来たもの同士、仲良くやっていけたらなって黒澤くろさわくんと言ってたんですよ」


 なるほどね。黒澤くろさわくんも言ってたけど、転校生で友達が居ないからまずは染谷そめやくんや白竹しらたけさんと仲良くやりたいってラインで言ってたもんな。


「あぁ~~! ウチもお友達になろうぜ白竹しらたけさ~ん!」


 ウチの机を通り越してさおりんが来ると。


「サンドイッチの恩は忘れないわっ、白竹しらたけさんの為にいっぱい働きまぁす!」


 まゆちんまでライン登録を済ませてしまった。

 あ、もちろん白竹しらたけちゃんにだけだぞ。染谷そめやくんや黒澤くろさわくんにいえるほど図々しい奴らじゃねぇよ。

 当然、黒澤くろさわくんのラインは知ってるけどね~などと誇らしげになる三輪みわさんだった。


 いやいや、そんな話じゃなくてだな……


 当然ウチも白竹しらたけさんとライン友となった。

 その後で西部にしべがなにか騒いでたが、染谷そめやくんが「あぁ?」と変な声を出すと大人しくなった。


 うんうん。とりあえず順調。西部にしべがハブられてる場面を見ると落ち着くぜ。


 午後の授業が始まってからは平常心を取り戻していた。

 とりあえず接点の無いのを演じる。か……


 最初はどうなるかと思ったが、黒澤くろさわくんの演じっぷりにはマジで尊敬に値する。圧倒的! そして楽勝ではないか!

 連れ子同士だなんて全く匂わせないほど普通で、ウチの人間関係が脅かされる訳もない。

 このミッション案外簡単なんじゃね?


 ※


 6時限目になると、ここから黒澤くろさわくんのラインが激しくなってきた。というのもウチが他に入れ替わり体質のルールってどんなのがあるのか聞いてみた。すると……


『次に重要なのがこれです。男か女に入れ替わってから再度入れ替わるのに4時間開けないといけないんです』

 

 う~んつまり、入れ替わってまたすぐに入れ替われないってことでおっけ~? また入れ替わりたければ4時間経たなきゃ不可能ってことだな。


『例えば、男の状態で朝に女に入れ替わったとします。するとそこから4時間入れ替われないので、俺は学校に行けなくなります。そんな感じになると困りますよね』


 あぁ。そう言う事か。なるほどね。

 でも楓蓮かれんねーさんで学校に来てもそれはアリだとは思いますが、


『なので入れ替わる時間はわりと計画的にしないと、後で大変になったりするんです』


 【入れ替わってから4時間。再度入れ替わりが出来ない】か。これは結構重要っぽいな。


『何か他にあります? なんでもどうぞ』

『今のところは大丈夫です。また疑問に思ったら言いますね』


 むふふ。この立ち位置というかポジション。最高に思えて来たんだが。

 連れ子じゃなかったらこんな関係あり得なかったのに、クラスで1,2を争うレベルの男子の秘密を共有するとか。三輪みわさん大歓喜すぎるぜ。


 などと浮かれてると、今度は白竹しらたけちゃんがラインを送って来た。


『昨日は本当にありがとうございました。自己紹介の時助けていただいて。そのお礼をずっと言いたかったのです。私は昔から人とお付き合いするのがとても下手でして、誤解をさせてしまう事が多々あるかもしれませんが、三輪みわさんとは仲良くしていきたいです。よろしくお願いします』


 イキナリの長文にもビビったが、その文章を読み進めて行くうちに、何となくウチに似てるかなと思ってしまった。まるで昨日黒澤くろさわくんに送った内容みたいだったからだ。

 とにかく分かって貰おうと、この陰キャなウチを少しでも理解してもらおうとした結果、こんな文章を送っちまったんだ。


 そのタイミングで授業が終わると、後ろを向いてボソっと一言。


「仲良くしようぜ? 白竹しらたけさん。悪い事は言わん。ウチに任せておけ」


 その返事にニカっと笑ってくれた彼女。おお、ブサイクじゃねぇ。本来美少女が見せるような完璧な微笑であった。ウチは少々引きつりながらスマホをタップして彼女に送信。


『こういうキャラなんで、偉そうに喋っちゃうけど、悪気は一切ありませんので誤解しないでね』


 そんな内容を送って5秒ほど。むちゃくちゃ顔を赤くしてうんうんと頷く白竹しらたけちゃん。

 え? 今の内容で顔を赤くすんの? っていうか。可愛すぎるからぁ! などと思ってるとラインでマジで「可愛い」といったスタンプを下さった。


 いあ待って! ウケ狙いじゃなくてわりとマジなんだけど。


 しかもそのデレ顔を周りのみんなに振りまく白竹しらたけちゃん。これには黒澤くろさわくんも何も言えず、にこやかに眺めるだけだった。当然染谷そめやくんも「何かいい事あったのかな?」と笑顔だった。


「かわぁいい!」


 そう西部にしべが漏らした瞬間、通常モードのビビリ白竹しらたけさんに戻ったのには爆笑するしかなかった。しかしその後にウチと目が合うなり「ふにゅ」とか言いながら超絶スマイルかましてきたので、内心引きつりながらも男前な劇画風な三輪みわさんを見せてやりましたとさ。


 あのチンパンジーはウチに任せろ。何度動物園から脱走してきても連れて帰るからな。ったく。いつになったら自分が人間じゃねーって理解するんだよ。


 などとチンパンジー捕獲作戦を真面目に考えようとしたその時、白竹しらたけちゃんの斜め後ろにいる黒澤くろさわくんと目が合った。その瞬間ウチの顔面が崩壊してしまう。


 慌てて教壇へと向き直る三輪みわさんであった。

 ダメだ。あの爽やか黒澤くろさわくんの顔面ブレスには耐性が0すぎてヤバい!

 

 急いで深呼吸し、応急処置を取ろうとしたが前の席のさおりんが、


「ん~? どうしたんだい? かなっぺ? 顔が真っ赤で耳まで赤いナリ」

「わかんねーのかおい! 今気圧が3ヘストパスカル下がったんだよ。不安定すぎんだろ」


「ふう~ん? なに? 照れてる?」

「照れるだと? 何の話なんだよ。ウチは気圧の話をしてるんだよ!」

 

 さっきから何言ってんだぁ! 待ってくれよさおりん! マジでテンパってるんだよ!


「ねぇねぇ白竹(しらたけ)さん。かなぺーが顔真っ赤なんだけど、何かした?」

「あ。あへ、あへへ、あへへ」


 後ろにいる白竹しらたけちゃんに遠距離攻撃し始めたので、諸手を振って阻止したが、2つ前のまゆちんにまで「顔赤~い」とか言われたので、もはや打つ手なしな三輪みわわさんは机に蹲って顔を隠すしかなかった。


 暫くそうしていると、ウチをイジろうとしたさおりんも前を向く。 

 頃合いを見て起き上がると、ふと後ろが気になってチラっと見てみると、またまた黒澤くろさわくんと目が合う。


 即座に回れ右する三輪みわさん。ったく何回やるつもりなんだよ。

 とはいえ……これは凄く重要な問題じゃね?


 慣れない。一向に慣れないんだけど! 

 黒澤くろさわくんの視線をどうにかして克服しねーと絶対にマズい!

 

 マズいけどどうやって克服すりゃいいんだよ!


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