第2話 とりあえず落ち着こうよ三輪さん? ②

 ※


 暫くして担任が入って来る。

 うわぁ……クッソやる気無さそうなメガネのおっさんだった。

 え? 46歳? いあ、もっと老けて見えるぞ。ああそうか。ハゲかかってるからそう見えるんだな? しかも「独身です」とか言わなくていいだろ。誰もお前の家庭事情に興味ねーよ。

 

「やる気無さそうだなおい」


 ボヤく西部にしべだったがこればかりは同意見だった。元3年2組のメンバーもうんうんと頷く。

 一通り今後の予定を話終えると、クラスの人間の自己紹介が始まる。

 このくらいならウチにもクリアは出来る。自己紹介も出来ないコミュ障ではないぞ。


「南中からです。真鍋まなべ信一しんいちです」 


 はい。どーでもいい男その1。

 西部のツレ。おかっぱ頭。眼鏡掛けてて運動神経ゼロ。どーでもいいので覚えなくて良し。小学校の修学旅行でオネショしたくらい、どーでもいいやつ。

 ま、※3ポケ程度の男だな。


「南中っす。梶谷かじたに裕哉ゆうやっす。よろしく」


 はい。次はまゆちんの彼氏確定な男。

 何で西部と仲が良いのか疑問だが、とても常識人でウチにも優しいぞ。

 多分ウチが面倒臭いヤツだと思われてそう。

 う~ん! お前は8ポケの称号をくれてやろう。まゆちんと幼馴染補正プラス1で9ポケだ。うむ!


「俺も南中で~す。木村きむら健司けんじです。おねっしゃ~っす」


 梶谷のツレ。西部にしべ並にバカだがある程度の常識はある模様。でも西部にしべと頭の中が一緒なのでやっぱりバカである。どーでもいい男子その2。授業中にギャルゲーやってる哀れな男。


 はいはい※5ポケ。


「俺も南中っす。西部にしべ康夫やすおっす。絶賛彼女募集中っす! よろしくね!」


 こっち向かなくてグッジョブしなくていいから(ウチを見ているのではなくピンクちゃんにアピールしてるだけだぞ)

 バカだろこいつ。あ~あ。これからまた1年もこいつと付き合わなきゃならんのが遺憾である。しかも何でウチの横なんだよコイツは! 

 ブタでいいよこいつは! 2ポケどころか。7・2オフスートだっつーの!

 

 さてここからだよ。今度は金髪さんの自己紹介だ。


「えっとH県から来ました染谷そめや龍一りゅういちです。よろしく。押忍」


 自己紹介の後で腕を構えるあのポーズ。アレいいなぁ。なんか空手の試合の時にやるヤツだ。まぁ何だかケンカ強そうだし、いあ、絶対強い。

 ガタイもいいし絶対争ってはいけない人間だと思う。

 あと……なんつーか。目が怖いです。染谷そめやくん!

 

 よし。次! 黒髪さわやかくんの番だ。


「N県から来ました。黒澤くろさわれんと言います。よろしくお願いします」


 ほう。黒澤くろさわくんか。れんね。うむ。良い名だ。

 ウチの自作小説にもれんくんというイケメン侯爵がいるんだよ。ふふっ。


 っていうかN県ってクッソ遠くない? その前の染谷そめやくんもH県だし……相当離れてるぞ。

 そんな二人の元所在地を思い浮かべていると、早速染谷そめやくんが後ろを向いて黒澤くろさわくんに喋りかけるのであった。


「N県って遠いね。俺も同じような感じだけどさ」

「うんうん。そう思った。地元が遠すぎて誰も知り合いいなくてさ」


「俺も同じ。ていう訳で黒澤くろさわくん。友達にならない?」

「勿論だよ。すっげーありがたい。よろしくね染谷くん!」


 あれまー。あっという間の友達ゲットな場面を見てしまった。

 自己紹介してから3秒くらいだぞ。あぁ……あんな陽キャ同士ならあっという間に友達がデキちまうんだよな。羨ましいぜ。


 で、次は隣の列の後ろからだな。なのでウチの後ろに座ってるピンクちゃんの番なのだが……

 席の横に立ったのはいいんだけど、プルプル震え出して口元をキュっとしてて、何をしようもしてるのか理解不能だった。


 とりあえず落ち着け。自己紹介しようぜ?


「お~い白竹しらたけ

「んんんんんまままい……」


 白竹しらたけと呼ばれたピンクちゃん。担任も困り出した。だって今にも泣きそうな顔でもあるからな。っていうかヤベー。すげー身体がブルってるぜ。


 何となく感じ取れるのは、もしかして……挨拶が出来ないのではないかという予想。

 あんなに可愛いのに、挨拶すら出来ないの? マジか?

 

 しかも時間が経つ度にプレッシャーが掛かっているのがわかる。ほらもう目ん玉がグルグル回ってるんだけど限界っぽくね?


 そう思った次の瞬間。急に拳を握りしめるピンクちゃんもとい、白竹しらたけさん。

 ブルブル震えながら目を閉じて、力を溜め込んでいるのが分かる。


 溜めてる溜めてる。めっちゃ溜めてるぜ! ピンクちゃんは力を溜めているぅ!

