第2話 魔王城攻略
戦況は上々だ。
いくら人格がアレでも、やはり〝歴代最強の勇者〟の力は伊達じゃなかった。
1階層はデカい犬みたいな魔獣で、2階層はコウモリみたいな羽根を生やした、宙を舞う事のできる悪魔みたいな奴だった。
いずれも問題無く踏破し、これから3階層に入るところだ。
しかし、ここで切実な悩みというか、実際に戦ってみて気付いた事がある。
それは俺以外の戦闘員、つまりは〝討伐隊〟が邪魔だという事だ。
正直、討伐隊の援護は大した助けになっていない。
そうなってくると、ただの足手纏いなだけである。
ここまでは犠牲者を一人も出さずに来れたが、今後はそうもいかないだろう。
「ここから先は俺一人で行く」
「いや、しかし、勇者殿……」
「悪いが、足手纏いだ。気が付かないか?これまで俺が魔族の攻撃からお前達を守りながら戦っていたのを」
「そんな……。しかし、勇者殿。そういう事でしたら我々の事はお気になさらずとも結構です。ここにいる者達は元より決死の覚悟でいますゆえ――」
俺とは違い、見上げた覚悟を持っているようだが、事実邪魔だ。
俺は食い下がる討伐隊隊長に対して語気を強める。
「いいから退け!!事実、お前達がいるからと使える魔法も制限しているんだ!!」
必要と思えるような戦力ならまだしも、そうでないとなれば素直に退いて欲しい。命は大事だ。勢い余って進んで死に行くような真似を放っておくわけにはいかない。
「……しょ、承知致しました。 では、勇者殿、どうかご武運を!」
「あぁ」
討伐隊が退いていくのを見届けると、俺は一人3階層へ上がって行く。
さて、3階層を守る魔族だが、如何にも邪悪そうな魔法使いだった。
確かに1、2階層の敵よりも数段強く思えたが、討伐隊が居なくなり、周囲へ対する憂いが無くなった俺の敵ではなかった。
――3階層も難なく踏破。
次がいよいよ鬼門とされる4階層目である。
――めちゃくちゃデカい!
第一印象はこれだった。
体長は10メートル程か。
全身に鎧を纏い、手にはこれまたデカい剣を持っている。
めっちゃデカい巨人だ。
――剣猛ベテルギウス。歴代の勇者達はコレに
「が、俺は
さっきまでの弱気はどこへやら。
実戦を通じてエーデルのその〝最強〟っぷりを実感した俺(加藤謙也)は今やすっかり強気モードだ。
俺は剣を構えた。
そして俺の存在に気付いたベテルギウスは早速俺を目掛けて大剣を振ってくる。
――ブゥン!!
だが俺はそれを難なく
《
しかし、ベテルギウスを覆う鎧の前にそれは霧散してしまった。
「まぁ、この程度の初級魔法じゃそうなるわな――」
じゃあコレはどうだ?中級魔法だ。
《
無数の火の矢が辺り一面に降り注ぐ。
しかし、これも大したダメージは与えられず、ここでベテルギウスの反撃が飛んでくる。
(――速い!!)
ギィーン!!
ベテルギウスの大剣を何とか受け止めるが、その図体から繰り出された剣撃は当然のように重い。そして、速い。
体勢を崩された所へ次なる剣撃が頭上に落ちてくる。
――ブゥンッ!!
「――ッ!!」
俺はそれを間一髪で躱す。
「あっぶねぇ……」
なるほどな。こりゃ強い。
魔法は使ってこないようだが、剣の威力とスピードが尋常じゃない。
これは本気で向かう必要がありそうだ。
俺は剣を背中の鞘に納めると、
上級魔法――
《
掌同士の間に火の玉が発生すると、瞬く間にそれが膨張を始める。
しかし、それを圧縮魔法にて意図的に小さくする。
――ギュウゥゥ!!
