第24話 冒険者ステータス

 騒動があった翌日、改めて俺とリーシャは冒険者ギルドを訪れた。

 やはり昨日の事があったからか、何か違う。


 混み具合は昨日と殆ど変わらないようだが活気が無いというか、威勢が無いというか……雰囲気がまるで違う。

 昨日の、初めて足を踏み入れた瞬間の一斉に鋭い視線を向けてきたあの勢いはどこへいったのやら。

 皆まるで俺達から視線を逸らすかのように下向いている。


 おそらくはアランが死んだ事でこんな雰囲気になっているのだろうが、正直、あいつの死を悲しむ人間がこの場に居る全員とは思えない。

 意外とアランって人望があったとか?


 とりあえず、受付けカウンターへ向かおうと歩きだすと、


「「「…………」」」


 俺達を避けるように人が寄って、受付けカウンターまでの道が開けていく。

 

 あれ?もしかして俺達嫌われてる?

 確かにアランが死ぬきっかけは俺が作った。イコール俺がアランを殺したと思われてるとか?


 そんな事を考えながら俺達は受付けカウンター前へと辿り着いた。

 すると、


「ようこそ!冒険者ギルド、イグラシア支店へ!」


 という金髪巻き髪の爆乳美人受付嬢の元気ハツラツな声が、このしんとした空気感の中派手に木霊した。


「ギルド登録をお願いしたいのだが」

 

「かしこまりました!では、登録料として銀貨3枚を頂きます!」


 銀貨3枚――日本円にして大体3000円。


 ちなみに、金貨が10000円。銅貨が100円くらいの価値になる。


 俺は二人分の銀貨6枚を受付け嬢へ支払った。


「はい!確かに!」


「それでは御二方のステータスを確認致しますので、そちらの魔道具に手をかざして下さい!まずはエーデルさんからお願いします!!」


 魔道具は手のひらより一回り大きいくらいの箱で、その上面に魔法陣が描かれている。


「こう、で、いいのか?」


 迷いながらも、とりあえず、その箱上面、魔法陣の上だろうと、手をかざす。

 

 すると、魔法陣が紫色に光り、それと同時にその横のガラス張りのモニターらしきところに文字が表示された。


[エーデル]


 魔力 92

 技 100

 腕力 91

 速さ 100

 耐久 97

 精神 100

 知力 100

 魅力 100


【スキル】


・毒耐性+

・熱耐性+

・麻痺耐性+

・加速+

・2段ジャンプ

・空中移動


【ユニークスキル】


・神速剣

・絶対回避

・幻瞳術

・火属性魔法(特級+)

・最強勇者


「「「「うおぉぉぉーーー!!!!すげーー!!!!」」」」


 俺のステータスが表示された瞬間、後ろから雄叫びのような歓声が上がった。

 何かと思い背後を振り向くと、さっきまで俺達を避けるようにしていた冒険者達が背後から俺のステータスを覗き込んでいた。


「アランの奴よりすげーステータスじゃねぇか!!」

「一番低い数値が90って……えっ?……アランって90を超えたステータスあったっけ?」

「ねぇよ!あいつの一番高い数値でも確か75だったはずだ」

「ステータスもすげーけどよ!ユニークスキル4個って……ヤバくない?」

「アランの奴でさえ、エクストラスキルを2個持ってたくらいだったのに。ユニークスキル持ちなんて初めて見た」

「……てか、ってさ……しかも名前までエーデルって、まさかとは思うけど……」


 どうやら俺のステータスが相当凄かったらしく、盛り上がっているらしい。さっきまでの辛気臭い雰囲気は吹っ飛び、一気にギルドの中が活気付く。

 ただ一人、俺の正体に気付きそうな奴がいるが……まぁ、それはいいとして……

 

「あの、これって一体何?」


 賑わう彼等を指差しながら受付け嬢へ聞いてみた。


「エーデルさんのステータスが凄過ぎてびっくりしてるんですよ」

 

