第4話 とりあえず落ち着こうよ三輪さん? ④
「覚えてない。ですよね……今日初めて逢った訳ですし」
いや、無茶苦茶覚えてるっつーの! あの爽やか系正統派イケメンで、ウチの自作小説のヒーローじゃねーか! 当然、信じられないという顔で迎え撃つと、
「あの……
「ほら、そのあと
対するウチは唖然とアホ口を開いたままになっていたという。
「って言っても、中々信じて貰えませんよね……」
少し困ったような顔をする
まだ早い?
「なぁ
妹ちゃんにそう尋ねるお姉ちゃんだったが、背中に隠れたまま「わかんない」と返って来る。すげー非協力的だが、彼女は悪くないと自分に言い聞かせる。
「まぁいっか。親父なら持ってるだろうし、後で見せてもらってください」
「はい」と言うしかない。ここまで言うのなら本人の言う通りこの
「とりあえず、今の俺。
ニコっと笑顔な
だって! 信じられねーから!
この美少女お姉ちゃんがあの……爽やか黒髪イケメンになるっていうのか?
いあ、無理だって! とてもじゃないが同一人物だなんて思えねぇんだよ!
「やっぱ理解するの難しいですよね。俺もこの【入れ替わり体質】をカミングアウトするのは初めてでして、説明が悪くてごめんなさい」
すぐに顔を横に振り続けた。それは違う!
「ただ……ビックリしてるだけで、その……」
そこまで言っておいて後が続かない。
下を向き明らかに落ち込んでしまった
「分かりました。分かりましたからあの……理解します。お、同じ人間……」
ここまでしか言えなかった。
情けない。そう自分を責めたくなる。ウチには人を励ます事すら出来ないのか。
「ごめんなさい」と
ふと思い出したのが
あの娘が見せた極限の状態で全力を出したあの時のように……
スペードのエースとハートのエース。つまり※エーシズ様降臨!
テキサスホールデムで言う、最強の手札だ。
これはもう……逝かねばならぬ!
「分かりましたぁ! 理解します! 同一人物っすね! 分かりましたぁ! えっと
まるでピンク
最強の手札であるエーシズでフォールドするという選択肢は無い! コレで勝負しねーで何で勝負するって言うんだぁ!
「大丈夫。ほらさっきお父さん……あ、義理のお父さんが女性から男性に入れ替わったのも見たし、あんな感じですよね? うんうん! おっけーおっけー
「
身振り手振りも付けて最後にグッジョブしながら、ニカっと眩しすぎる笑顔を見せると、
「ありがとうございます。
「お姉ちゃん。ありがとうございます」
これにて一件落着。今の
だが……全てのマジックパワーを使い果たしたウチはまだ何も知らなかった。
今目の前に見えるのは
そんな彼女が男の状態になるとどうなるのか。全然分かってなかったのだ。
ああそうだ。何も分かってなかったのだよ。ふはは。
※
家のインターホンが鳴ると、お父様や
「さぁ、とりあえず食いまくろう」
本日の夕飯はデリバリーのピザとなった。おお、久しぶりすぎてマジ感動した。前に食べたのは確か小学生くらいだったんじゃね? 年単位で昔を思い返す程であった。
「
いつもなら「そうだようっせーな」と言いたい所だが黙って頷いた。
するとお父様が「そりゃちゃんと2人でルール決めてた方が良いぞ」と言うので「何のルール?」と質問する前にも
とりあえず食べよう。そんなお父様の言う通りまずは腹ごしらえ……
すると
「ごめんね
そう言えば
するとそのタイミングで口を開いたのはオカンであった。
「私にはその考え方が分かんないのよね。別にどっちでもいいじゃない?」
「いや、そういう訳にはいかないんだよ。入れ替わり体質の人間は必ずどちらかの性別を強く持ちたくなるんだ。こればっかりはそんな状況の人間じゃないと理解できないんだと思う」
お父様の言ったことに呆れたような顔をするオカンであった。
そう言えばオカンよ。よくぞこんなイケメソナイスミドルを射止めたよな? マジで何したんだよ。そこが気になるんだけど。
「とりあえず俺達、
それはさっき
「そうね。まずはそれだけ守って頂戴。簡単でしょ」
ウチはピザを頬張りながらうんうんと頷いた。ついでに
「本当は入れ替わり体質特有のルールがあるんだけど、それは追々アンタが理解していきなさい。男や女でいられる時間やリミットの話とか、それに……」
