第15話 リーシャの想い
【リーシャ視点】
ひょんな事から始まった、
正直、今がこれまで生きてきた中で一番楽しいと思える。
私ってこんなにも笑えるんだって初めて知った。
ひょっとして――コレが〝幸せ〟というものなのかな?
◎●◎
私にとって〝勇者〟とは恐怖対象以外の何物でもなかった。
ひっきりなしにやってくる討伐隊に、50年置きにやってくる勇者。
特に勇者が来た時はなんかは、今日こそ討伐されてしまうのでは?と、身に迫る死の恐怖からガタガタと震えた。
――でも覚悟はしていた。
いくらあの、剣猛ベテルギウスが強いとはいえ、いつかは勇者によって倒され、そしてその時こそ私が――魔王リーシャが討伐される時なのだろうと。
そしてやはりというべきか、剣猛ベテルギウスは時の勇者によって倒され、とうとう最上階の私のもとへ勇者がやって来た。
その姿を目にした時、私は驚愕した。
なんと、無傷だったのだ。
あのベテルギウスを無傷のまま倒し、さらには息を切らす事なく涼しげな表情をしたその姿は紛れもなく〝人族最強〟を証明していた。
だが、その勇者は一度は私の首元へ刃を向けたものの、その先、殺すまでには至らなかった。
理由は、あまりにも私の戦闘力が無い事から、私の事を魔王と見なさなかったようだった。
しかし、こんな私でも、ちっぽけながらも〝魔王〟としての誇りは持っているつもりだった。
それに、死への恐怖はあれど、死ぬ覚悟も出来ていた。
勇者の誤解に乗っかり、生きながらえるくらいなら死んだ方がマシだと、私は大胆な行動にでた。
私が魔王である証拠――胸にある〝魔王石〟を見せる為に、私は勇者の目の前で服を脱いだ。
羞恥心はあったが、死ぬ覚悟を決めていた私にとって、そんな羞恥心は些細な事に感じられた。
それにそもそも勇者である彼が、魔族であり、さらには人族が最も疎む存在である
結果、勇者は私が魔王である事を理解した。
が、それでも勇者は私の命を奪う事を拒んだ。
勇者は表面的には魔王を討伐した事にするからと、私には好きに生きろと、言ってきた。
結局私は魔王でありながら勇者に助けられ、この時点で私の魔王としてのプライドは崩壊。
ならば恥ついでにこの際この勇者の弟子となり、私に無い〝力〟を得ようと考えた。
私は駄目で元々と、その旨を勇者へ伝えると存外あっさりと弟子にしてくれた。
もしも私が強ければ、魔界を追放される事は無かったと思う。
強くなれば〝力〟でゼローグから魔界の実権を取り返せるかもしれない。
しかし、それは言うまでもなく容易い事では無い。
とはいえ、私は魔王だ――〝真の魔王〟は私。
要はきっかけが必要だと思っている。
私の中に眠るであろう、〝魔王〟としての凄まじい程の才能。それを開花させる為の弟子入りのつもりだった。
が、しかし――
◎●◎
「才能? 無いよ?全く。これっぽっちも――」
「はい?――またまた勇者君ったら、冗談ばっかし」
そんなの絶対、
「――嘘ですよね?」
「嘘じゃない。本当だ。リーシャ、お前に魔法の才能は無い――皆無だ」
――ガーン!!
