第12話 まるで〝アイドル〟なリーシャ

 草原を抜け、俺とリーシャは王都の街並みに足を踏み入れた。


 すると、その瞬間――


「「「――勇者様!!」」」


 道行く人々が俺とリーシャの存在に気付くとすぐさま周りを人々が取り囲んだ。


 何せ、魔王を討伐した勇者とその弟子。正確には勇者弟子魔王だけど。


 まぁ、こうなるわなぁ……と、今更ながら思う。


「きゃー、勇者様ステキ!」

「おい、見ろ!あれが噂のリーシャちゃんか!可愛い過ぎるぜ!!やっぱ勇者様とデキてんのかな?」

「俺もリーシャちゃんみたいな連れて歩きたいなぁ〜」

「きゃーっ!!リーシャちゃん可愛い〜」

「クソッ!!羨まし過ぎる……俺もリーシャちゃんみたいなぁ〜……」


 って、オイ!!

 内容はリーシャの容姿に関するものばかりじゃねーか。

 そして、男共は俺の事を羨ましそうに睨むばかり。


 一応、勇者だからね?俺。

 魔王討伐したんだからね?(嘘だけど)

 睨むより感謝して?

 まぁ、羨む気持ちは分かるけど。痛い程にね。俺も生前はそんな目でリア充共を睨んでた。


 俺が忌々しく視線を散らす一方で、隣りのリーシャはというと、それら歓声に無邪気な可愛い笑顔を返している。

 すると当然、歓声は爆発的に増し、歓声というより発狂してる感じだな。もちろんそのほとんどは男。


 まるでアイドルだな……。


 でも分かるよ。

 何せリーシャのこの〝可愛さ〟は異常だ。

 顔も性格も笑顔も雰囲気も全てが可愛過ぎるんだから。

 そりゃみんなとりこになるのもわかる。俺もそうだし。


 にしても、この状況はさすがにまずい。何も出来ない。

 人集りはどんどん増えていく。


 ――仕方ないな。こんな注目の中魔法なんて使いたくなかったのだが……《不可視の霧ブラックカーテン》!!


「「「――!!!?」」」


「あれ?勇者様の姿が消えた!?」

「どうした?どこへ消えた!?」

「勇者様ぁ〜!?」

「あれ?これってもしかして魔法かな?」

「魔法?え?何?勇者様、今魔法使ったの!?」

「えー!!すごーい!!」


 その通り。

 俺は今、己の姿を魔法で消した。

 

「――あれ?勇者君!?」


 リーシャも遅れてその事に気付き、キョロキョロと辺りを見渡し俺の事を探している。

 そんなリーシャの手を取ると俺は、


「よし!逃げるぞ!走れ!」

「――えっ!?」


 そう言って走り出した。


「「「きゃー!!逃げないで勇者様ーーっ!!」」」

「「「俺のリーシャちゃーーん!!行かないでくれ〜!!」」」


 同時にギャラリーも俺達を追って一斉に走り出した。


(マジかよっ!!)


 俺に引っ張られ、走るリーシャが見えない俺へ向かって話しかけてきた。


「――勇者君!?そこにいるんですか!?」


「あぁ!魔法で姿を消したんだ!いいから走れ!」


「――わ、わかりましたっ!!」




 ◎●◎




「よし、なんとか撒いたな」


「……は、はい……そ、そうですね……はぁ、はぁ……」


 路地裏に逃げ込み、物陰に隠れたところでどうにかギャラリーを撒く事に成功。

 リーシャは膝に手をつき、息を切らしている。


「大丈夫か?」


「はい……」


 しかし、迂闊だった……。

 分かっちゃいたが、まさかここまでとは思わなかった。


「俺は暫く魔法これで姿を消す」


「私は?」


「うーん……そうだな。じゃあコレでどうだ?」


 そう言って俺はリーシャの背の方へ下されたフードを目深気味に被せた。

 

 ――おぉ、この姿。 まさに魔王城での初対面の時を思い出す。


「あ、そうですね!これで行きましょう!」


 こうして俺は姿を消し、リーシャは顔を隠し、その状態で表通りへと出た。


 ――よし!

 道行く人々は誰も俺達に気付いていないようだ。


「いい感じですね!」


「まぁ、そうだな。ただ、あまりデカい声で話すなよ?はたから見ればお前は独りだ。それを普通に俺と話していれば、独り言をぶつぶつ言う顔を隠した怪しい女にしか見えなくなる」


「――ひどい!!そんな言い方しなくてもいいじゃないですか!!」


「だから、声がでけぇーよ。バレるだろ」


「はい。すいません」


 その後も小声でやり取りをしながら王都の中を歩いていると、前方から筋肉質なゴロツキが2人、デカい声で話しながら歩いて来た。

 そして、その話の内容というのが……


「そう言えば魔王の奴とうとう討伐されちまったらしいな!」

「あぁ!知ってるぜ!なんでもエーデルとかいう史上最強の勇者?なんて、大層な呼ばれ方をした奴がやったらしいぜ?」

「おぉ。しかし、あの程度の奴に倒されるんなら、魔王も実は大した事無かったんじゃねーの?」

「〝あの程度〟って事は、会った事あんのか?そのエーデルとかいう勇者とよ?」

「あぁ。遠目で見ただけだがな。〝史上最強の勇者〟なんて呼ばれ方する割には全然大した事なさそうで逆にビビったぜ!」


 といったとても馬鹿馬鹿しい内容。


 どう見ても雑魚の戯言。

 俺は特に気にも留めなかったのだが、隣りのリーシャはそうもいかなったようで……。


「あなた達は勇者を相手取った事があるのですか!?」


「あぁん!?んだテメェは!!」


 リーシャがそのゴロツキ2人組の前に立ちはだかった。


―――――――――――――――――――

作者より


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