陰キャで内弁慶なウチが再婚した母親の連れ子と出会って色々人生が変わるお話

@hootare1022

第1話 とりあえず落ち着こうよ三輪さん? ①


 ※


「お母さんね、再婚する事になったの」 

「あっそ。良かったな」


 他愛もない返事をしながらオカンと上天丼を食べていた。今日は久しぶりに豪勢な食事だと思ったのはそういう意味か。スーパーにあるような天丼ではないぜ? だって大きいエビが3つも入ってるもん!


「で、明日に挨拶も兼ねてその人の家に行くから。加奈子かなこも付いて来なさい」

「はぁ? 嘘だろおい! めんどくせ~よ」 

 

 本当に面倒くさい。っていうかお母さん? 明日。ウチ。入学式なんだけど? 

 あなたの一人娘が晴れてJKになる。わりと重要な日なんだけどさ。

 そんな日に重要なイベントを重ねてくるなよ。

 あまりにもウザいのでオカンを睨んでみても、いつも通りのオホホ顔で対抗してくる。


「あんたにも朗報があるわよ。その紹介する人にも、なんと! 加奈子かなこと同じ年の男の子がいるのよ! 更に小学生の弟もいるわよ」


 同じ年の男。だと? 更に弟だって?


 なっ……んだと? これには動揺を隠せなかった。

 そりゃそうだろ? このパターンって漫画にも良くあるヤツじゃねーか!

 そんなこと。マジであり得るの?

 再婚相手の連れ子と良からぬ関係どうたらこうたら……そんな事が頭をよぎると、


「ほら良くあるじゃない? 再婚相手の連れ子と「しゃぁ~~どるぁ!!」


 ご飯粒を撒き散らしながら即座に否定した。

 一瞬でもオカンにウチの脳内を読まれたみたいで腹が立つ!

 

「黙れオカン。いいか? ウチがそんな漫画みてーな展開に持っていけると思うのか?」


 少しばかりニヤケながらオカンに質問すると、こいつ。頬杖をついて考え出した。


「う~ん。どうなんでしょうね? あんたにそんなことが出来るかどうか知らないけど、好きにしなさい」


 オカンは分かってる。ウチの人間スペックを。

 もちろん、男の方とのお付き合いなど今まで皆無。これからも無いであろう。

 身長は140くらい。(本当は139)髪は昔からショート一択!

 顔。そんなに良くない。その辺にいるモブキャラよろしく、目立たない存在。

 性格。クッソ内気だが身内には偉そう。内弁慶という言葉が良く似合う。

 同性ならある程度喋れるが、男子とはマジで喋れねーので無口キャラになるぞ。

 学力。自慢出来ない。今度の高校もかなりヤバかったが何とか合格。

 体力。人並み以下ではあるが、すばしっこい。逃げるのは早い。爆速逃げスキル持ち。

 得意なことは、自作小説を書くこと。あと……ポーカーなど。

 

 そんな残念女子が、漫画みてーに連れ子とウフフな展開に持っていけると思ってるのかぁ! クソがっ!



 ※



 次の日。入学式の朝。

 我が家のインターホンが鳴ると、準備が出来てたウチは玄関を開ける。

 そこには2人の友達が新しい制服に身を包み、笑顔を見せてくれた。

 

「うっ~す! かなっぺ」


 そんな挨拶を「ごくろう」と返す。

 まず一人。さおりん。坂田さかた沙織さおりという幼馴染。

 セミロングよりやや短く、体型はウチより何もかも一回り大きい。ウチが小さすぎるだけで標準体型よりちょっとぽっちゃり目。

 女性の価値を決めつける胸の大きさはウチの倍はあるという……恵まれた身体つき。 

 基本おっとりさんでニコニコしてるが、コミュ力は非常に高いぞ。

 多分モテてるハズだと睨んでいる。ウチが男なら間違いなく狙ってるレベルのお友達。


「今日は起きてるじゃん」

 

 ウチを出来ない人間呼ばわりするのは、米山よねやままゆこ。まゆちんと呼んでいる。

 短いポニテが基本装備。身長が高くて170くらいありそうな勢い。中学の頃から伸び過ぎ。もう伸びない方が良いと思うぞ。それ以上伸びるとヤバい。

 スラっとした体形過ぎて、可哀想だがウチよりも女性の価値が無いと言わざるを得ない洗濯板を常備している悲運の親友。

 だが、こいつには幼馴染で仲が良い男がいるので、わりと将来は安定しているのが悔しい。

 物事をハッキリ言うタイプで好き嫌いが激しいが、友達としてはわりとやり易いぞ。

 ちなみに中学はバスケ部であり体育会系。高校でも継続するらしい。

 

