魔王が美少女過ぎて殺せません!なので、討伐した事にして保護します!〜カヨワイ魔王ちゃんと旅する甘々冒険記〜

毒島かすみ

第1話 転生

 デブ、ブサイク、コミュ障――

 そんな俺が彼女居ない歴=年齢である事は言うまでも無く、ついでに友達もいない。クラスでは常に一人。

 誰とも会話する事なく一日を終えるなんてザラな俺は、正真正銘のボッチである。


 放課後。


 友人同士の楽しそうな笑い声と、恋人同士の幸せそうなやり取りが響く中、


 俺――加藤謙也けんやは今日も一人、家路を辿る。


 別に寂しいとかは思わない。

 こんな見た目で、性格もこんなんではボッチである事は必然で、それが俺に与えられた人生だと、そう理解をしている。


 人生17年、ずっとそうだった。

 だからもう慣れたのだ。

 俺にとっての〝当たり前〟だ。


 だから、寂しいなんて思わない……。


『――嘘でしょ?本当は辛いんでしょ?寂しいんでしょ?だったら、もうこんな人生やめちゃいましょう』


「え?」


 突然、どこからともなく聞こえてきた女性の声。

 その直後、世界が一変した。



 ◎●◎



 それは一瞬の出来事だった。


 夕陽に照らされていたオレンジ色の世界は白く塗り潰され、何も無い真っ白な世界へと変わった。

 

 そして、気が付けば俺の目の前には一人の女性が立っていて、こちらへ微笑みを向けていた。

 

 20代半ばくらいだろうか?

 白い装束を身にまとった彼女は、絹のように美しい金髪を腰の辺りまで伸ばした綺麗な女性だった。


 何が起きたのか全く分からない。

 この女性は一体何なのか……。


 状況に理解が追いつかず、ただただ固まっている俺へ女性が歩み寄ってくる。


「あなたは?」

 

「私は神です。あなたの人生、辛かったですね。でも、もう大丈夫です。あなたのこの人生はここで終わりです」


 『人生の終わり』そんな、普通ならば戦慄を覚えるような言葉も不思議と恐怖心は起きず、むしろ平常心、心地良さすら感じる。彼女が神だと言う事もすんなりと入ってきた。


 そして、俺の目の前までやって来た自称神を名乗る女性は俺を優しく抱き締めると、


「今、私があなたを、殺してあげますから――」


 その声を最後に、俺の意識は途絶えたのだった。


 


 ◎●◎




「……っは!」


 飛び起きるように目覚めた先は見知らぬ部屋だった。


 豪奢な装飾品が所狭しと飾られた、まるで中世ヨーロッパの貴族を思わせる部屋だ。


「ここは一体どこだ? そして俺は確か……」


 ――そうだ。俺は確か女の神様、いや、もはや〝女神〟と言った方がしっくりくるか。


 そして俺はその女神に、


 『私があなたを、殺してあげますから――』

 

「俺はまさか、あの女神に……殺された、のか?」


 仮に死んだと仮定して、じゃあここは一体どこだ?

 ひょっとしてここが〝あの世〟という場所なのか?


 丁度そう思い至った時に違和感に気付く。


「これは……俺の手……じゃないよな?」


 あんなに太かった指が何故か細い。

 さらに腕も、まるで自分のものではないかのような筋肉質で鍛え抜かれた腕をしている。

 そして、腹部も、あんなにでっぷりと脂肪を蓄えていたはずなのに今はすっきりとしている。


 ふと、近くに姿見があるのに気付いた俺は慌ててその前に立つ――


「何じゃこりゃ!?」


 そこに映っていたのは見知らぬイケメンだった。


 短く爽やかに整えられた銀髪。

 翡翠色の瞳はこちらを見つめ、驚いたように見開いている。

 年齢は俺よりも少し上?20歳くらいだろうか?

