第25話 〝雌〟の眼差し

・パーティー名……ハピネス

・パーティーメンバー……エーデル、リーシャ。

・パーティーランク……Fランク。

・冒険者ランク……エーデル(Sランク)、リーシャ(Fランク)

 

 以上の内容で登録を済ませた。

 ちなみに、パーティーランクは最初は無条件で最低ランクのFランクから始まるのに対して、冒険者ランクはその者のステータスがそのまま反映されるらしく、なので俺は新人冒険者でありながら最上ランクの〝S〟が付いている。

 そしてリーシャはもちろんFランクだ。どうやらリーシャのユニークスキル〝絶世の美少女〟、〝魔王〟は冒険者ランクに加味されなかったらしい。


 早速クエストを受注しようという事になった俺とリーシャは今、掲示板の前にて並ぶクエスト内容を吟味しているところだ。


「勇者君。これなんかいいんじゃないですかね?」


「ん?どれどれ」


 リーシャが指差すクエスト内容を確認する。


【D級クエスト】


・クエスト内容――ゴブリン(5体)の討伐。

・場所――ドゥラグ村にある洞窟。

・報酬――ゴブリン一体討伐につき銀貨5枚。全て討伐した場合は金貨3枚。

・依頼主ドゥラグ村村長。


 といった内容だ。


 ルール的に、パーティーランクより2ランク上まで受注可能らしいので、このクエストは受注可能だ。


「……まぁ。初クエストとしては手頃なラインなんじゃないか?」


 現段階で受注できる最高難易度ではあるが、ゆうて俺はS級冒険者。

 実質的にはFランクパーティーの実力ではない。

 このDランククエストも難なくクリアすると思われる。


「ゴブリンくらいならさすがの私でもやっつけられますよね!?」


 リーシャはそう言ってかっこよく杖を構えてみせるが生憎あいにく俺の見立てではリーシャの戦闘能力ではゴブリン5体は厳しいとみている。




 ◎●◎




 ――ドゥラグ村洞窟――


「きゃーーっ!!!」


 案の定、5体のゴブリンに追いかけ回されるリーシャ。


 両手を突き出し、涎を垂らしながら追うゴブリンと、涙目になりながら必死に逃げ惑うリーシャ(魔王)

 女好きで有名なゴブリンの事だと、こうなる事は始めから予想出来ていた。


 まったく、と呆れた溜息を吐くと、剣を抜いてゴブリン達の前に出る。


 ゴブリン達は邪魔するなと言わんばかりの形相で飛び掛かってくるが、


「――――」


 一瞬にして5体全てのゴブリンを斬り伏せた。


「……勇者君……。あ、ありがとう、ございます」


 剣を仕舞う俺の背後から息を切らせたリーシャが安堵の表情で歩み寄ってきた。


「まったく、ここへ来る前はゴブリンくらいなら余裕です、みたいな事言ってたくせにな?」


「……面目ないです」


「これに懲りたなら、今後から戦闘は全て俺に任せろ。旅の費用の事も気にするな」


「はい……すいません……」


 しょんぼりと俯いたリーシャを横目に、俺は討伐したゴブリンの頭を回収すると、


「よし、帰るぞ」


「はい……」


 クエスト達成を報告する為、冒険者ギルドへと戻る。




 ◎●◎




「ゴブリン5体の討伐……はい。確かに。では、こちら報酬の金貨3枚になります。お確かめ下さい」


「あぁ。ありがとう」


 報酬を受け取り、冒険者ギルドを出る。


「私ってば、勇者君に助けられてばっかり。なのに私は勇者君へ何も恩返しできてない……」


 リーシャは今もまだ落ち込んだように俯き、そんな事を呟く。


「そんなに思い詰めるな。俺はなんだかんだでこの旅を結構気に入っているし、リーシャにはその……」


 ここまで言いかけて、口を閉ざす。この先を口にするのが照れ臭かったのだ。


 しかし、そんな俺へ疑問顔を貼り付けたリーシャが、言いかけたその先を強要してくる。


「ん?何ですか?それと、顔。すっごく赤いですよ?」


 観念した俺は、胸に秘めた想いを口にする。


「……つまり、リーシャにはずっと俺の側に居て欲しいんだ。だから、俺に遠慮なんてするな。それが言いたかっただけだ」


「勇者君……」


 俺の本音に対して顔を真っ赤に染めながらも、真っ直ぐに俺の目を見つめるリーシャ。


 そんな真っ直ぐな眼差しに俺も真っ直ぐに見つめて応える。


 無言で見つめ合い、何とも言い難い空気が流れる中、耐えきれず先に声を出したのは俺の方だった。


「……よし。じゃあ、行くか」


「はい……」


 そう端的に落ち着いた様子で返事をしたリーシャだが、俺はその瞬間、リーシャの目を見て思わずゾっとした。


 まさに〝女〟としての――否。もやは〝雌〟と評した方がしっくりくるかもしれない。


 その瞳の奥には、リーシャの奥に秘めた〝雌〟としての本能が目覚めたかのような欲望の炎と深い情熱を宿し、艶めかしくも猟奇的な、そんなリーシャの目を見た。

 

 これまでのリーシャのイメージとはまったく違った、まるで別人かのような雌の眼差しを最後に視線を切られ、俺達は旅に向け歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る