第10話 換金
すぐに巾着袋の中身を確認してみると、中には石が入っているだけで、臓器は全て空になっていた。せっかく頑張って解体していたのに、全て無駄になった気分だ。そして、さっきの光景が俺が生み出した妄想などではなく、事実であったと、現実に起きていたことなのだとはっきりと理解してしまった。
それならばと、二の腕の噛み跡がどうなったかというと、それは何もなくなっていた。そこだけは助かったかもしれない。突然謎の噛み跡が出来て、説明しようとあそこの存在は言っても信じてもらえなさそうである。というか、何か発言しようとも思ってはいないのだが。
ひとまず、なんでもないかのように換金所へと足を運ぶ。俺の出現に健人が驚いていないことを見るに、時間のズレはなさそうなので、言わなければ絶対にバレない。
換金は個室で行われる。パーティメンバー全員が入り、全体の報酬、つまりは宝箱から出た報酬を計算し、その後個人に分かれて別々で報酬の計算をする。
おかげで、臓器がないことを突っ込まれることがなくて済む。こんな面倒なシステムになっているところを見ると、俺以外にもあのキツネに臓器をパクられた人間がいるのだろう。そもそも個別で換金するようなものなど、大抵はない。解体しないのだから。
それなのに個別で換金する時間があり、それを別々で処理するとは、メンバーになぜか減っている戦利品を突っつかれたくないからという以外考えられなかった。というか、最初に説明を聞いた時、そんなもんかとよく納得出来たものだ。
換金したところ、500円程になった。確かに、解体作業を追加でして、この程度の儲けであるならば、そんなことなどわざわざしたくもないのにすることはないか。ダンジョンの最奥の宝箱から1000円分の価値のものが出てくるのだからな。
「解体までしたのに、肝臓は取らなかったんですね」
「ええ、まあ、流石に肝臓まで手に取る勇気はありませんでした。
「わかりますよ。皆さん最初から臓器まで持ってくることはありませんからね。やっぱり躊躇しちゃうんでしょうね」
そのうちの何人が、俺みたいにキツネに食われたのだろうか。だが、みんなしてそんな言い訳をするおかげで怪しまれることもないわけだ。
「なんか、簡単なダンジョンとはいえこの程度しか儲からないなら、しばらくは一人で潜った方が良さそうじゃないか?」
「大丈夫か? そういうこと言うやつに限って、すぐに死ぬんだぞ」
「そんな危険なダンジョンにいきなり潜ったりしないから平気だろ。二人以上が推奨されるところに行く時には、お前に声をかけるよ」
そう言って、健人はさっさと建物の外へと出てしまった。あれほどダンジョンに入る前までは警戒心というものがあったはずなのに、それが全くと言っていいほどになくなっていた。
何かを隠しているかのようで、少し怪しい。一人じゃないといけないような、何かがあるのかもしれない。まあ、それは俺も同じではあるか。
そして、貸してた装備を返してくれと職員に止められた。少し気恥ずかしく、そそくさと貸し装備所へと駆けていく。
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