第6話 黒澤くんの秘密はウチだけしか知らない ① 本文編集


 ピンポーン。ピンポーンピンポーンピンポーン!

 

 インターホンが立て続けに鳴り響く我が家。あぁこのパターンはさおりんのリズムだと気がつくと、もう一度布団を被って寝たくなる。その数秒後、玄関から「ごっごっごっごっごっ」と聞こえてくるとウチの部屋のドアが勢いよく開いた。


「やっぱりパジャマだったわね。寝てると思った」

「おっはよ~! 今日はダメだったねかなっぺ。8時だぞ~ヤバいぞぉ~」

「うっすご苦労……って8時?」


 スマホを確認するとマジで8時2分だった。その瞬間にさおりんとまゆちんにパジャマを脱がされると、ズボンまで脱がされ……なんら期待するようなシチュエーションではなく、2人に揉みくちゃにされながら洗面所に連れていかれ歯ブラシを突っ込まれる。強引に洗顔作業に入りドライヤーされると、2人がかりで制服に着替えさせられる。


 いあ~極楽極楽。じゃなくてわりとウチを亡き者にしようと言うくらい強引なんで全然極楽じゃないぞ。むしろウチが遅れることによって、さおりんもまゆちんも遅刻扱いになるんで必死である。


「あれ~かなっぺ? 冷蔵庫に何もないよ~? 今日はお母さま朝ごはん何も買って無かったの? 朝ごはん抜きね~じゃあ学校に参ろう~」


 しょうがねーだろ? だって昨日はお父様の新居で泊まりやがったんだから。などとそんな事を言える訳がねぇだろと思った瞬間。ウチは色々な事を思い出していた。


「うわぁ~~~~!」


 ウチは発狂しながらスマホを確認。画面を見た瞬間にラインの通知だらけじゃねーかー! だぁ~~! やばいやばい! いっぱい連絡が来てるぅ!

 オカンはもちろん、楓蓮かれんお姉さんの連絡が山のようにぃ!


「しっかりしなさいかなっぺ! スマホ見てる場合じゃないわよ! 10分だよ。ダッシュで行けばまだ間に合うわっ!」

「まゆち~ん。かなっぺお願い。ウチは先に行ってるよ~」


 急いで出て行くさおりんに続き、少し遅れてウチとまゆちんも家から出ると「乗りなさい」と言わんばかりにしゃがむまゆちん。すぐに背中に飛び乗るのであった。


「急げっ! どうどう!」

「誰のせいなのよ! カバン持ってて!」


 おぉ~早い早い! 流石はヨネヤママユーコである。ちょっと競馬のウマっぽいだろ?

 170センチという巨体から見える景色は中々静観である。


 早い早いヨネヤママユーコ。その辺の人間をゴボウ抜きだぁ。第3コーナーに差し掛かるぅ。

 50メートルほど前方にはさおりんがゼェゼェ言いながら走ってるぞ。周りにも同じように走る生徒がいたので何とか間に合うだろう。そしてさおりんに追いつくとマユーコが「降りなさい」というのでしがみ付いていると、さおりんまでもがマユーコに乗車しようとするのだ。


「まゆち~ん! ウチも載せて候~」

「ちょっと! かなっぺ降りなさいよっ!」


 ああ大丈夫だ。ヨネヤママユーコはスタミナもある。バスケ部副主将舐めんなよ!

 結局2人をおぶったマユーコ。高校遅刻杯を難なく制した瞬間だった。 


「もうっ2人とも降りてよ! 間に合ったでしょ!」

「いあ、それが……さおりんが降りねーと降りられねぇから」


 ウチ。2人にサンドイッチみてーに挟まれてるんだが。へばってるさおりんが降りようとしねーんだよ。


「あぁ~朝からきっつ~い。さすがに8時スタートはヤバかったね。学校が近くで良かったナリ」


 さおりんは3人の中で一番体力ねーからな。しょうがねぇよ。

 そろそろ周りの目が痛いぞ。女子高生が3人合体してるからな。中々見れるものでは無いとは思う。

 

 結局校舎の前で散開した3人組。遅刻ではなくとも十分遅いので慌てて上履きに履き替えて、3階を目指す。勢いよくクラスに入ったのはいいのだが、注目されるのはしょうがない。だってウチらさ3人以外み~んな席に付いてるし。


