第12話 翌日の学校

「なあ、昨日ダンジョンに潜ったんだろ? どんな感じだったんだ?」


 次の日、学校に来てみれば、まだダンジョンに潜れない学生たち、特に男子生徒に囲まれる。

 まだまだ、ゴールデンウィークすらも来ていないこの時期にダンジョンに入れる高校生は、そう多くはない。だから一足先に入った俺たちから情報収集をしようとしているのだろう。こうして、羨ましさが混じったような視線を受けると、早めに生まれたことを、四月に産んでくれた母親に対する感謝の気持ちがより湧いてくる。

 まあ、ダンジョンに関係することで親に感謝するなんて、結構な親不孝者であるような気もするが。こんなにも死が当たり前の世界に喜んで薦めるような親はいまい。


「そうだなあ、こう言っちゃあなんだけど、意外と怖くはないって感じかな。まだ、協会の中の簡単なダンジョンだけに潜っただけだから、俺たちも詳しくはないけどさ」

「なんだよ、二人も一緒に入って、そこに行くのかよ。いきなり難易度高いところに行って一攫千金狙わねえのかよ」

「そうだぜ。あそこは仲間を集めてダンジョンに行けないひとりぼっちのやつが向かう場所だって話だぜ」

「いやいや、死にたくねえし。そんなことで調子に乗って死んだら、アホくさいだろ」

「健人よお、春輝みたいなビビり連れて行くとこうなるってわかってたんだから、オレの誕生日まで待てよなあ」


 なんて、冗談めかして発言している。確かに間違いなく、俺がいるから比較的安全なダンジョンに入ったのは間違いないだろう。特に、考えなしの悠馬を連れていけば二人いるからと難易度をいきなり上げて突入していたに違いない。

 ダンジョンに関しては安全に配慮しながら探索するようなつまらない俺ではなく、やはり危険を冒してでも、より大きなリターンが見込めそうな事に挑戦したがっているであろう、健人に群がる奴らが多かった。

 みんなして、俺だけは特別であり、無様に死に晒すことなどないだろうと確信めいた自信に満ち溢れているし、それがバカでも感じ取れるわけである。

 とはいえ確かに、昨日のダンジョンはあまりにも呆気なく終わった。あれなら一人でも大丈夫だと調子に乗りやすいし、今日の放課後にでも行こうと思っているダンジョンは実際、一人で潜るわけだし。それでも、手に入る情報をほとんどすべてに目を通して、今の実力であっても油断しなければ大怪我しないだろうというところに潜るようにしているのだが。

 それに加えて、その中から、キツネの石像があるという条件まで絞るとかなり難しくはあった。偶々近くに一つだけ見つけることができてホッとしている。

 ダンジョンの情報は個人サイトやまとめサイトから集めるしかなく、公式サイトがあるわけではないのが困りものだが、それでも充分なものは手に入れられたと思う。

 少し、放課後が楽しみな自分がいるのを感じつつ、授業の鐘の音を聞いていた。

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