オカンが説明しようとするがお父様が「まぁまぁ」と言いながら、
「一気に説明しようとしても難しいよ。とりあえず
だそうだ。こんなこと誰も信じねぇだろうし、誰にも言わないぞ。だから安心しろ。
「あ、そうだ親父。スマホに俺や
思い出したように言う
ウチは笑顔でお父様からスマホを受け取ったのはいいのだが、横にいた
「だってお前、撮らせてくれねーじゃねーか。あ~あ昔のお前はもっと素直で可愛かったのになぁ。
「うるせーよ。その変な歌止めろって」
え? 今の「うるせーよ」はウチじゃねーよ。
義理のお父様には激しいお姉様だったが、ウチと目が合うと微笑を浮かべながらスマホを見せて下さった。
「ちょっと恥ずかしいですよね。それ小学校の頃の俺です」
苦笑いする
さわやか黒髪イケメンの
「こっちのちっちゃいのが
そう言われるとピザを手に持ちながらやってきた
「じゃあ今のお前らを撮らせてくれよ」とお父様が言うと
「嫌に決まってんじゃねーか!」と返す
……いあ、だから。
家族とウチとの喋り方に雲泥の差があるような気がしてならねぇ。
ウチが固まっていると「あ、ごめんなさい」と笑顔を見せる
「ほら、俺……今は女だけど……男。ですから」
いあ……だから。その顔で「男ですから」と言われても全然説得力ないんですけど!
※
「こっちが
「…………」
そうだった。そう言えばウチ。この家に引っ越すことになってるんだった。
すっかり忘れてたと同時に、急に焦り出す。
「お姉ちゃん。部屋でゆっくりしていい?」
「ああ、好きにしろ」
という訳で
そうだった。ウチはこれから……ここの家の子になるんだった。
今は女の子だけど、男の子と一つ屋根の下……
「どうしました?」
心配そうに覗き込む
この人があの……さわやか黒髪イケメンの黒澤くん……
やばい! 急にきた!
今までは美人な
「俺達の荷物も全然片付いて無くって、こんな感じっす」
そう言いながら
ウチが興味津々だったのはパソコンだった。これ結構新しいな。マウスの形状からしてもゲーミングパソコン? などと質問したいが彼女の一言にプチパニックに陥ってしまう。
「そう言えば自分の部屋を見せるのって、
ウチだって初めてだっつーの。殿方の部屋なんて初体験だから。
そんな新たな扉を開いた瞬間、
「そうそう大事なことを聞くのを忘れてました。ちゃんと決めておかないと」
何の話だろうか。そう思ってると「学校の事なのですが」と前置きしてから続ける。簡単にいうと、再婚したというのを学校の人間に伝えるかどうか、などのお話である。
「それは……まだ内緒というか……」
「ですよね。学校では何も言わず、まずは接点もない関係で行くのが無難ですよね?」
うんうんと何度も首を縦に振る。その方が絶対良い!
もし
それはマズい。色々とマズい気がする!
入学式でも接点が無かったから喋らなかった訳だし、急に喋るようになるのはおかしいだろ。そもそも学校で
「後は……バレないようにラインで連絡を取り合いましょうか。あ、ちなみに俺のアカウントは
早速ライン交換を済ますと、妙に嬉しい三輪さんであった。
「基本は
何だろう。そんな秘密事項を決めていくのが……やたらワクワクすっぞ。
しかもこの事実を知ってるのは高校ではウチ一人。なにこれ。楽しいかもしれねぇぞ。
そんな話をしてる最中、
「アンタどうする? 今日この家で泊まる? 私は泊まるけど」
「はぁ?」
ちょっと待てよ! そりゃいくら何でも早すきねぇ?
あまりの慌てっぷりに、お父様と
「急に泊まれって言われても困るよね」とお父様が言うと「
いうだけ言って部屋から出て行ったオカンとお父様。
泊まって何するんだとかいう突っ込みなど無用だ。考えたくもねぇし。
「もうすぐ22時ですね。どうします? 明日も学校ですしそろそろ帰ります?」
これ以上遅くなってはヤバいな。風呂も入りたいし、ゆっくりリラックスしながらポーカーに興じたいというのもあり「帰ります」と告げると、
「どうせなら……男になって送りますよ」
ん? 男になる?
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