第20話 遠慮がちなリーシャ

 ――翌朝。

 

 宿屋を出てすぐ、俺はリーシャへこう切り出した。


「俺達の装備はあまりに貧弱だ」


 ここで言う〝装備〟とは戦闘におけるものではなく、旅における装備の事を指す。


「そうですよね。私達ってば、ほぼ手ぶらですもんね。これから年単位の長旅に出る者の装備とはとても思えません」


 王都を出てまだ3日目。


「ここまでは俺の実家や宿屋を経由してきたが、これからは野営も余儀なくされるだろう。そして、この街を出ればしばらくは山岳地帯を徒歩で行く事になる。つまり、野営が出来るような装備をこの街で整える必要があるわけだ」


「なるほど!」


 というわけで、買い物だ。


 ――簡易テント、釣り竿、毛布、ランタン、等々……出来るだけ必要最低限に留めておく。


 そして、特大リュックにそれらを詰め込んで、


「よし!これで準備完了だ!!」


「結構な荷物になっちゃいましたね」


「いや、むしろ一つに収まってくれて良かった。じゃあ、準備も出来たし、出発するか!」


 そう言って纏めた荷物を背負い(背負っていた剣は腰に携えた)、歩き出したところへ背後からリーシャが声を掛けてきた。

 

「勇者君!」


「ん?」


「あの、実は私、行きたい所があるんですが……」


 どこか申し訳無さそうに俺の顔色を窺いながら言うリーシャ。


「別に先を急いでいるわけじゃないし、いいぞ。行くか?」


「いいんですか?」


 リーシャはパッと表情を明るした。その様子を見て俺は思うところがあり、それをリーシャへ伝える。


「あのな。リーシャは俺に遠慮しすぎだ。この旅において俺達の関係性に上も下も無いんだ。昨夜みたいに、腹が減ったら『減った』と言えばいいし、そもそも宿に入る前に言えば良かったんだ。」


「……うぅ……そうなんですけど」


 そこを言われると辛い、といったような表情をするリーシャだが、俺の言う事にどこか納得いっていないようにも見える。

 

 何がそこまでリーシャに遠慮させているのか理解に苦しむが、その答えはリーシャが言うその行き先にあった。


「ここは……!!」


「はい!冒険者ギルドです!」


「リーシャは冒険者になりたいのか?」


「冒険者になりたい……と言うよりも、私、自分でもお金を稼げるようになりたいんです」


 なるほどな。そういう事か。

 リーシャが何故俺に遠慮するのか分かった気がする。


「つまり、リーシャは旅の費用を全て俺が出していると思っていて、それを引け目に感じているわけだな?だから自分が言いたい主張も俺の顔色を窺いながらで、なかなか言い出せずに我慢する」


 そして、その我慢が募り募っていつか怒り出すのだ。昨夜のように。


「…………」


 どうやら俺の推察通りだったようでリーシャは顔を顰めた。


「何も気にする事なんてないんだけどな。言っておくが、俺の所持金のほとんどは魔王討伐による報奨金だ。しかし実際には俺は魔王を討伐していないし、考えようによっては、その報奨金は〝魔王〟の存在があってこそ存在しているとも言える。つまり、この報奨金は〝魔王〟であるリーシャにも充てられて然るべきだと思うんだが……」


 気に病まないで欲しい一心で言った事だが、途中、自分で何を言ってるのか、わけが分からなくなってきた。

 

「その、無理矢理にでも話をこじつけて私に気を使わせてないようにするところ。本当、勇者君らしい優しい言葉ですね。でもさすがにそのこじつけ方は苦しくないですか?」


 そう言ってリーシャは困った奴を見るような微笑みを浮かべた。


「はぁ……じゃあ、もう分かったよ。それでリーシャが気に病まなくなるなら今から冒険者ギルドへ登録しよう」


 受け取った報奨金だが、実はそこまで多くなかったのだ。ゆえに旅の途中、いつかは底を尽くだろうと予想していたので金を作る手段は必要だと考えていた。


 てかさ、そもそもだけど、魔王討伐の報奨金が数年分の旅の費用にも満たないなんて有り得る?

 文字通り世界を救った英雄に贈るにはさすがに少な過ぎでしょ!?普通、そこまでの大偉業を成し遂げたのなら一生遊んで暮らせるくらいの額が貰えて当然じゃね?……まぁ、でもさ。実際には討伐なんてしてないから貰えるだけ有り難いと思うべきなんだけどね。


「――はい!」

 

 ……そして、今まさに目の前で満面の笑みを浮かべるコレが魔王だ。


 つくづく今のこの境遇……意味が分からん!


 そんな事を思いながら俺達はギルド内へと入って行くのだった。


―――――――――――――――――――

作者より


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