第10話 リーシャの揶揄い
「いいんですか?本当に……」
ひとしきり泣き終え、目を赤くしたリーシャが申し訳さそうに聞いてきた。
「あぁ。ゼローグを倒さない限りこの戦いは終わらないなら、俺はまだ勇者としての責務は果たせていない。それに、弟子のお前をここまで泣かせたゼローグの罪は重い。それなりの裁きを与えてやらないと俺の気が済まない」
「え?私の為、ですか?」
ポカンとした驚きの表情でリーシャが聞いてきた。
俺は照れた顔を隠すように視線を逸らしそっぽを向き、「……まぁ、それもある」と返した。
すると、逸らした俺の視界の中にひょこっと可愛らしい笑みを浮かべたリーシャが入り込んできた。
「勇者君のその気持ちがすごく、すごーく、嬉しいです!ありがとうございます!」
――ダメだ。可愛過ぎて直視できない。
「あ、あぁ……」
歯切れ悪く相槌を打ちながら俺はそこからさらに視線をリーシャから逸らす、が――
「もう、逃げないで下さい!」
「――――っ!」
リーシャが再び体を移動して俺の視界へ入ってくる。
ニコニコと満面の笑みを浮かべて。
「顔、すっごく赤いですよ?照れてるんですか?」
「――うるさい!揶揄うなと言ったろ!?」
再度視線を逸らす――が、
――ひょこ
と、またしても笑顔のリーシャが視界に入り込む。
「魔族の私にここまで照れるなんて、勇者君って意外とチョロいんですね?」
「馬鹿ッ!やめろ!」
惚れてまうやろ!!否、もう惚れてしまっている……。
俺は逃げるようにして体を反転、リーシャへ背を向ける。
「あらら……。さっきまでのかっこいい台詞はどこへやらですね。にしても、シャイにも程がありますよ勇者君。これじゃあ、すぐに悪い女に引っ掛かっちゃいますね……。あ、そうだ!これからは私が勇者君に近寄ってくる悪い女から勇者君の事を守ってあげますよ!」
一体何を言ってるんだ?真意が分からない。
「そもそも何で、俺に近付く女が皆〝悪い女〟前提なんだよ」
「勇者君に近付くのはみんな悪い女です!そうに決まってるんですから、そこは私に任せて下さい!」
何?どう言う意味だ?
もしかして、俺を独占したい……って事なのか?
――いやいや、待て待て!早まるな!俺!
まさにこれこそが
前世をほぼ女子と触れ合う事無く生きてきた俺は、他人よりも相当勘違いしやすいはずだ。
ちょっと話し掛けられただけで「もしかして、俺の事好きなのかな?」なんて考え始めるのが童貞の性というもの。
きっとリーシャからすれば何でもないコミュニケーションの一貫のはずだ。――だから俺!!いちいち胸を高鳴らせるな!
俺はリーシャに背を向けたまま口を開いた。
「分かったから……もう、いいだろ?頼むからこれ以上俺を揶揄わないでくれ」
マジで、どうしようもなく好きになってしまいそうだから……だから本当にやめてくれ。
「……ごめんなさい。私、また調子に乗ってしまって……嫌ですよね。こんな可愛げのない弟子は。……じゃあ、私そろそろ部屋へ戻りますね。おやすみなさい」
さっきまでの無邪気にはしゃぐ声とは打って変わり、沈んだ声だ。
思わず、
俺は背を向けたまま慌てて声を出したが、
「本当は嫌じゃないんだ。ただ……本当に慣れてなくて……その、どう反応していいか分からないんだ……ごめんな?」
返事が無い。
もう自分の部屋へ帰った後だったか……。そう思ったその時だった――
「――っ!!」
背後からの抱擁に驚き、俺の体は硬直した。
「……勇者ともあろう御方が、まさか女に不慣れとあっては格好がつかないでしょう。私は魔族ですが、これでも一応女の身です。なので、私の事は女に慣れる上での練習台だと思って気軽に接して下さい。……そうですね……もしも、勇者君が望むのであれば、その時にはこの身体ごと練習台として使って下さい。これが私から勇者君へできる精一杯のお礼です……では、おやすみなさい」
この言葉を最後にリーシャは俺の体から離れ、部屋から出ていったのだった。
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作者より
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