 とにかくイケメンだ。男の俺から見てもうっとりしてしまうほどの〝超〟が付くほどのイケメンだ。

 

 そして、俺の意識する動きと完全一致する彼の挙動。


 にわかには信じ難い事が起こっているようだ……。


 まさか……そんな事が本当に起こり得るのだろうか。


「まさか、転生したのか?俺……」

 

 アニメやラノベでお馴染みの〝異世界転生〟。

 この状況下、そんな事を思い始めたその時だった。


「――ッ!!」


 頭の中へ〝何か〟が雪崩れのように流れ込んでくる。

 

 大量の〝何か〟――いや、これはアレだ。記憶だ。


 走馬灯のような記憶の映像が頭の中で高速再生されながら、俺は激しい頭痛とめまいに襲われる。


 しばらくするとその症状はぴたりと止み、同時に俺は思い出す。


 この異世界世界における自分――エーデル・アストロズのこれまでの人生を。




 ◎●◎




 俺、エーデル・アストロズは、アストロズ男爵家の次男として生まれ、剣と魔法の才覚に恵まれた俺は幼少期より魔王討伐の切り札〝勇者〟として鍛錬を積まされてきた。


 そして、よりにもよって今日がその魔王討伐に赴く日。


 俺は今、魔王討伐連合の代表国、イーラン王国の王城にいる。


 もちろんコンディションは最悪だ。肉体的な意味ではなく、精神的な意味で。


 今朝、全てを思い出したばかりで、ただでさえパニック状態にある俺に対して今日の今日魔王討伐へ行け、だなんてあんまりだ。


 しかし周囲は既にお祭り状態。

 結局、俺は成り行くままに魔王城へと出発するしかなかったのだった。




 ◎●◎




 遥か昔より、人族と魔族の争いは長きにわたって続いてきた。

 そんな中、魔族の王――所謂〝魔王〟の討伐は人族にとっての悲願である。


 これまでに幾度となく魔王城へ討伐隊を送ってきたが全て返り討ち。


 50年に一度現れるとされる〝勇者〟の素質を持った者でさえ、魔王討伐には至っていないのが現状だ。

 それどころか誰一人として、魔王が居るとされる魔王城の最上階まで辿り着いた者はいない。

 つまり、誰一人として魔王の姿を目にした者はいない。だが一つだけ、

 魔王の特徴を指し示す言い伝えが残されている。

 その内容は胸の辺りに赤い宝石のような物が埋め込まれている、との事。

 それが、魔王の証との事らしい。


 そして、魔王城の攻略についてだが、至ってシンプルだ。


 下の階層から一つずつ上へと上がって行き、全5階層の踏破が最終目標だ。

 もちろん各階層には魔王軍幹部の手練れ達がそれぞれ割り当てられたフロアで待ち構えている。

 そして階層が上がるにつれて、そこを守る魔族の強さも上がっていくとの事。


 ちなみに、過去の魔王討伐作戦において、最高で3階層までは踏破しているらしい。

 しかし、その次の階層、4階を守る魔族が滅法強いらしく、どんなに強い勇者をもってしても、そこで命を落としてきたらしい。


 まったく、本当に勘弁してもらいたいものだ。

 

 前世では唐突に女神から謎に殺され?

 気付けば転生?――勇者?――魔王討伐?


 何が何だか訳もわからずに、〝歴代最強の勇者〟だのと、担ぎ上げられ、人類の為に命を張れと、あれよあれよと来てしまった魔王城。


「……遂にやって来てしまった……これが魔王城か……」


 夜闇の中に浮かび上がる巨大な要塞。

 時折り鳴る雷が照らす魔王城の外観は如何にもな雰囲気を醸し出し、それだけで俺の心を縮み上がらせる。


 魔王……一体どんな化け物がここに棲みついているというのだろうか……。


 ゴクリと固唾を飲み、魔王城を見上げる俺に討伐隊隊長が声を掛けてきた。


「参りましょう!勇者殿!」


「あ、あぁ……そうだな」


 今世の俺――エーデル・アストロズは〝最強勇者〟として今日まで生きてきた。

 しかしそれはその記憶があるだけで、エーデルとしての人格は感じ取れない。

 〝自分〟としての認識はあくまで前世の加藤謙也。


 つまり、加藤謙也がエーデルの体を乗っ取ったという事だろうか?

 だからこそ恐いのだろう。〝魔王〟たる存在が。


 多分、エーデルの人格であれば怖気づく事はなかった。

 ある意味エーデルも〝自分〟である事からそう思う。ていうか〝勇者〟だしね。


 とはいえ、今更「死にたくないから引き返そう」だなんて言えるわけがない。だから、


 ――えぇい!!もうどうにでもなれ!!

 

 腹を括った俺は他の討伐隊約100人と共に魔王城へと攻め入るのだった。


 ―――――――――――――――――――

作者より


 本日(2024.2.1)は、あともう一エピソード投稿する予定です。19時くらいの投稿予定です。

 また、この物語の続きが気になる、面白い、等思いましたら、星やフォローで応援して頂けると創作の励みになります。よろしくお願いします。

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