小さくなったところで火力の追加注文。
《
再び膨張を始めたところを再び、
《
コレを何度も繰り返し、超高密度な
しかし、ここまでの工程を魔人がおとなしく見守ってくれるはずがない。
なので、ベテルギウスの剣撃を躱しながら両手にある
ブゥンッ!――躱す。
ブゥンッ!ブゥンッ!――躱す、躱す。
ブゥン!ブゥン!ブゥン!
躱して躱して、躱しながら……
《
《
《
《
よし。いい感じだ。
ここまで練り上げればもう充分だろう。
俺は剣撃を掻い潜りながら一気に距離を詰める。
そしてそこから助走をつけ遠投の要領で――
くらえ!!
特級魔法――《
「――らぁッ!!」
「ぐぎぁあああーー!!」
命中した魔人からはもの凄い勢いの火柱が立ち上がり、ベテルギウスは必死に逃れるようと断末魔をあげながら暴れ狂う。
いくら高い防御力を誇ろうとも、この練りに練り上げた超密度の炎の前では平伏すしかない。
そんな極炎に包まれる中、最初は激しく動き回っていたベテルギウスも次第に動きを弱めていき、遂には動かなくなり、最期は崩れ落ちていったのだった。
◎●◎
4階層の巨魔人を倒した俺は前人未到の5階層、いよいよ魔王のいる最上階へと階段を駆け上がる。
一体どんな化け物が待ち受けているのかと、怖気半分、好奇心半分で辿り着いたのは大きな扉。
「遂にラスボスか……」
息を飲み、一呼吸置いてから扉に手を掛ける。
ギィィ……。
まず目に入ったのは正面に設けられた舞台のような高座。
直後、そこに立つ人影に気付く。
その背後はガラス張りになっており、外で光る稲妻が時折りその人影を不気味に照らす。
人影は意外と小さい。
フード付きのローブを羽織り、顔はフードに隠れて見えない。
そして、その手には魔法の杖のようなもの。
こいつが魔王なのか?
ちょっとイメージしていたのとは違うが、状況からしておそらくこいつが魔王で間違いないだろう。
その出立ちからして魔法使いだと思われる。
だとすれば見た目でその力を測るのは難しい。
……まぁ、測るも何も。そもそも〝魔王〟と呼ばれる程の存在――強いに決まってるか。
というわけで最初から全力で行く。
俺は剣を構え、地面を蹴った。
――まずは魔法使い最大の弱点を突く。
接近戦へ持ち込もうと、一気に距離を詰めようとするが、そこは〝魔王〟、そう簡単にさせてくれるはずがない。
迫り来る俺を迎え撃つべく、魔王の持つ杖がこちらへ向いた。
――来る!!
直後、魔王の杖の先から放たれた
なんて事のない初級魔法だ。
俺は駆ける速度を落とす事なく、簡単にその
――弱い。
〝魔王〟と評されるにはあまりに手応えが無さすぎる。
しかし、それが逆に不気味にも思える。
今の攻撃は何かの布石だ。必ず〝魔王〟の片鱗を見せてくるはずだ。
そんな警戒心とは裏腹に、その後も魔王は同じような初級魔法しか撃って来ない。
結局俺は難なく魔王の間合いに入り込む事に成功。
――よし、貰った!!
そして躊躇なく魔王の首目掛けて刃を振る。
「――ッ!!」
瞬間、剣から出た風圧によりフードがはだけ、魔王の顔が露わとなり、それを見た俺は動きをぴたりと止めた。
刃が止まったのは魔王の首元ギリギリの位置だった。
――魔王の顔。
それはあまりにも意外過ぎる顔貌だった。
ミディアムショートの黒髪に澄んだ美しい水色の瞳はこちらを見つめ、その顔つきは少し幼さがありながらも、美しさも同時にある。
見たところ18歳くらいか、もしくは、それにも満たないような少女だ。
信じられない程の美少女――それが魔王を見た俺の感想だった。
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作者より
本日の投稿はここまでです。
明日より、一日一エピソード毎日投稿していきます。投稿時間は12時です。今後とも宜しくお願いします
また、この物語の続きが気になる、面白い、等思いましたら、星やフォローで応援して頂けると創作の励みになります。よろしくお願いします。
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