「おはよ。まゆこ。また筋トレやってたの? 朝からご苦労なこった」 


 まゆちんの彼氏である梶谷かじたにだけが声を掛けてくれた。


「うるさいわね! 違うわよ!」


 ツンデレっぽく返すまゆちん。ほら彼氏もさ「まゆこ」呼びだからな。これで付き合ってねーんだぜ? おかしいだろ。まぁまゆちん曰く「家が隣で幼馴染ってだけよ」とか言うけども、それって将来確定だろって誰もがそう思うだろう。


 ウチは後ろの席に座るピンク白竹しらたけさんにグッジョブすると、少々ブサイクな顔になりながらも親指を立てて笑顔を見せてくれたぞ。「おはよごじゃます」と遠慮がちに聞こえてくる白竹しらたけボイス。聴覚に入るだけで回復しちまうような甘ったるいボイスであった。


 すると白竹しらたけさんの隣の席からも「おはようございます」と聞こえて来たのだ。

 まさかの金髪さんに……至極普通に挨拶された。だと?


 若干冷静さを失いながらもなんとか小さい声で挨拶すると……

「おはようございます」ともう一度聞こえてくる。ああ、今度は金髪さんじゃなくって……


「危なかったですね。ギリギリセーフです」


 そう言って笑顔を見せてくれるのは、オカンの再婚相手の息子さん。黒澤蓮くろさわれんくんだった。


 え? 早速……喋り掛けて来た? あれ? 

 確か最初は接点を持たないという約束だったのでは? 今のは……自然な挨拶か?


「凄いっすよね米山よねやまさん。2人おんぶして爆走してるの、ここから見えましたよ」

 

 これにはまゆちんもさおりんも苦笑いしながら答えるしかなかった。


 いあ、待て……ちょっと待て。

 どうでもいいけど、いあ、どうでも良くないんだが、

 

 まだ楓蓮かれんお姉さんのラインの確認が終わってねーよ!

 何かもう色々と立て込んでて作戦云々が全然把握出来てねぇし!

 とりあえず授業中に態勢を立て直さねば!



 ※


 昨日、楓蓮かれんお姉さんとのやり取りをしながら寝てしまったっぽいな。朝方には『おはようございます』と送って来てくれてたのにガン無視しちまった。慌てて返事しようとしたが、授業中にライン着弾の音を鳴らすのはヤバイので、これは休み時間に送りまくろう。すまぬ黒澤くろさわくん。生まれつきの低気圧ヨワヨワーなので朝が弱点なのじゃよ。


 その他に書かれえたのは『入れ替わり体質についてのルール』と書かれており、具体的な例は載ってなかったけどふと疑問に思ったことはそのつど教えて欲しいとのことだった。ちなみにオカンからも似たような返事を貰っているので、言いにくいことはオカンに聞いた方が速そうだ。


 次の休憩時間、授業が終わると同時に白竹しらたけちゃんが上履きをパタパタさせながら教室を出て行った。なので守衛役であるウチは何気に彼女の後を付けていく。一緒に西部にしべが出てきたが、両手で引っ掻くモーションを見せつけてやるとそれ以上近づいてこない。


「んだよ三輪みわ! いいだろ別に」

「貴様は白竹しらたけちゃんの半径3メートル以内に入っていけない。わいせつ罪で私人逮捕してくれるわ」

「んまっ西部にしべ? もし彼女がお腹痛くてWCだったらあんたもうその時点でセクハラだよ~」 

「はい。アンタはどっか行きなさい。お呼びじゃないのよ」 


 西部にしべをさおりんまゆちんとのトライアングルアタックでボコっていると白竹しらたけちゃんは隣のクラスのドアから中へ、一生懸命手を振っているぞ。その先に見えるのは……


「ああっ……あの人は、入学式で見た銀髪さん」

「……ちょっと。あの人同じ年なの? し。信じられない」


 好き勝手賞賛するウチらコンビだったが。ウチらだけにあらず。そのクラスの窓にギッシリと女子生徒が彼を一目見ようとしてるのか。凄い人気であった。


魔樹まきま~き! ま~き!」


 ピンク白竹しらたけさんが必死にそう呼ぶと、ゆっくりと教室に出て来た銀髪イケメンだった。 

 線ほそいって! 細すぎる! スラっとしてて身長も165くらいあるのか?

 魔樹まきと呼ばれた男の子は白竹しらたけちゃんの前で止まるのはいいんだけど、何故かあまりやる気の無いような顔してるよな。すげー面倒くさそうな顔になってる。面倒くさそうなのにイケメンだから困る。


「何か用事?」とイケメン魔樹まきくんが質問すると、

「特に何もありませぬよ」と笑顔で返す白竹しらたけちゃんだった。え? 何もないの?