「さぁ皆の衆。参るか」


 言っておくが、この2人の前ではアホなセリフも惜しげなく出せるが、知らない人間や男がいる場面ではキャラが変わるので注意されたし。


 まったく喋れないし、超内気な女の子になるので誤解しないでくれ。

 まぁ、そういう奴ほど裏で何を考えてるか分からない。まさにその通りである。


 普段は大人しく、愛想笑いするふっつ~の女子だが、裏ではチンピラ口調で、異世界の勇者みたいに人生を舐めきってるような言動が多い。だがその実力は始まりの街から一歩も出た事の無いような残念女子である。


 それがウチ。三輪みわ加奈子かなこ 

 通称、かなっぺ。かなぺー。なのである。



 ※


 高校の門を潜り、講堂へと案内されるのはいいのだが……

 新しい学校生活? ウソだろ? 殆ど知ってる生徒じゃねーか? 

 さおりんが事前に教えてくれてたので、分かっていたけども、8割程度の生徒が中学の奴らと一緒だった。 


「あははっ、これじゃ中学と変わんないね。残念ね~」 


 横でボヤくさおりん。でもニコ顔は変わらないぞ。

 彼女には【怒る】という感情は無いと思って欲しい。


「でも、ちょこちょこ知らない子や男子がいるね~。お? 見てみて。あそこ。すっごいイケメンっぽくない? 銀髪だよ銀髪。後ろからでもアレ絶対イケメンだよきっと。オーラ出てるもん」


 みんなが整列する中、コソコソ喋ってくるさおりんにジト目をくれてやっても止まらない。

 まぁさおりんの場合、まだ【男子と付き合えるスペックである】のは間違いないので、興味があるのは当然だ。未来の旦那さんとの出会いが既に始まってるかもしれねーからな。


 ウチ? あるわけねーだろ!

 何を好き好んで男子がウチを選ぶとかあり得ない。男の立場になってみても三輪みわさんとお付き合いしたいとは思えねーもん。身の程を弁えてるつもりである。


 例えばさおりんとウチ。どっちと付き合う? と男子100人に質問してみよう。そんなもん聞く前から分かってるっつーの。三輪みわさん曰く、負ける戦いはしない。やるだけ無駄。考えるだけ無駄。それが現実なのである。


 などと内心自虐しながら、魂が抜けかかった状態で前を向くと校長らしきハゲが喋り出した。新入生に何の意味も無さそうな挨拶をいつまで続けるんだよ。


 その時、見たことがあるよ~な。男子生徒がいた。

 このタイミングで男子現る! そいつがきっとこの物語で重要な位置に立つんだろ? と思った皆さん。残念だがそれはハズレだ。


 っていうか学校にチンパンジーが紛れ込んでますよ~! 誰だよ高校に連れて来たのは!

 するとそのチンパンジーと目が合う。その瞬間「三輪みわぁ!」 とウチを名だしして迫まってくるじゃねーか!


「お前もこの高校なのかよ。最悪ぅ!」

「そっくりそのまま返してやるぜ。このエテ公が!」

「こらこら怒られるよ。かなっぺも西部にしべもストッピング」


 この男。西部にしべとは。ウチを女と認めないほどの失礼なやつだ

 こっちもお前のことは男と思ってねーよ。サルやゴリラみてーなチンパンジーの類だ。

 ったくこいつも一緒なら、完膚なきまでに叩き潰しておかなければならぬ!


 ※

 

 更に1時間ほど経過した。その間に校長らしきハゲ頭や、色んな人間の話が終わり、今度は高校の部活の宣伝など、どーでもいい時間が流れていく。


 部活は無理ゲーだ。何が楽しくて授業の終わった高校に自主的に残らなきゃいかんのだ。などとそういう残念な頭の持ち主なんでよろしくっ!