「いや、それはなんとなく分かる。……そうじゃなくて、アランが殺されるきっかけを作った俺は、皆んなから嫌われてたんじゃなかったのか?」


「とんでもない!今更亡くなった人を悪く言うのもなんですが、アランさんこそが大の嫌われ者なんですよ。むしろ彼等はエーデルさんへ感謝してるんです。ただ、あのアランさんを一瞬にして戦闘不能にしてしまったエーデルさんのあまりの強さに彼等はビビっちゃって、それでさっきみたいな変な空気感が漂ってたんですよ!エーデルさん達が来る直前まで皆んなエーデルさんが一体どれくらい強いのかの話題で盛り上がってたんですから!」


「え?そうだったんですか?」


 俺自身が嫌われていたというわけではなかったと知り、少しホッとする。

 その俺の心が分かってかリーシャは、


「嫌われてなくて良かったですね」


 と、微笑みなが言ってきた。


「あぁ、そうだな」

 

「では、次はリーシャさんお願いします」


 受付け嬢が今度はリーシャへステータス鑑定の魔道具へ手をかざすよう促す。


「おい!次はあの美少女らしいぞ!」

「杖を持ってるから魔法使いなんだろうけど、どんなステータスしてるんだろな」

「あの男も強かったんだ!きっとあの子も強いぞ!!」

「そうだな!そうに違いない!!」

「……それにしても可愛いよ……。あんな可愛い子連れてるあいつが死ぬ程羨ましいんだが……」

「分かる。めちゃくちゃ可愛いよな、あの子。見ただけで恋してしまいそうだ」


 どうやら、リーシャも俺と同じくらいのステータスを期待しているようで、ハードルが高くなっている。そして、やはりリーシャの可愛いさについて語るやつも多いみたいだ。


「うぅ〜……」


 それらの声は当然リーシャの耳にも入っているようで、魔道具の手前で手をグーにしたまま手のひらを開かない。

 かざす事を躊躇しているようだ。


 当然だ。期待されるようなステータスはきっと無いのだから。そして、その事はリーシャ本人も理解している。


 少しの間を置き、リーシャはようやく「えい!」と勢いに任せて手のひらをかざした。


[リーシャ]



 魔力 38

 技 3

 速さ 4

 耐久 2

 精神 3

 知力 3

 魅力 測定不能

 

【ユニークスキル】


・絶世の美少女

・魔王


「「「「――え……?」」」」


 リーシャのステータスが表示された瞬間、ギルド内がざわつく。


「……あれ?弱くない?」

「……うん。弱いな。俺よりも弱い……めちゃくちゃ弱い」

「でも、ユニークスキル2個持ってる……〝絶世の美少女〟って、それスキルなんだ」

「……まぁでも、可愛いよな」

「……うん。可愛い……めちゃくちゃ可愛い。ユニークスキル〝絶世の美少女〟も納得するくらい可愛い」

「てゆーか、魅力値が〝測定不能〟って、どうゆう事?」

「ユニークスキル〝魔王〟って何なんだろ?」


 とにかく、意味不明という感想らしいが、俺もまったく同じ感想だ。

 リーシャは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。

 

「う〜ん。おかしな……」


 受付け嬢が『魅力 測定不能』の箇所を見ながら首を傾げている。


「ちょっと待って下さいね」


「はい……」


 受け付け嬢は奥の部屋の方へと行ってしまった。


 しばらくして帰ってきた受け付け嬢の手には似たような形の魔道具が。

 おそらくこれもステータス鑑定の魔道具と思われる。


「これは魅力値専用の鑑定魔道具です。これで見てみましょう!それではリーシャさん、さっきと同じ要領で手をかざして下さい」


「はい……」


 測定中………………完了。


 魅力――358。


「「「「――358!!!???」」」」


「……ま、まぁ、それだけの魅力はあるのかもな……こんな可愛い子、滅多に見ないし」

「いやいや、『滅多に見ない』どころか、『見たことない』だろ」


 とりあえず、リーシャの美少女っぷりは規格外だという事が、まさかステータス鑑定から証明されるとは……。


 いやはや、これで〝魔王〟だって言うんだから、つくづくわけがわからん。


 こうして色々ありつつも、無事に何とか冒険者として登録を済ませたのだった。

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