 そう聞いた魔樹まきくんは「ふんっ」とか漏らしなが教室に入っていこうとするので、白竹しらたけさんが両手で魔樹まきくんの腕を引っ張るのだった。


「あにょ。あにょ。魔樹まき。こちらの女の子、み、三輪みわさんでし。こちら坂田さかたさん。こちら米山よねやまさんでしゅ。同じクラスで仲良くして貰いましたのでございます」


 ええ? 急に自己紹介を始められたので、よろしくという他無い。だがさっきまで不愛想っぽかった魔樹まきくんは急に爽やか笑顔に変身すると、


「そうなんですね。美優みゆうをよろしくお願いします。仲良くしてあげて下さい」

「は、はぁい!」 

 

 そんな気合を入れて挙手しながら返事したのはまゆちんだった。

 挨拶が終わるとそそくさと戻って行く超絶イケメン魔樹まきくん。後ろ姿も美的オーラで覆われてるぜ。


「ねぇねぇ白竹しらたけさん。あのイケメンさんとはどういう関係なんだい?」とさおりん。 


 お、そうだった。それを聞くのを忘れてたぜ。 

 魔樹まき。とか言うあたり凄まじく仲が良さそうだけど、兄妹って線もあるぞ。

 まさか白竹しらたけさんを追って、はるばる引っ越してきたイケメン婚約者とか。


「えっと、魔樹まきはわたしゅのわたしゅの……双子の弟さんなのでし」

「わぁお! そうなのね。双子さんだったんだぁ」

 

 食らいつくまゆちん。さっきからハイテンションだぞ。


「パっと見た感じは似てないっぽいけど、どちらも美人でイケメンで羨ましいナリ」


 それに尽きる。天は一人の人間に二つも三つもチート能力を与えすぎなんだよ。

 そこで授業開始の呼び鈴がなるとクラスに入って行くのであった


「あぁ……凄いカッコ良かった」

「あ? まゆちん? どうした? 一撃で惚れちまったのかよ」

 

 ウチはわりと冗談で背中をバンバン叩いていると、両手で顔をかくして「どうしよ~」とか言いやがる。いあ、お前は梶谷かじたにがいるだろ。などと言えるはずもなく、


「ちょっとまゆちん? 本当なの? ビビビっときちゃった?」


 心配そうに覗き込むさおりんに、まゆちんは「あ、あんなの……ダメよ」とイミフな拒否をしながらも内心すげー嬉しそうだった。マジか……白竹しらたけちゃんの弟さんに一撃で沈んじまったのか? まぁ分からんでもないレベルのイケメンだったしな。


「待てよまゆちん。よく考えろ。アレは……無理だ。話になんねー」


 ウチを含め、さおりんやまゆちんでは……あんな超絶イケメンに相手にされる訳ねーだろ?

 

「もし結婚できたとしても、ママ友に言われるんだよ~。何であんたみたいな女選んだのかしらって! それにもし浮気されたとしても、きっとこっちが悪くされそうなほど、世間は許してくれないよ~?」 


 さおりんも分かってる。ありゃ別格だと。

 まぁ黒澤くろさわくんも別格だけどさ、素直に付き合って下さ~いで、万が一成功したとしても後のこともよく考えておけ! 

 ああいうタイプの人間をウチらは求めてはならない。見るだけで十分だっつーの。などと心の中でまゆちんを説教垂れていると、ふと視界に黒澤くろさわくんが入って来る。


 目が合うとその1秒後。ニコっと笑顔を下さったので即座に視線を逸らすのだった。


 無理だ無理だ無理だっておい! こっちも別格だってばよ!


「だはっ。今さ、黒澤くろさわにニコっとスマイルされちゃったでござるぜ?」 


 違うってさおりん! 何を照れてんだおい! 今のスマイルはウチに向けたモールス信号なんだって! っつ~か。ありゃ無理ゲーだっておい! さおりんでも無理だっつーの!

 

「う~ん。黒澤くろさわもそうだけど染谷そめやくんも結構男前だよね。あれよ。黒澤くろさわは爽やかなのよね」


 それはまゆちんに同意するが、ウチらじゃ……話になんねーくらい別格なんだってば!


「しゃ、しゃわやか。なのでし、ししゅ」


 後ろにいた白竹しらたけちゃんまで同意しただと?

 そして何故か皆の視線がウチに集まると、


「だな。イケメン多くて困るぜ?」


 そう締めくくると、みんなが「うんうん」と頷いたのであった。

 つーか、白竹しらたけちゃんはマジで可愛いのでこれからレギュラー頼むぜ?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る