「ほらいくよ」


 さおりんに引っ張られながら体育館を出ると、今度は自分のクラスへ向かう。

 ちなみにさおりんとまゆちんが一緒のクラスなのは非常にラッキーだ。凄まじくラッキーな展開なのはウチの人生捨てたもんじゃないと思った。だが……


 教室に入ってからウチの顔色が変わると、さおりんまで「えぇ~?」とボヤく始末。

 

「は? 何このクラス。3年2組のメンバーだらけじゃん!」

 

 まゆちんが吠えると、待ってましたと言わんばかりに男子も吠える。


「だはっ! 何だよ。揃いも揃ってお前らもかよ」

 

 そう言い放ったのは一番前の机に座ってる梶谷かじたにという男。

 将来的にはまゆちんと結ばれる男だが、どっちも素直じゃないんだよな。2人を知ってるヤツらではわりと常識だ。

 顔はそこそこ良い。ちなみにこいつもバスケ部だが、まゆちんの方が背が高かったりする。なので梶谷かじたにには頑張って身長を伸ばして欲しいと願う。


「マジかよ……お前が隣なの? ウソだろ!」


 ウチに向かってキレ顔をお見舞いする男がいた。西部にしべである。ちなみに髪を全部後ろに流してるオールバックという変態染みた頭をしてるぞ。

 下の名前は知らん。知る気も無いし、ウチにはいらない情報だ。顔も頭も残念レベルの生涯独身街道確定のチンパンジーだからな。うん。完璧だ。的を得た説明に自分で自分を褒めたくなる。

 そそ、チンパンジーなんだよ。頭も身体も。その存在全てが人間以下なんだよ。やっぱお前はチンパンジーなんだよ。


「あ~あ最悪。何で三輪みわなんだよ! 一番ハズレじゃねーか! おい! 誰か席変わってくれよ!」


 はぁ? チンパンジーのクセにがウチを愚弄するのかぁ! 

 ウチだってすっげーイケメンがイイに決まってるだろが! 基本は男と喋れないウチだが、こいつだけは別だ! チンパンジーだからな。ほら人間じゃねーだろ?


 ポーカーで言う※2ポケだわ。そそ。最弱ってヤツよ。


「黙れ。チンパン野郎が! 早く動物園に帰れよ! シャァ~~~!」

「だぁ~~~! やめっ! うぉっ!」

 

 机を蹴り飛ばすと簡単にコケやがった。弱し! 人間を舐めるなこのエテ男がぁ!

 とにかく! この下等生物にだけは何事にも絶対負けてはならぬ!

  

「あぁ……こりゃ新しい出会いも期待できねぇ」 


 倒れた机を直しながらボソっと呟く西部にしべ。同情の余地なんてありやしない。

 お前には新しい出会いなんざあるわけねぇんだよ!

 とにかくウチは西部にしべというこの男が大嫌いなのだ。

 

「無理無理。あんたに彼女なんて出来ないと思うよ~」


 さおりんがにこやかにウチの気持ちを代弁してくれた。

 西部にしべの残念っぷりは、中学が一緒の奴は皆知ってるからな。基本的に平和主義なさおりんでさえチンパンジーには容赦なかった。


 もしお前に彼女が出来そうになっても、ウチが全力で阻止してやるから安心しろ。

 つまりお前は、三輪みわさんがいる限り、女性と交際することなど叶わぬのじゃ!


 その時だった。急にクラスの視線が教壇へ向くと、そこには……


「え? このクラス?」

「うおっ……やった!」

「うわっあの娘だ…」


 雑魚い男達が揃いも揃って呟いた。


「わぁお~あの子じゃん。ピンクの子。体育館でも目立ってたじゃん」


 さおりんも驚いてる。っていうか、クラスの視線が全部彼女に向けられていた。


 ああ、確かに体育館にいたよな。ピンクに染めてるのか地毛なのか知らないけど、クッソ美人の人生勝ち組確定の美少女だろ? こじんまりとした整ったロリっぽい顔に、フワフワっとした超ロング。さらにはアンバランスなボディ。身長がウチよりもちょっと高いくらいか。それなのに……あの胸のでかさは何だ? 何であんなに大きいんだ? さおりんよりも一回り大きいぜ? メスの遺伝子をこれでもかっ! てくらいガン積みすぎて笑っちまうぜ。


 あぁ……羨ましい。ウチもあんな超絶美人に生まれたかったなぁ(遠い目)。

 この先も人生もきっとイージーモードでさ、なーんにもしなくてもIT企業の社長に見初められて結婚するんだろなぁ。あぁ乙女ゲーに課金し放題じゃねぇか。そそ。ポーカーで言う、ハートとダイヤの※クイーンズってレベルだわこりゃ。


 ん? その子がこっちに向かって来るぞ。席が近いのか? 