 

 すげー……全身ブルブル震えてるんだが、胸も微妙に揺れてるぞ。

 興奮して吐息が漏れるのはいいのだが「ふにゅ~ふにゅ~」と美少女らしからぬブタっぽい……いあ、何となく見てはいけない錯覚に陥りそうな次の瞬間――


「わたしゅは! 白竹しらたけ美優みゆうといいましゅ! K県から来ましゅた! 白竹しらたけぇ! み。みゅうう~~です! み、みゆう……でしゅ! ふがっ! よろしゅく! よろしゅくおにゃがい! しますっ! ふげっ!」


 そう言い放ったピンクちゃんこと白竹しらたけさん。暫くは彼女の荒い吐息だけが聞こえて来た。

 クラスの視線を一斉に浴びる白竹しらたけさんは座ることも出来ず、変顔のまま固まっているので、その姿があまりにも可哀想に思えたウチは、グっと親指を立てて「大儀であった」と言い放ち賞賛するのだった。


 するとクラスのみんなが一斉に拍手喝采だった。

 白竹しらたけさんもよく頑張った。そりゃ美人だしピンクのロングだし、恵まれた容姿をしてるのはいいんだ。いいんだけど……


 クラスの人間は思っただろう。すっげー美人なのに……

 その自己紹介の間だけは別人だと思うほどブサイク……いあ、もう何も言うまい。

 

 とりあえず、次はウチの番なんだけど。サクっと終わらせるべ。

 ウチは後ろを向き、白竹しらたけさんに「行くぜ」と囁いてから教壇を向く。


「南中・三輪加奈子みわかなこ。とりあえず白竹しらたけさんに悪い虫が付かないように守ります。以上!」 


 女子生徒からは拍手喝采。「何言ってんだ」と言わんばかりな西部にしべには「貴様が女の子と付き合うフラグも全部叩き潰してやる」と指差した。


「やれるもんならやってみやがれ! お前も高校三年間彼氏なんて出来ないと思え!」

「うるせーんだよ三下チンパンジーがぁ! バナナ食ってろ! しゃこなろがぁ~~~!」


 西部にしべと言い合いになったので先生に「こらこら」怒られると、今度はさおりんの番だ。


「南中です。坂田沙織さかたさおりです。知ってる人も知らない人もこれから一年間よ~ろし~く~ね~」


 そこまで言うと、さおりんは後ろの白竹しらたけさんに向かって。


「よろしくやっほ~仲良くしようぜ白竹しらたけちゃん」


 後ろを向いて白竹しらたけさんに手を振るさおりん。な? コミュ力すげーだろ?


 なんつーか白竹しらたけさんはさ、恐らく……ウチらが守ってあげなくてはならない。この超絶美少女をクソな男どもから守らねば! そんな謎めいた使命感を感じるのだよ。なんとなく。

 

 守ってあげたい女子。それだよ!


「南中。米山よねやままゆこ。とりあえず白竹しらたけさんと喋りたい男子はウチらを通す事」


 まゆちんも分かっている。白竹しらたけさんを仲間に引き入れることで、このクラスを色々と支配する事が出来るのだと。既に覇権争いは始まっているのだ。


「こらっお前ら。何勝手に白竹しらたけさんとツルもうとしてんだよ!」


 西部にしべがまた吠えた。と……次の瞬間だった。

 低い声で「てめぇはうるせーんだよ!」と聞こえてくる。

 一瞬誰か分からなかったが、その声の主が分かるとウチは心底ビビってしまった。

 金髪さんこと染谷そめやくんであった。間髪入れずにバシーン! と机の叩く音が聞こえてくるとケツが浮いてしまった。


「まぁまぁ。初日だし……」

 

 その後ろにいる黒澤くろさわくんがフォローを入れると、染谷そめやくんも溜息を吐きながら事なきを得た。当然西部にしべはビビりまくってて、他の生徒も「あいつヤベー」って思ってるに違いない。


 ウチはそのまま西部にしべがボコられるシーンも見たかったけどね。

 だってあいつ人間じゃねーだろ? チンパンジーだしさ、殴られて当然だと思うんだよね。


「次につまんね―こと言ったら殴り掛かってもいいかな?」

「いあ、それはマズいんじゃないかな?」


 笑顔で殴り掛かっていい? とか言い出す染谷そめやくん。それを笑顔で止める黒澤くろさわくん。

 2人ともちょっと怖いよ? クラスのみんながドン引きしてるよ?

 そんな緊迫した空気の中、後ろからボソっと聞こえてくる 


白竹しらたけ美優みゆうでし。よろ……しゅく」


 おっけ~おっけ~白竹しらたけさん! もう自己紹介は終わったぜ? もう大丈夫だぞ!

 するとその声に反応したのは黒澤くんであった。


「よろしくねっ! 白竹しらたけさん!」と笑顔で応えると、染谷そめやくんも同じような笑顔で白竹しらたけさんに挨拶してるじゃねーか。


 おお、黒澤くろさわくん。やるじゃねーか。

 どんよりとした空気を白竹さんの自己紹介を利用して一気に変えやがったか。



 そんなこんなで自己紹介も終わり、高校生活の一日目が終わるのだった。 


 だがウチにはまだまだイベントが残っている。

 そうそう。連れ子がどうたらこうたら。新しい家族に会いに行かねばならぬのだ。



――――――――――――――――


※3ポケ




ポーカーテキサスホールデム用語。ポケットペアの中で下から2番目の強さ。




※9ポケ




ポーカーテキサスホールデム用語。ミドルペアなので普通に強い。




※5ポケ




ポーカーテキサスホールデム用語。ポケットペアの中で下から4番目の強さ。




※7・2オフスート




ポーカーテキサスホールデム用語。7と2の組み合わせ且つマークも別の組み合わせ。ストレートやフラッシュからも遠く数字も弱いのでテキサスホールデムでの一番最弱の手と言われる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る