あのゴロツキ2人組との一件を経た直後、私と勇者君は乗り合い馬車の停留所へと向かっていた。
その道中、私の魔法の才能について聞いてみたらコレだ。
「じゃあ、いくら修行しても私がゼローグに太刀打ちできるようになる可能性は……」
「限りなくゼロに近いだろうな。でも心配するな。ゼローグは俺が倒す」
「でも勇者君。ゼローグが居るのは魔界の最奥です。私が力になり得ないのなら、ゼローグに挑むのは実質勇者君一人ですよ?結界の内側、つまり魔界に一歩踏み入れた瞬間から他勢に無勢です。ゼローグのもとまで辿り着くのさえ困難かと思います。それにそもそも結界はどうするつもりなんですか?」
魔界を取り囲む強力な結界。
そのせいでこれまで人族で誰一人として魔界へ足を踏み入れた者はいない。
人族が結界を越える方法はただ一つ。〝結界の管理者〟に話をつけるしかない。
「結界?それはお前が何とかしてくれるんだろ?魔王なんだし」
勇者君はさも当たり前のようにそう言ったが……うん。実はその通りで、知ってか知らずか、勇者君は結界の解決策としてこれ以上ない程の的を得た主張をした。
「ふふ。さすが勇者君ですね!そうです。実は私は魔王であると同時に〝結界の管理者〟でもあるのです。ゆえに、魔界を取り囲む結界について
「何?そうなのか?じゃあ、結界を消す事も?」
結界を消す事。
それはこの大戦を人族側の勝利として終結させる事を意味する。つまり、結界の消滅は人族側が熱望する事象なのだ。
「いいえ。私の意であの結界を消す事は不可能です。ただ、私が死ぬ事で結界を消す事ができます」
実は魔界は人界に比べて比にならないほどに小さく、そして人口も少ない。
規模で大きく劣る魔界が人界と拮抗して戦えるのはまさに結界の利があってこそ。
つまり、私の命次第でこの大戦に終止符が打てるのだ。
「…………」
勇者君は今何を思っているのだろうか?
言葉が返って来ない。
「――勇者君、私を殺しますか?」
「まぁ、そうだな。ここまで重要な役割を担っていたのであれば、俺は人族の勇者として、その務めを果たす為、お前を殺さなきゃならない」
この瞬間、私は思ってしまった。
この人に殺されるならいいかな、って。
私を殺す事で勇者君は本当の意味で〝魔王を討伐した勇者〟となれる。
この戦争は人族の勝利として幕を閉じ、その一番の功労者として勇者君は伝説の勇者として未来永劫語り継がれるだろう。
ならば、私は喜んでこの命を捧げよう。
ただ、唯一の懸念――私が死ねばこの大戦に魔族は敗れ、魔界が無くなる事は必至。
でももし、生き残った魔族達の命が保障された上で大戦に終止符が打てるのであれば、結界を消して敗戦を呼び込む事はむしろ良策とも思える。
とはいえ、だ。これは戦争だ。負けた種族が根絶やしにされる事も充分にあり得る。むしろそう考える方が自然だろう。
だから、私は命の確約を取る。
勇者君なら必ず私の願いを聞いてくれるはずだ。
さすれば、私は心置きなく死ぬ事ができる。平和の為に、そして勇者君の為に。
「分かりました。ただ、前にもお願いした事ですが、魔族との共存を模索する事、それだけはよろしくお願いします。……じゃあ、せめて人気の無い所で――」
――そこで私を殺して下さい、と続けるつもりだった。しかし、勇者君の言葉がそれを遮った。
「――馬鹿。勝手に話を進めるな! 今の俺にはお前を殺す事はできない。勇者がどうとか、戦争がどうとか、どうでもいい。とにかく俺はお前と旅がしたい。その為に俺は今、お前の隣りにいる。殺すどころか守ってやるよ。この命に変えてでもお前は死なせない!死なせてたまるか!」
「……勇者君」
あぁ……生きたい。今、心からそう思う。
生きて、この人の隣りにずっと居たい。
この人が生きている限りは私も生きたい。
――ずっと一緒に居たい。
「馬鹿。泣く事があるか!」
涙を拭いていつものように笑顔を作る。
「ねぇ、勇者君!今の言葉もう一回言って?」
「…………」
「あぁ!また照れてますね?」
「……うるさい」
本当、私は今幸せだ。
―――――――――――――――――――
作者より
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