 あれ? ウチの後ろが誰も座ってないけどさ、まさか後ろ?


 そのピンクな美少女はウチの後ろにちょこんと座ると、目が合った瞬間……


「よりょしそわく」

「……?」


 今なんつった?


 声が小さくてちょっと聞き取れなかったんだけど……よろしく。って言ったのか? 

 ウチも慌ててしまい「よ、よろしく」と若干挨拶が変になる。


「よ、よよよよしょりょくよりょ~しゅくでる」

 

 ピンクの美少女なのはいいのだが、ちょっと言葉が若干日本語ではなさそうだ。

 しかも喋ってる時、若干ブサイクな顔になるのがウケる。


 いや、若干ではない。

 かなり……ブサイクだ。ウチと同じくらいブサイクになるんだが。

 でも本人は必死に訴えているようなので、何とか返事を返す事に成功した。


 そんな挨拶合戦を繰り広げていると、横からクソみたいな男が口を挟んでくる。


「君、転校生? 俺、西部にしべっていいます! よろしくね」

 

 西部にしべはそう言って、右手を差し出した。

 は? 握手しろって言ってんのか? アホかこいつは!

 ウチは即座にその手を払いのけた。パシーンっていい音が出た。 


西部にしべ~やめときなよ。初対面だし挨拶に握手なんて出来る訳ないじゃん~」


 さおりんがニコニコしながらやれやれと言ったポーズを取ると、西部にしべ以外の男達も同意していた。


「いきなり女に握手迫るとか。セクハラっしょ」

西部にしべは相手にしない方がいいですよ~。おいっやめとめよ!」

「だはっ! さすが西部にしべクオリティ。初っ端から好感度爆下げ乙!」


 男性陣からもクレームが入る西部にしべ。これが平常運転だ。アホすぎんだろ。

 だが彼はそれだけでは引き下がらない。


「ねぇ。もしよかったら俺とラインとかしねぇ? このクラスの人間の殆ど知ってるしさ」

「え? え? ふぅわっ! はぁぐっ!」


 あ~あ。ピンクちゃん完全に引いてるじゃねーか、しかもたまにウチの方に目線を送ってきて「ヘルプヘルプ」って訴えてるようにも見える。


 調子に乗る西部にしべを見てると沸々と怒りが込み上げてくる。

 また机を蹴り上げようか、そう思った瞬間だった。別の方向から男の声がした。


「あの、そこの席。俺の席だと思うんだけど」


 西部にしべの後ろに立ってたのは……見事な金髪な男だった。おお、パツキンだわ。

 ビジュアル的にもイイ線行ってるし、背もかなり高くて……なんかこうガタイが良い?


「お、すまん。なぁ君……良かったらここの前の席と変わってくれねーか?」


 西部にしべはあっけらかんと答えると、その金髪くんの顔が一変したのだ。


「は? 何で前の席に変わらなきゃいけねーんだよ」


 セリフも完全にバトル開始前だし、顔も滅茶苦茶怖い! 怖い! 怖いって!

 これにはウチだけじゃなくて、さゆりんやまゆちん、男子生徒も固まってしまった。


「あ? てめー。入学早々シバかれてーのかよ。コラっ」


 そう聞いた西部にしべが即座に撤退した。おかえりクソ野郎。お前の負けだよ色々と。

 というかあの金髪さん。無茶苦茶こえ~~よ!

 あの目はきっと、何人か闇に葬ってるような、そんなオーラが漂っていたぜ。


 そしてその後、もう一人教室に入って来た男がいた。こっちも男前だった。


 パッと見た感じは当たり障りも無い黒髪で、爽やか風イケメンの部類である。こっちもガタイが良く見えるよな。なんでだろ……周りの人間がひ弱い奴ばっかりだからかもしれない。その爽やか風イケメン男は金髪さんの後ろに座ることになった。


 うむ。正統派だ。こりゃモテるわ。目の保養に持ってこいな感じだ。合格ぅ!

 金髪さんと黒髪くん、そしてピンクちゃん。この三人は地元ではないな。


 とりま1年間だけ。人生を共有しようではないか。

 多分あんまり接点無いと思うけどな。






――――――――――――――――


※2ポケ


 


 ポーカー。テキサスホールデム用語。22という手。ポケットペアの中で最弱。




※クイーンズ




 ポーカー。テキサスホールデム用語。QQクイーンが2枚。3番目に強いとされる手。

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